Yahoo!ニュース

もし、自分が乗っている特急列車が悪天候のため途中で運転取りやめになったら 【9月6日の体験記】

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

昨今では突然発生した線状降水帯やゲリラ豪雨のため、交通機関が運休となる事態が頻繁に発生しています。

実は昨日9月6日に筆者が乗車しているJRの特急列車が豪雨で突然運休になりました。

そんな場合に皆様方ならどうされますか?

筆者が体験した「乗車記」を記させていただこうと思います。

不幸は突然やってくる

9月6日、午前10時、筆者は新潟駅から上越妙高駅までの特急「しらゆき4号」に乗車しました。

新潟駅発車前の「しらゆき4号」
新潟駅発車前の「しらゆき4号」

筆者が使用した乗車券と特急券
筆者が使用した乗車券と特急券

列車は10:21定刻に新潟駅を発車。

特に問題もなく順調に走っていました。

雨もほとんど降っていない状況です。

ところが、長岡駅の一つ手前の見附駅に停車をして動かなくなりました。

見附駅で停車中の特急の車内から
見附駅で停車中の特急の車内から

通常は30秒程度の停車ですが、数分経過しても動きません。

そのうち車内アナウンスで「次の停車駅の長岡駅で、大雨によりダイヤが乱れており、ホームに列車がすべて止まっています。この列車はしばらく停車いたします。」

確かに先ほどから雨が降り出してはいましたが、大雨というほどでもありません。

見附-長岡間は10kmほど。

この先、そんなに雨が降っているのか。

やがて列車は動き出します。

見附駅で10数分停車していました。

筆者は嫌な予感がしましたのでスマホで交通情報をチェック。

すると信越本線の長岡-柏崎間が大雨のため運転中止。

特急「しらゆき」は上下列車とも運休。

とあるではないですか。

嫌な予感的中です。

ほどなく車内アナウンスで、「この列車は次の長岡駅で運転を打ち切ります。今後のお取り扱いにつきましては駅の係員が対応します。」というご案内。

目的地の上越妙高に到着後、午後一番で会議があったのですが、この時点でその会議をあきらめて会社に連絡をしました。

列車は11時半に長岡に到着して運転打ち切りとなりました。

長岡駅に到着し、乗客全員が下車した「しらゆき4号」
長岡駅に到着し、乗客全員が下車した「しらゆき4号」

改札階に上がるとすでに長蛇の列。

これではどれだけ時間がかかるかわかりませんので、ちょっとうんざりしました。

ところが、若い駅員さんが3~4人出てきて、列に並んでいるお客様を次から次へ対応していきます。

こういう時は、先を急ぐ方、旅行を取りやめられる方、コースを変更する方など、お客様は様々な事情を抱えて困っているわけですが、駅員さんたちはテキパキと対応していきます。

「さすが、新潟県を代表する駅の一つ、長岡駅だな。うちの会社も見習わないと。」と思いつつ、興味深く対応する姿を見ているとやがて自分の番。

「12時半にバスを用意しました。上越妙高まではバス手配でのご案内となりますが、よろしいでしょうか。」

と駅員さん。

このバス手配というのはいわゆる「代行バス」ではなくて「救済手配」。

この時は信越本線の長岡-柏崎間が豪雨で雨量計が規定値を超えたための運休ですが、そういう場合、鉄道会社は不通となる区間の乗車券類の販売を停止します。

「救済手配」というのは、すでに旅行を開始されているお客様の便宜を図るためのものです。

これに対し「代行バス」というのは不通区間の列車に代わってバスにて輸送を行うことで、この場合は不通区間は開通したものとみなして、乗車券類の発売を再開します。

つまり、救済手配のバスは、すでに乗車券類をお持ちのお客様に限って乗車できるバスで、これから切符を買って不通区間を利用しようというお客様は乗ることができません。

この時のJRは特急「しらゆき4号」のお客様救済のために、長岡から途中停車駅を経由して終点の上越妙高までお客様を輸送するという契約を、列車ではなく、バスを使って実行するという手配になります。

当然、バスは時間がかかりますから、特急列車のお客様に対しては特急料金は払い戻し扱いとされ、目的地までの乗車券で運んでもらえるということになります。

救済バスに乗車したくない場合は

筆者は基本的にバスという乗り物はあまり好きではありません。

まして、道路の状況がどうなっているかもわかりませんし、バスは途中の停車駅にも寄って行きますから、どれだけ時間がかかるかもわかりません。

そこで、筆者は「バスは苦手なので乗りたくありません。」と申し出ました。

対応を待っている間に、上越線、飯山線、北越急行線経由で上越妙高まで行く迂回ルートを見つけていましたので、その旨を申し出ました。

すると、手持ちの特急券に払い戻しのための証明を記入していただきました。

これで1年以内であればJR東日本のどの駅でも払い戻し対応ができるとのこと。

ただし、迂回ルートの中にある北越急行線はJRとは別の会社になりますので、その区間の乗車券は別途購入が必要とのことでした。

通常、不通区間が発生した場合には、迂回ルートは振替乗車扱いとなり、今持っている乗車券でそのまま乗車することができますが、今回は鉄道会社が「救済バス」を用意してくれているにもかかわらず、乗客の側が「バスには乗りたくない」という理由での迂回ルートとなりますので、振替乗車扱いにはなりません。

ということで、北越急行線区間は別途乗車券が必要だということを了承して、筆者はバスへ向かう皆様方とは別れ、ここから別行動とさせていただきました。

楽しもうという姿勢を持ってみた

こういう時はお天気が相手ですからじたばたしても始まりません。

まして、見知らぬ土地です。

午後一番の会議への出席はすでにあきらめましたので、気持ちも落ち着いてきました。

だったら、こういう状況を少しでも楽しんだ方がいいではないですか。

そう考えて、筆者は長岡駅を12:34に出る上越線の越後湯沢行に乗車しました。

車内で天候情報を確認すると上越地域に大雨予報が出ていて、信越線が走る海岸沿いには土砂災害の警戒が出ています。

いや、これは大変なことになりそうだな。

そう思いながら上越線の電車を越後川口駅で下車。

飯山線の戸狩野沢温泉行に乗り換えました。

1両のディーゼルカーが雨の中を走ります。

新潟県には住んでいますが、飯山線のこの区間に乗るのは何十年ぶりだろう。

などと考えながらの乗車。

こうなってくると完全に旅モードです。

13:40、飯山線の列車を十日町で下車。

北越急行の電車まで時間がありましたので、駅員さんに事情を話して改札口から出していただき、駅前でお昼ご飯を済ませました。

海岸線は大雨のようですが、飯山は小降りになっていました。

15:10、北越急行の直江津行は定刻に発車。

振替乗車ではありませんので、北越急行線の十日町-犀潟間は別途乗車券を購入です。

最近では天候の急変や他の災害などで乗車している列車が突然運休となることが多く発生しています。

筆者は上越市と東京を頻繁に往復していることもあり、いつ何時、乗っている列車が途中で停車してしまい、車内で缶詰めになっても大丈夫なように、乗車前に必ず飲料水と日持ちがする食料を持って乗ることにしています。

この時も新潟を出る前に「念のために」と思ってお菓子類を購入しておきましたが、使うことなく終了しました。

北越急行の列車はすでに雨が上がった頸城(くびき)平野の中を走り、16:02定刻に直江津駅に到着。

2分の接続で隣のホームから出るえちごトキめき鉄道妙高はねうまラインの新井行電車に乗り換えました。

そして、16:20、予定より約4時間遅れて目的地である上越妙高に到着いたしました。

鉄道会社の案内に従うのが第一、そして自分で判断する。

今回は救済のためのバスがかなり早い段階で手配されていました。

お客様も大きなトラブルもなく、スムーズにバスへ移動されていました。

もちろん目的地への到着は予定よりも遅れますが、輸送という責任については鉄道会社としては最善の手を尽くしたと考えられます。

筆者の場合は、「バスには乗りたくない」という自分の意志で鉄道会社からのオファーを断ったことになりますから、その場合は北越急行線区間の運賃は自分で払うということになりますね。

本当は上越線ー飯山線という迂回乗車も認められるかどうか微妙なところではありますが、「同じ会社内であれば」ということで便宜を図ってもらったと考えられます。

このような運休に遭遇したら、まずは鉄道会社がどのような手配を取ってくれるか、ある程度時間はかかりますが、その確認をすることがまず第一だと考えます。

ただし、宿泊を伴いそうな場合や、迂回ルートの列車が限られている場合などは、会社側からの指示を待たずに自分から手配することも必要でしょう。

実は筆者は8月に2度、乗車予定だった中央西線の特急「しなの」の運休に遭遇しましたが、終日運休というアナウンスを聞いて、さっさと自分でホテルを手配したり、あるいは迂回ルートの特急列車の指定席券を確保しました。

この時は会社の出張で同伴者がいたことが早めに行動した理由ですが、ホテルの部屋が限られていたり、指定席が残り少ない場合などは、まず自分の居場所を確保することが先決ですから、状況を見て判断するしかありません。

もちろん、その場合、自分で手配したホテル代や迂回ルートの指定券などは自分の持ち出しになりますが、航空会社と違って鉄道会社はホテルを用意してくれることなどはまずありません。

ニュースでも見られるようにホームに車両を停車させて「列車ホテル」として提供するのがせいぜいですから、ご家族連れの旅行の場合などは、さっさと意思決定して自分で行動するしかないと思います。

今回の場合、筆者は一人旅であったこと。予定を早々とキャンセルして精神的余裕ができたことから、「どうせなら楽しもう」という精神で、鉄道会社が用意したバスには乗車せずに、迂回乗車をやってみたのです。

まだこれから台風のシーズンです。

自分の身は自分で守ること。

これは旅行の基本です。

皆様方のご旅行の安全を祈念しております。

※本文中に使用した写真はすべて筆者撮影のものです。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

鳥塚亮の最近の記事