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「バーベンハイマー」騒動、ハリウッドのスト、姉グウィネスの現在も語る。新作公開のJ・パルトロウ監督

斉藤博昭映画ジャーナリスト
監督作『6月0日 アイヒマンが処刑された日』のプレミアより。ジェイク・パルトロウ(写真:REX/アフロ)

何かとハリウッドのお騒がせニュースが目立つ2023年の夏。

日本とアメリカの感覚の隔たりが露呈された「バーベンハイマー」の一連の騒動は、ハリウッドの映画人にどう受け止められているのか。映画監督のジェイク・パルトロウに質問をぶつけてみた。名前から察しがつくように、グウィネス・パルトロウの弟。日本では彼の最新監督作『6月0日 アイヒマンが処刑された日』が、9/8に公開される。第二次大戦下、ユダヤ人を強制収容所に送り込み、命を奪う計画を立案したナチスのアドルフ・アイヒマン。世紀の戦犯がイスラエルで処刑され、火葬されるまでの一部始終をパルトロウ監督。は独自のアプローチで描いた。

戦争のひとつの側面を描いた監督として、「バーベンハイマー」の延長で、バービーと原爆のファンアートが広まり、それに対して日本で大きな波紋が起こったことをどう考えるのか。パルトロウ監督は、同業の当事者のことを慮る。

「映画監督の立場から言わせてもらえれば、今回のファンアートのようなイメージで映画が宣伝されたいと思う作り手は一人もいない。そう信じています。映画監督は、この種の物議をかもすかもしれないトピックには非常に気を遣うからです。『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーランも、『バービー』のグレタ・ガーウィグも、絶対にそうでしょう。バービーと原爆のイメージを何も考えずに合成する人は、その影響を考えることなんて一切していないはず。とても心が痛いです」

同時に、この流れは現代社会では避けられないものであると、パルトロウ監督は続ける。

「粗雑な仕上がりながら、人々に影響を与える今回のようなミーム。それが存在する世界に僕たちは暮らしていることを改めて実感しました。今回の一連の騒動を、僕は細かく把握しているわけではありませんが、力を持つ映画会社が受け入れがたい表現に対し、声高に反対を表明し、しかるべき謝罪をすること。それを誠実な方法でやっていけば、今回のような“適当”で“思いつきだけ”のアートを作る側にも、少しは届くかもしれない。そこにわずかな希望を抱いています」

そしてもうひとつのトピック、全米脚本家組合(WGA)と映画俳優組合とテレビ・ラジオ芸術家連盟(SAG-AFTRA)の長引くストライキについても、パルトロウ監督は「バーベンハイマー」を絡めて、次のように語り始めた。

「現在、アメリカの映画館は『バービー』と『オッペンハイマー』などでとても賑わっています。コロナのパンデミックを経験した後、人々が“映画館で映画を観たい”という欲求がこれまで以上に高まり、渇望感が如実に表れた現象ではないでしょうか。このような状況をふまえれば、脚本家や俳優たちからの要求は、業界の現状の問題を具体的に反映していると感じます。とくに問題になっているのが配信系(Netflixでの俳優のギャラ問題)で今のような契約が続けば、結局、劇場映画に比べ、それらの作品は低い価値として見られてしまうはずですから」

自身も脚本を書くパルトロウ監督は、やはりAIに対する危機感についても、ストライキでの要求に共感している。

「われわれが観たい作品は、人間がゼロから作り上げたものです。AIに対する今回の組合の要求は、スタジオ側が受け入れるべきだと、僕は支持します。業界全体の急速な変化を見てきたすべての人にとって、今は非常に苦痛を伴う時間になりました。だからこそ、みんなでその苦痛を乗り越える必要があるのです」

インタビューの最後に、姉のグウィネス・パルトロウのことを聞いてみた。ここ数年、俳優としての活動は限定的なグウィネス。独自の健康法やライフスタイルを提唱する企業、そのCEOとしての活動がメインになってしまったようだが……。

「僕ら家族は、ありがたいことに仲の良さは自慢できます。現在のグウィネスは会社一筋の生活を送っており、もちろんその会社での成功は尊敬値しますが、僕は兄として俳優業への復帰を猛烈にプッシュしています。何と言っても、彼女が演技をしているのを見るのが好きなんですよ。グウィネスは僕の長編監督1作目(『恋愛上手になるために』)に出演してくれましたし、もう一度、一緒に仕事をしたいと切望しています。なんとか僕の希望を叶えたいのですが……」

『6月0日 アイヒマンが処刑された日』を観れば、ジェイク・パルトロウ監督の確かな手腕を実感できるはず。オスカー俳優のグウィネス・パルトロウとの“姉弟”共作を、観てみたくなるのは必然だろう。

『6月0日 アイヒマンが処刑された日』

9月8日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

(c) THE OVEN FILM PRODUCTION LIMITED PARTERNSHIP

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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