デモ隊に手りゅう弾、犬用ケージに拘束―日本のメガバンク3行が加担する北米パイプライン、投資引き上げを
先住民族や周辺住民の水源を汚染する恐れがあるとして、国際的に問題となっている、米国ノースダコタ州で建設中のダコタ・アクセス・パイプライン。このパイプラインに、日本のメガバンク3行(みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行)も多額の資金を投資している。日本国内でも、このパイプラインからの投資撤退を3行に求める署名が1万1356筆集まり、先週17日、署名を集めた市民有志らが3行に面会を求めた。
○ダコタ・アクセス・パイプラインとは
ダコタ・アクセス・パイプラインとは、米国企業「エナジー・トランスファー・パートナーズ」が、ノースダコタ州からイリノイ州までをつなぐ約1886キロメートルのパイプラインを建設するプロジェクト。だが、この計画は、米国先住民族の一つスタンディングロック・スー族にとっての唯一の水源に深刻な悪影響を及ぼす恐れがある。ダコタ・アクセス・パイプライン事業の株式を49%保有するカナダエンブリッジ社は、北米各地で804回もの石油流出事故を起こしており、今回の計画により、飲み水が汚染されたり、魚が捕れなくなるのではないか、とスー族の人々は懸念しているのだ。さらに、パイプラインはミズーリ川の下を通るため、スー族のみならず、周辺1700万人への水の供給にも悪影響が及ぶ恐れもある。こうした懸念から、スー族や彼らに賛同する人々が、連日、デモなどの抗議活動を行い、オバマ政権も、昨年12月にプロジェクトを一時停止した。だが、トランプ政権になった今年1月、パイプラインを推進する大統領令が発令されたため、スー族や周辺住民からは、不安や憤りの声が高まっている。
○日本のメガバンク3行がパイプラインに投資
ダコタ・アクセス・パイプライン建設で、重要なカギを握るのが、日本のメガバンク3行の動向だ。同パイプラインの総工費はおよそ4300億円前後であり、これに対してみずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行の投資を合わせた総額は、約1740億円にも上る。つまり、日本のメガバンクは、スー族の命運を左右する力があるともいえるのだ。そのため、日本でも有志の個人らが、昨年からネット上で署名集めを開始。わずか2か月ほどで1万1356筆を集めた彼らは、先週17日、メガバンク3行に面会を求めた。
署名「日本の大手銀行:人権侵害と環境破壊に配慮し、DAPLへの資金提供を打ち切ってください!」
署名を提出しに行った有志の一人で、日本の北方先住民族アイヌである島田あけみさんは、「水は命。水はアイヌにとっても、すべての生き物が生きていく上で必要なものです。同じ先住民族として、スー族の方々の直面する問題に胸が痛む。日本の銀行にはダコタ・アクセス・パイプラインへの投資から撤退してもらいたいです」と語る。
だが、メガバンク3行の対応は、「署名を受け取っただけ」と、署名を提出した有志の一人である男性(匿名希望)はいう。「面会に応じてくれたのは良いのですが、それだけ。今後どのような対応をするかも、全く説明がありませんでした」(同)。
○メガバンク側の対応は?
筆者は、メガバンク3行に、ダコタ・アクセス・パイプラインによって起こりうる環境や現地社会の影響についてどのように評価してきたのか、署名へどう対応するのか、などを問い合わせた。
みずほ銀行によると、同行の米国支社が、オバマ政権による事業の一時停止と、トランプ政権の大統領令の際に、二度、声明を出している。1度目は、昨年12月のオバマ政権による事業の一時停止を受けてのもので、要約すると「みずほ銀行は積極的に本事業を監視している」「部族政府や環境、人権の専門家からの助言を得ている」「みずほ銀行は、関係する全ての関係者が協力して安全で敬意を表する対話を続けていくことを奨励する」というもの。2度目の声明は、トランプ政権の決定を受けてのもので、要約すると「全ての関係者が協調して安全で敬意を表する対話を続けていくよう、引き続き尽くしている」というもの。ただし、具体的にどのような働きかけを事業者にしているのか、それを事業者が守らない場合についての説明は、みずほ銀行からは得られなかった。
三菱東京UFJ銀行の回答は、次の通り。「弊社は大規模プロジェクト融資決定や融資方法の検討に際して、気候変動、生物多様性、人権を考慮しています。環境、コミュニティ、気候に対する重大な影響は可能な限り最小化されなければなりません。顧客の機密保持のため個別プロジェクトに対する見解を表明することはできませんが、ダコタ・アクセス・パイプラインに関して受領したメッセージは全て精査し、署名のリストにも全て目を通させていただきます」。
そして、三井住友銀行の回答は「個別の案件については回答を差し控えさせていただく」というものだけだった。
○デモ隊に手りゅう弾が使われ重傷のケースも
みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行の回答を鵜呑みにするにしても、やはり現地の状況に対し、危機感がないと言わざるを得ない。スー族や彼らを支持する人々は、非暴力による抗議行動を続けているにもかかわらず、州兵や警察、そして民間警備会社などによる弾圧は非常に激しいものがある。オランダに拠点を置くNGO「バンク・トラック」が、金融の社会的責任についての国際組織で、みずほ銀行や三菱東京UFJ銀行も加盟する「エクレータ―協会」への交換書簡で訴えたところによると、非致死性銃弾や衝撃手榴弾(爆発時に破片が飛び散らず、爆破の衝撃で相手を損耗させる手榴弾)などがデモ参加者に無差別に使われ、対人攻撃用に訓練された犬がけしかけられたりしており、何人も重傷者が出ているのだという。中には衝撃手榴弾により、片腕を切断する程の大けがを負った人さえいるという。
昨年10月、現地を訪れ、今回の三行への申し入れにも参加した青木はるかさんも「奮い立っているとは言え、抗議している人々は生身の人間です」と、パイプライン建設側の暴力で傷つくデモ参加者の状況を訴える。「警察たちは、デモ隊に対してゴム弾を撃ってきてました。そのため、私の友人は片目をほぼ失明してしまいました」。ゴム弾とは銃弾の先端がゴム製か、あるいは金属部分をゴムで覆ったもので、通常の弾丸に比べれば、殺傷力は低いものの、銃から撃ち出される以上、相当の威力がある。当たり所が悪ければ、青木さんのいうように、障害も残る大けがを負う。拘束された人々の扱いも酷い。前出のバンク・トラックによれば「裸のまま拘束されたり、食べ物や防寒具を与えれられないまま犬用のケージに閉じ込められたりした」との被害もあったとされ、国連もこうした過剰な暴力や人権侵害に対し調査を開始した。
青木さんは帰国後、現地でのパイプライン反対運動を支援する団体「Japan Stands With Standing Rock」を立ち上げた。「日本の銀行が投資している以上、私たちにとっても無関係ではありません。もっと多くの日本の人々にこの問題を知ってもらいたいです」と青木さんは語る。メガバンク3行も、事態の深刻さにもっと危機感を持つべきだろう。
(了)
*現地の写真は、Japan Stands With Standing Rockの提供。無断使用を禁じます。