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それでも私たち「タイプA」が頑張る理由

横山信弘経営コラムニスト
全体バランスを考えたら、「タイプA」が頑張らないと……

「タイプA」の性格行動パターンとは?

「タイプA」とは、アメリカの精神科医N.フリードマンとR.ローゼンマンとが発見した性格類型のことです。多くの臨床経験から、以下のような性格行動パターンの人は心筋梗塞などの症状を発症しやすいと言われます。

・強い目標達成意欲

・競争心がある

・早口

・歩くのが速い

・せっかち

・いつも時間に追われている

あくまでもイメージだけで言えば、今年「野心のすすめ」がベストセラーとなった林真理子さん、11月に刑期満了された堀江貴文さんが、わかりやすいモデルだと私は思います。

私は現場に入り込んで、企業の目標を達成させるコンサルタントです。書籍「絶対達成シリーズ」の著者でもありますから、当然のことながら「目標達成意欲」は極めて高いと言っていいでしょう。いつも「目標達成できる人」の謎で書いたとおり、私は目標未達成で終わる恐怖には耐えられません。約束をした以上は守るのが当然。会社であろうが、お客様であろうが、自分自身であろうが、自分で決めたことはやるし、宣言したことはやり切らないと気がすまないのです。

さらにスケジュールが空いていると、すぐに埋めたくなる性格です。コンサルティングの年間スケジュールや、企業、研修機関からの講演依頼によって、ここ数年は、1年近く先までスケジュールが埋まっています。週末もボランティアや趣味のマラソンなどで、何か月も前から余裕がありません。時間的余裕がないため、想定外のことが起こるとすぐに精神的余裕もなくなってしまうことも多いと言えます。

類は友を呼びます。私の周囲もどちらかというと「タイプA」の人が多い気がします。フェイスブックで私の書き込みに「いいね!」をしてくれる方々は、その傾向にある人も多いのではないでしょうか。反対に「タイプA」以外の人は、少し近寄りがたいかもしれません。

知的でも、弱く、消極的な社会の流れ

現在、「草食系」という言葉が広まっています。「男子若者の恋愛観の変化」という本来の意味から離れ、「元気がなく、何事にも消極的で、ささやかな幸せで満足する」といった意味合いで広義に使われるようになりました。私が企業に入り、コンサルティングしていると、お客様のところへ積極的にアプローチできない「草食系営業」、部下に強く言えない「草食系マネジャー」をよく目にするようになりました。

また、高度情報時代となり、社会に「より小さな労力でより大きな成果を求める傾向」が増えたのも事実です。しかし「知的生産性」を求めすぎて「労働的怠惰」になると、「効率化」「合理化」にばかりフォーカスされてしまいます。「効率化」が目的となってしまい、結果的に目標が達成できないという事態に陥るという残念な流れも散見されます。

知的でも、消極的でも、社会・企業が求める成果が手に入れば良いのです。しかしリーマンショック以上、430万社以上ある日本企業の70%以上が赤字に陥っている事実は見逃すことができません。これだけの企業から正しい納税がされなければ、社会基盤が揺らいでも当然です。

このままだと「タイプA」は絶滅の危機が……

どちらかというと「肉食系」に分類される「タイプA」は、この流れをどう受け止めているのでしょうか。ビジネス書のタイトルにも、以下のようなフレーズが並ぶようになりました。

「無理をしなくていい」

「頑張らなくていい」

「自分の好きなことだけやればいい」

「目標は決めないほうがいい」

これらのフレーズは、おそらく「タイプA」のような人たちに向けられる言葉と言えます。あまりにも頑張りすぎるので、体を壊さなくてもいいようにとかけられる言葉ではないのでしょうか。「そんなに無理することはない」「仕事だけが人生じゃない」「これ以上、自分を犠牲にしないで」というメッセージが込められているはずです。

ところが、普段からあまり無理をせず、もっと無理をしたほうがいい人、もっと頑張ったほうがいい人が、これらのフレーズを参考にしていることも多い気がします。ある程度の無理をしないと無理がきかなくなります。頑張るときは頑張らないと結果など出ません。好きなことだけやっていいはずがありません。

試行錯誤を繰り返しながら、苦しくても目標を達成していこうとする気概、経験が、どこで力を抜いてどこで力を入れるべきかの勘所を教えてくれます。だからこそ無理をしなくても結果を出せるようになりますし、明確な目標などなくても、自然体で誰もが驚く成果を手に入れることができるのです。その域に達してはじめて頑張らなくてもよくなるのです。

何事もバランスは大事です。頑張りすぎてもダメ。しかし頑張りすぎない人は頑張らなくてはいけません。

大きな物事を達成しようとしても脳の報酬系(ドーパミン)は分泌しません。ですからモチベーションが上がらない、という人がいるのです。大きな目標を達成させるためには、プロセスを分解して近接目標を作ります。そして小さな単位の目標をひとつひとつ達成させることで作業興奮を味わいます。脳にドーパミンが分泌され幸福感を覚えていきます。仕事や作業を楽しくするコツは、小さな目標を確実に達成させ、成功体験を積み重ねていくことなのです。

要するに、以前は無理だと受け止めていたことをやろうとする努力が大きな果実を得るために必要だということです。「小さな頑張り」の連続が重要なのです。

にもかかわらず、労多くなく成果を手に入れたいという人は心の中に「射幸心」があります。そのせいか「射幸心」を煽るフレーズも高度情報時代になり、多く飛び交っています。

「努力をしないほうが成功する」

「頑張らなくてもうまくいく」

「自分の本当に好きなことだけやれば人生は開ける」

「1%のことを変えるだけでうまくいく」

こういったフレーズです。「頑張らなくていい」だったのが、昨今「頑張らないほうがいい」というニュアンスに変化しています。

何事も成し遂げていないときは、バランス感覚がわかりません。アクセルとブレーキをバランスよく組み合わせて効率よく前へ進んでいくことなど難しいのです。ですからまずは当然アクセルです。無理をするのは嫌だと言って、ブレーキを踏んでばかりいてはいっこうに前へ進みません。実際に車を運転しているわけでもないですから、アクセルを踏みすぎても大事故になることはないでしょう。

どれぐらいアクセルを踏むとどのような問題が起こるのか。そして、どういうタイミングでブレーキを踏めばちょうどいいのかは、頭で覚えるのではなく、体で覚えるもの。成功と失敗を誰かがしてくれるのではなく、自分自身が実践してはじめて「バランス感覚」を体得できるようになるのです。

個人の「バランス感覚」もそうですが、組織における「バランス感覚」も同様でしょう。組織のメンバーが全員「無理しないほうがいい」「頑張らなくてもいい」などという姿勢であれば、成長・発展することはありません。それは日本社会全体にも言えることです。「パワハラ」だの「ブラック企業」だの「自爆営業」だの、行き過ぎた行為に対するバッシングは激しくなるいっぽう。この傾向に委縮する人たちが増えれば増えるほど、「ここは踏ん張ろう」「少しでも無理して乗り切ろう」と考える人が減っていきます。

「タイプA」は社会のバランスを整えるか

「タイプA」の人は攻撃性が強いと言われます。健康な体があり、特殊な事情もないのなら働くのが当然。お金を稼いで経済を潤し、社会に還元するのが普通だと考える「タイプA」も多いことでしょう。辞めないし、頑張りもしない「ぶらさがり社員」や、ニート(NEET)と呼ばれる人たちに攻撃的な感情を覚えるかもしれません。

攻撃性の強い「タイプA」は周囲から「面倒くさい人」とレッテルを張られることも多いでしょう。「そんなに頑張ってるとストレスを抱えるだけだ」「うつ病になるかもしれないよ」と忠告されることもあるはずです。「タイプA」よりも「タイプB(非攻撃的でマイペースに行動する性向の人)」のほうが成功する確率が高いとも言われるわけですから、現在は「タイプA」の人にとって生きづらい時代かもしれません。

しかし、それでも私は「タイプA」に頑張ってもらいたいと願っています。

成果は、人間の性格でつかむものではありません。人間のとった行動プロセスの延長戦上にあるものです。「無理しなくてもいい」「頑張らなくてもいい」という空気が社会全体を覆うと、どのようにしたらうまくいくのか、試行錯誤という「行動プロセス」を省略したがる人が増えるのです。すぐに結果を掴みたがるからです。

ストレスを覚えやすく、心臓病になるリスクも高いと言われても、それでも私たち「タイプA」が頑張らないと、いけないときがあります。成功と失敗を繰り返しながら目標達成へと導く努力を惜しまない「タイプA」の性格が、「タイプA以外」の周囲に良い影響を与えるからです。

「ハッピータイプA」を目指して

とはいえ、「タイプA」は自己犠牲の精神に徹しろ、と主張するわけにはいきません。「がむしゃら」「無我夢中」でもいいですから、「時間の概念」だけは徹底して管理したほうがよいと私は思います。ついつい「タイプA」は時間を忘れて働きすぎる傾向にあります。周囲にそれを強いる「タイプA」もいるかもしれません。目標達成に執着してもよいですが、過剰な労働時間とならないよう、「時間管理」だけはおろそかにしないよう気を付けたいですね。

私もスケジュールは常に埋まっていますが、毎日の「就寝時間」はほぼ決めています。「家族との団らん、映画鑑賞の時間」や「子供たちと一緒にお風呂に入る回数」などを強制的に決め、その通りに動こうとしています。「タイプA」の人は、仕事も趣味もバリバリこなして常に目標を達成し、ストレス抱えず、ずっと健康のままでいられる「ハッピータイプA」を目指したいですね。社会全体のバランスを整えるためにも。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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