コロナ前・利益100億円のJR貨物を、赤字483億円のJR北海道が支える現実 指摘された制度の大矛盾
2024年9月3日、JR北海道が来年4月からの実施を予定している平均7.6%の運賃値上げについて、国の運輸審議会が市民から広く意見を聞く公聴会が札幌市内で開かれ、一般の公述人から厳しい意見が相次いだことについては記事(JR北海道「綿貫社長と島田会長は経営能力を欠いている」 運賃値上げ申請公聴会で相次いだ厳しい意見)で解説した。JR北海道の綿貫社長は運賃値上げについて「物価高騰の中で輸送サービスを維持するため必要」と説明したが、この公聴会に参加し運賃値上げに反対の意見を述べた公述人の1人は、記事(「根室本線の分断廃止は日本鉄道史に残る愚行」 JR北海道・運賃値上げ公聴会で経営姿勢を問題視)で触れたJR北海道の経営姿勢を指摘するだけではなく、JRグループの制度が抱える矛盾についても問題提起を行った。公述内容は国土交通省ホームページでも公開されている。
制度設計の不備にJR北海道は何らの責任もない
この公述人が5年前にも公聴会で意見を述べている。その際に、JR旅客会社6社に大きな経営格差が存在し、JR北海道の値上げのたびにその格差が拡大していること。北海道で生産された農産物の多くが鉄道貨物を通じて全国に運ばれ、その恩恵は全国にあまねく及んでいるにもかかわらず、冬の除雪費用をはじめとする線路維持のための費用を、北海道民のみが日本一高い運賃料金収入を通じて負担していること。国土交通省の指針で定められている「アボイダブル(回避可能)コストルール」により、JR旅客会社6社がJR貨物に対し、貨物列車が走ることにより新たに発生する最低限度の費用以外を請求できないこと。ことため、特に新型コロナ発生前に100億円の利益を上げていたJR貨物を、483億円の赤字を計上しているJR北海道が支えなければならにことが指摘された。しかし、いまだ抜本的な改善は行われていない。
これらはいずれも国鉄分割民営化当時に行われた制度設計によるもので、JR北海道には何らの責任もない。JR北海道ではそうすることもできない不利な外的要因により、北海道民だけが負担を押し付けられる不公平が、この先、いつまで放置され続けるのか。
新しい時代に即した鉄道の役割を議論しなくてもいいのか
大型バスやトラックの運転手が不足し、人も物も運べなくなるといわれる「2024年問題」が注目を集めているのに、全物流に占める鉄道の比率はわずか5%にすぎない。鉄道をもっと物流に活かす道はないのか。世界中からインバウンドが日本に殺到するなかで、観光客と鉄道との共生をはかる手段がもっとあるのではないのか。新しい時代に即した鉄道の役割を議論しないまま、安易に値上げ、減便、廃止でいいのか。
旧国鉄は、1949年6月に発足し、1987年3月まで38年間の歴史だった。JRも1987年4月に発足し、今年で37年目。JRグループ発足から、すでに旧国鉄時代と同じ時間が流れた。日本にとっての鉄道はどのような姿であるべきか、鉄道は誰のために、何を目的として走るのか、再び基本に立ち返って全国民的に議論すべきときを迎えていると考えると主張した。
この公述人が代表を務める市民団体では、2021年1月に、全国JRグループ6社を、旧国鉄時代のように全国1社制に戻すための「日本鉄道公団法案」を発表しているという。最後に、運輸審議会が、運賃値上げを議論する諮問機関の役割にとどまることなく、鉄道を始めとする交通政策、総合交通体系についても議論することによって、新しい時代の公共交通のグランドデザインを描く役割をも担う場として機能していくよう、委員各位にお願いしたいと締めくくった。
(了)