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中島哲也監督の新作、6月の公開が発表され、一部で波紋を広げていることについて #専門家のまとめ

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2014年の『渇き。』で舞台挨拶する中島哲也監督(写真:アフロ)

『下妻物語』が高評価を受け、その後も『嫌われ松子の一生』『告白』などを手がけてきた中島哲也監督の7年ぶりの新作『時には懺悔を』が6月に公開されるニュースが、1月1日の0時、各メディアに流れた。キャストも日本映画を代表する豪華な面々。しかし直後から公開に対して批判の声が出始め、ニュースで報じたメディアのコメント欄にもかなり厳しいものが目立つ。2014年の中島作品『渇き。』に出演した元女優による、撮影現場で起こったことへの訴えに加え、それに対する監督側からの回答が今もなされていないからだ。

ココがポイント

「時には懺悔を」が、6月に公開されるとわかった。同作では西島秀俊が主演を務め、満島ひかりと初共演を飾る。
出典:映画ナタリー 2025/1/1(水)

映画業界における性加害は、昨今大きな問題(中略)そのなかで、決死の告発をおこなったのが、中島監督の作品に出演したA子さん
出典:SmartFLASH 2025/1/3(金)

中島監督は何らかの声明を出すべきとの要望

途中で帰ったんです。生まれてはじめて。本当に涙が止まらなくて、演技どころじゃなくなってしまったので
出典:マイナビニュース 2015/1/24(土)

エキスパートの補足・見解

ここ数年、映画業界での様々なハラスメントが取り沙汰され、その流れで『嫌われ松子』の中谷美紀の話が再注目を浴びたりした。かつて「演技者として殻を破る」と美談とされた巨匠たちの演出や指導も、今は受ける側の痛手の重大さが認識されるようになった。そこへきて2022年、『渇き。』でのA子さんの訴えが報じられた。改めて彼女のnoteを読む限り、売名行為や言いがかりで書かれたものではないことを実感する。この問題はくすぶった状態のまま現在に至り、『渇き。』は配信で観ることができない。

ただ冷静に考えれば……この状況は映画業界で周知の事実であり、そうした中で中島監督の新作にこれだけの一流キャストが参加している。ということは俳優の事務所も含め、事実関係で「問題なし」と判断できたからだろう。『渇き。』の該当シーンに出ている役所広司、同業者で社会意識の高い塚本晋也も出演したのは、「確固たる理由」があるからではないか。製作側も公開発表による多少の炎上は覚悟していたはずで、今後、多くの人が容認・納得できる説明が良きタイミングでなされるに違いない。問題がくすぶったままでは公開自体も危うくなる…というのは考えすぎか?

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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