「地方」も「女性」も・・しぼむ臨時国会
ヒトラーがワイマール共和国をナチス独裁に変えたやり方は、国民に考える暇を与えない政治手法にあるとブログ「フーテン老人世直し録」に書いた。
次々に新しい組織を立ち上げ、新しいテーマを国民に投げかけ、国民に十分な議論をさせない。国民は国家の根本問題が何なのかが分からなくなり、次第に合理的な判断が出来なくなる。そこで国民の恐怖心を煽る。外敵が国内の勢力と結びついて平和をひっくり返そうとしていると宣伝する。その手法でヒトラーは独裁政権を打ち立てた。
安倍政権も国民に考える暇を与えず、十分な議論をさせない。アベノミクスの「三本の矢」を宣伝して、景気回復が国家の根本問題であるかのように言い、経済に国民の目を向けさせたかと思えば、急に日本版NSC法と特定秘密保護法を強行可決し、それが支持率を低下させると、再び「好循環実現」を看板に掲げて経済に目を向けさせる。
ところが「好循環実現国会」と言いながら、着々と集団的自衛権行使容認の準備を進め、議論すべき国会では「まだ準備中」という理屈で議論しない。そして国会が終わるとすぐに集団的自衛権行使容認を閣議決定した。しかし法案の作成を来年まで先延ばしして議論を本格化させるようにしない。
それに批判が高まるとまたまた国民の目先をそらすため「地方創生」と「女性が輝く社会」を打ち出した。二つのテーマのうち特に「女性」はパフォーマンスに最適である。そのため世界で活躍する女性を集めて会合を開くなど、メディア向けのパフォーマンスを演出し、メディアの目を「女性」に向けさせる。
そのうえで内閣改造を行い5人の女性閣僚を登用したため、改造は「女性」に目が向くニュースばかりになり、それが安倍内閣の支持率を押し上げた。この程度の改造で支持率が上がるなど私には信じられなかったが、それほどに国民は合理的判断が出来ないようになっている事を実感する。
私に言わせれば改造劇のポイントは、石破氏を幹事長から外して谷垣氏を幹事長に据えたところにある。そして谷垣氏を幹事長に据えた事は、この人事案を財務官僚が書いたのではないかと思えるほど消費増税シフトが敷かれた事になる。安倍総理は最後まで「ニュートラル」を装うだろうが、私はこの時点で安倍総理は増税の方向に踏み込んだと思った。
それでは瞬間的に内閣支持率を押し上げた5人の女性閣僚登用は成功だったのか。臨時国会が始まるとそうとは言えなくなる。山谷えり子国家公安委員長は、在日韓国・朝鮮人の排斥を訴えてヘイトスピーチを行う「在特会」や霊感商法で問題になった「統一教会」との関係が問題視され、稲田朋美政調会長や高市早苗総務大臣も極右団体との関係が取りざたされている。
元朝日新聞記者の松島みどり法務大臣にも問題が続発する。まず参議院本会議場に赤いストールを着用して現れ、アントニオ猪木参議院議員がトレードマークの赤いマフラーの着用を禁止されている事から問題になった。そのため本会議は開会が20分遅れた。
次に選挙区でうちわを配ったとして公職選挙法違反ではないかと民主党から追及され、政策ビラだと強弁したが、常人の目にはうちわに見える。また都内に住居を持ちながら警備のためと称して議員宿舎に入居した事も批判され、さらに野党の批判を「雑音」と発言して陳謝に追い込まれた。
高市早苗総務大臣は靖国神社の秋季例大祭への参拝を予定しているが、これには与党の公明党からも批判がある。日本外交は中国と韓国との首脳会談が全く行われないという異常事態にあるが、中国との関係改善に向けて水面下での調整が行われてきた。そうした努力に水を差すと懸念されるからだ。
将来の女性総理候補と言われる小渕優子経済産業大臣は海外からも注目されているが、官僚が振付けた通りの発言を繰り返し、まるで役所の操り人形に見える。それが報道によると選挙区の有権者を観劇に招き、その費用の一部を政治資金から支出したとして公職選挙法違反の可能性を指摘されている。
女性閣僚の輝きに陰りが見え始めた一方、「地方創生」もまったくパッとしない。地方の人口減少を食い止め、東京一極集中を是正するというが、そんなことは昔から散々言われてきた。そして全くそうはならなかった。特に小泉政権の新自由主義経済政策以降、都市と地方の格差は大きくなった。
アベノミクスの成果を地方に波及させると言うが、第一次安倍政権でも「成長を実感に!」というキャッチフレーズで、小泉政権の大企業優遇、大都市優遇の成果を地方に波及させようとして出来なかった。そのため参議院選挙に大敗して無様な退陣劇を演ずることになったのである。
この問題は根本的な統治構造の変革なしに解決などありえない。来年の統一地方選挙用に「やっているフリ」をしてみせるだけの話ではそもそも動機が不純すぎる。本気でこの国の将来を考えているとは到底思えない。看板だけを次々に架け替える手法は国民に国家の根本問題を考えさせる暇を与えず、必ず将来に禍根を残す。
それよりも世界はアベノミクスを「失敗」と評価するようになった。アメリカのローレンス・サマーズ元財務長官は2012年に「アベノミクスを評価するには3年かかる」と言った。良いか悪いかは2015年にならないと分からないと言ったのである。どうやらそれが分かってきたようだ。
アメリカのルー財務長官は先週IMF総会で「日本の財政再建のペースを注意深く調整する必要がある」との発言を行った。増税で経済を失速させるなと言っているように思える。その方がアメリカには利益があるという意味だろう。しかし安倍総理が増税を先延ばしすればその政治的リスクは大きい。安倍おろしが始まる可能性がある。
アメリカには安倍政権などどうでもよい。アメリカの利益になれば誰が総理でも良いと考える国である。安倍政権の弱り目を見てTPPでの譲歩を強く迫ってくると予想される。