新型コロナが5類に移行 メリットとデメリットは?
2023年1月20日に、岸田総理は今春にも新型コロナを5類感染症に移行することを発表しました。
大きな節目となるこの5類への移行ですが、必ずしも良いことばかりではありません。
現在の「新型インフルエンザ等感染症」から「5類感染症」に移行すると、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
すでに感染症法上の措置の緩和は進んできている
新型コロナ流行初期には、病原性や感染経路など未知の部分が大きかったことから厳しい対応が行われていました。
例えば、感染者は全例入院し、感染者の隔離期間や濃厚接触者の待機期間も14日間と厳しく設定されていました。
現在は、感染者の入院は原則として重症例に限られており、自宅療養も7日間にまで短縮しています。濃厚接触者の対応も家庭内感染など限られた状況に限定されています。
また、感染者の疫学調査の実施や届け出についても実現可能性などに合わせて緩和が進められてきました。
このように、すでに感染症法上の措置としても緩和が進められてきた中で、今回5類感染症への移行が進められることになりました。
それでは、現在の状況から5類への移行が起こることで、どのようなメリットやデメリットが生じうるのでしょうか?
感染時の自宅療養や濃厚接触時の待機がなくなる
現在は新型コロナと診断された方は、症状の有無にかからわず自宅療養することになっています。
また濃厚接触者も、現在は家庭内等に限定されていますが、最大5日間の自宅待機が必要となっています。
5類感染症になると、自宅療養や待機を要請する法的根拠がなくなるため、濃厚接触者や無症状・軽症の感染者は必ずしも自宅にいる必要がなくなります。
例えば濃厚接触者は、これまで通りに出勤して社会活動を継続することができるようになりますし、個人や勤務先の判断によっては感染者であっても無症状や軽症者は出勤することができるかもしれません(個人的には体調不良者は仕事を休めるような社会が望ましいと思いますが)。
一方で、濃厚接触者や感染者が市中に増えることで感染が広がる可能性があります。
濃厚接触者や感染者の方は、周囲に感染を広げないための感染対策を普段よりもしっかりと行っていただく必要があります。
行政による病床確保・入院調整がなくなる
これまでは各都道府県の自治体や保健所が中心となって、感染症指定医療機関や都道府県が指定した医療機関医療機関に病床確保を求めており、地域における新型コロナ患者の入退院調整を主体となって行ってきました。
5類感染症になると、自治体や保健所が入院調整を行う法的根拠がなくなることから、入院についても診療所や病院の間での調整になると考えられます。
同様に、外来患者の診療も発熱外来で行われてきましたが、こうした縛りもなくなることになります。
これにより、新型コロナの流行以降、逼迫していた保健所の業務が軽減され、これまで犠牲になっていた他の保健所業務への対応が手厚くなる可能性があります。
例えば、保健所でのHIV検査などは新型コロナの流行以降は十分に行えない地域が増えていました。
病院にとっても、新型コロナ患者用の病床がなくなることで、本来の病院ごとの特性に合わせた診療に注力することができるようになります。
例えば、本来は高度医療を提供することが求められている大学病院も新型コロナ診療を行っていましたが、5類になれば本来の使命である高度医療の提供に注力できるようになることが期待されます。
一方で、それぞれの地域で確保されていた新型コロナ用の病床がなくなることで、混乱が生じる可能性があります。
5類になると法的には全ての医療機関で診療ができるようになりますが、確保病床がなくなることで「どの医療機関も診たがらない」ということが起こりえます。
これまで新型コロナ病床を確保していた医療機関は、政府からの補助金が給付されていましたが、5類になりこれがなくなれば積極的に新型コロナ患者の診療を行う医療機関は減る可能性があります。
また、現在新型コロナを診療していない医療機関についても「5類じゃないから」という理由で診療していないというよりは、専門医の不足や医療機関内での感染拡大リスクを考慮してという施設が多いと考えられます。
5類になっても新型コロナという疾患そのものの特性が変わるわけではありませんので、5類になったから直ちに全ての医療機関が新型コロナ患者の診療を行うようになるとは考えにくいでしょう。
他にもホテル療養がなくなることで、新型コロナ患者の受け皿が減るなどの事態も懸念されます。
このように、5類に移行するにあたって、医療を必要とする新型コロナ患者の受け皿が適切に提供される体制が維持されるのかについては、事前にしっかりと調整をする必要があると考えられます。
公費負担でなくなる
現在、検査、治療、入院など新型コロナに関する医療費は公費で賄われています。
新型コロナが5類になると、他の5類感染症のように公費負担でなくなるのか、というのも議論されているポイントです。
公費でなくなることのメリットは、一般市民にとっては感じにくいところではありますが、検査や治療の適正化が進むことは期待されます。
現在も、不必要に検査が行われていたり、過剰に治療薬が処方されている場面も少なくありません。
新型コロナの治療薬は、例えばモルヌピラビルという抗ウイルス薬は1回の治療分で94,312円になります。
重症化リスクが高い方に処方することで、重症化を予防することができる治療薬ではありませんが、必ずしも必要ではない患者さんに処方されていたり、公費だからということもあり自己判断で最後まで内服されずに廃棄されていたりという場面も見られます。
公費でなくなれば、必要性が高い事例に検査や治療が行われることが多くなり、検査や治療の適正化が起こるかもしれません。
一方で、デメリットとしては、新型コロナに罹患した際の自己負担が増えることです。
検査費用も決して安くないですし、10万円近い治療薬の3割を負担してでも処方を希望する人は減るでしょう。
そうすると、これまでは検査を受けて新型コロナと診断されていた人が、検査を受けずに未診断のまま周囲に感染を広げてしまうことや、これまでは治療薬を処方されて重症化を防げていた人が、処方をためらい重症化してしまうことが増えてしまうことが懸念されます。
重症化リスクが高く治療薬を必要とする方が、費用のために適切な治療を受けられないということは、医療者としてはできるだけ避けたいところです。
軟着陸のための段階的な移行を
このように、春から急に5類へ移行することで、良い面もあれば、混乱が生じうる面もあります。
新型コロナは「100年に一度のパンデミック」と言われる感染症であり、成立して20年少しの感染症法の枠組みに無理に当てはめようとすると、いろいろと齟齬が生じることが懸念されます。
私個人としては一気に5類に変更するよりも、入院調整や公費負担については段階的に5類に近づけていくという柔軟な対応の方が、前述したような混乱が生じにくいのではないかと思います(すでに公費負担についてはしばらくは維持されることが議論されているようです)。
なお、5類への移行に合わせて屋内でのマスクの着用をやめることが議論されているようですが、屋内でのマスク着用は個々人の感染対策として行うものであり、感染症法の変更とは本来関係がないものであり、別途議論されるべきものです。
また、新型コロナが5類になっても疾患の特性が変わるわけではありません。
これからも感染者や重症者は増えたり減ったりを繰り返すことになりますし、今後新たな変異株が出現し、再び大きな流行が起こる可能性もあります。
5類への移行は、日本にとって大きな節目ではありますが、これで新型コロナの流行が終わるわけでもありませんし、これからは感染対策やワクチン接種をしなくて良いわけでもありません。
むしろ、これまでは感染症法によって維持されていたセーフティーネットがなくなっても新型コロナによる犠牲者が増えないようにするためには、これまで以上に個人個人の感染対策が求められると言っても良いかもしれません。
持続性のある感染症に強い社会を目指して、市民の皆さまにも引き続き流行状況に合わせた感染対策をお願い致します。