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「雑」を見直し? 早稲田大学・殊勲の宮尾昌典が日本一奪還へ改めた「考え」【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
勝負強さを発揮(写真:松尾/アフロスポーツ)

 ラグビーの大学選手権準決勝計2試合が1月2日、東京・国立競技場であり、史上最多となる16度の優勝を誇る早稲田大学(早大)が、京都産業大学(京産大)に34―33と辛勝した。

 8日に同じ会場である決勝戦では、2年連続11回目の頂点が期待される帝京大学(帝京大)とぶつかる。殊勲の宮尾昌典が意気込んだ。

「自分たちが決勝までにいいマインドセットをして、チャレンジャー精神で80分間、頑張ります」

 身長165センチ、体重70キロの2年生スクラムハーフは、パスと判断のスピードに定評がある。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——京産大はどうだったか。

「強かったっす。留学生が強すぎた! 思ったより、留学生がでかかったです。今日は留学生が無茶苦茶、強く、勢い、チーム全体の雰囲気は、準決勝にふさわしいような対戦相手というか。僕たちが気を抜くのが怖いポイントだったので、相手がどういう感じで来るのかを分析して、覚悟して、気持ちを作り切れたのがよかったと思います」

——相手校には、出身の京都成章高校の先輩や同級生が揃っていました。

「あんまり気にしてなかったです。頑張ってるなぁ、と」

——試合中、相手の守り方を受けて攻撃にどんな手を加えたか。

「サインがいろいろあるんで、相手の動きによってプランを変更することはあった」

——時間を重ねるごとにフォワードの選手がタックルを正面から食らわない場面も増えてきたような。

「僕からは指示は出してない。フォワード同士でコミュニケーションを取り、それにひっかからないようなラインを作ったというのはあるかと思います」

 苦戦した。初の決勝進出へ9度目のセミファイナルとなる京産大に、テンポを鈍らされた。特に試合序盤は、大外まで振った球を中央方向へ折り返すところが何度も狙い撃ちに遭った。

 宮尾の言葉通り、攻めの陣形や方向には適宜、微修正を加えた。それでもミスは重なり、苦戦は続いた。

 

 うまく事の運べない接戦をものにしたのは、要所で作った混とん状態からスコアをもぎ取ったためだ。ここで魅したのが、宮尾だった。

 3―10と7点差を追う前半26分、京産大が中盤にふわりと浮かせたキックを早大のスタンドオフ、伊藤大祐が左前方へ蹴り返す。弾道の転がった敵陣中盤に防御ラインを作ると、左中間でタックルしたフランカーの相良昌彦がそのままカウンターラックに入る。

 早大側に球が見えると、接点に駆け寄っていた宮尾がそれを拾い上げて狭い区画へラン。2人いる防御のうち1人をひきつけ、左側に2対1と数的優位を作った味方へパス。最初にバトンを受け継いだナンバーエイト、村田陣伍がそのままトライを決めた。

 直後のゴール成功で、10―10と追いついた。

 宮尾の述懐。

「ああいう状況(攻守逆転)になったらあそこが空くのはわかっていた。相手(防御が)、2枚やったんで。空いてるなぁって。大体、空いてくるスペースがわかるんで、しっかり相手を見て、空いていなかったら違う選択をする」

 17―23と6点差を追う後半14分には、自陣の深い位置からの連続攻撃で左端の隙間を攻略。抜け出したウイングの松下怜央を、右側から宮尾がサポート。加速。迫るタックラーをステップでかわし、追っ手も振り切りインゴールエリア中央にダイブした。

 直後のゴール成功で24―23。

 興味深い視点を示すのは、就任2年目の大田尾竜彦監督だ。

 宮尾はルーキーだった昨季からレギュラーに定着も、今季の序盤はやや停滞していた。向こう約1か月間、試合のメンバーから外れた。今季中盤の復活までの道のりを踏まえ、今度のトライシーンについて深く掘り下げた。

「(宮尾の成長した点は)反応のスピードですかね。チャンス、ピンチと思った時の。あとは、去年の彼が色んなところで痛感した反省点を思い出したのかなと。最後のトライのところ、すごく丁寧にグラウンディングしていた。去年はあの辺が雑で。もう1回、自分のなかであれ(基本プレー)を大事なこととして捉え、復調している感覚はあります」

 ちなみに大田尾は、ただ宮尾を突き放すだけではなかった。

 雌伏期間自身の伝手でリーグワンのクラブの練習へ参加させ、リフレッシュを促した。関係者によると、今度の練習参加がリクルーティングに繋がる可能性はさほど高くない。

 宮尾は続ける。

——雌伏の時。

「プレー選択をする上での考えを改めた、変えてみた、というのはあると思います。前よりも周りを見るようにしました。その分、(全体が)見やすくなったし、姜もボールをスペースに運べるようになった。それもひとつの成長かなと。

 大体、味方の誰がどこを狙っているか、スタンドオフがどこにボールを運びたいか、そういう意思疎通ができてきた。空いているスペースにどう攻めるかは、ハーフ団(コンビを組むスタンドオフ)、センター、バックス陣がリードしてくれるので、ハーフとしてもやりやすい」

——いまは自信に満ちているのか。

「毎試合、毎試合がベストゲームではない。今日も勝って反省するところがたくさんありました。『よっしゃ!』と燃え尽きる感じはなくて、勝った瞬間も『俺、あかんかったわ』と反省点が出る。それが、自信にもつながっていくと思います」

 宮尾が取材に応じていた頃、準決勝のもう1試合がおこなわれていた。帝京大学が筑波大学を71―5で下したのはその数十分後のことだ。

 宮尾は、決勝への意気込みをこう語っていた。

「楽しみです。どっちが来ても、関係ない。自分たちが決勝までにいいマインドセットをして、チャレンジャー精神で80分間、頑張ります。

 身体、当てるだけじゃないですかね、まずは。今日も結局、留学生にイかれている。そこを止めていかないと、帝京大学も、筑波大学も強いチーム。ひとりひとりが引かずに、自分たちの強みを最大限に活かしていくしかない」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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