大人は嘘つきか?忘れているだけか?
「生活発表会」というものがある。学習成果と園児たちの成長ぶりを保護者などに見てもらう目的で年に一度、幼稚園などで実施される。そこでは園児による演劇や歌などが披露される。先日「生活発表会」を見せてもらう機会に恵まれた。園児たちは可愛いらしい。しかし、それだけではない。演技力も歌も上手い。歌のセレクション、歌詞もなかなか良い。
「ともだちっていいな」(梨太郎作詞作曲)という曲を聞いていると、「目と目が合うだけで何でも分かるのさ…」、「…理屈なんかいらないさ、楽しいから楽しい…ともだちっていいな」と言っている。「世界中のこどもたちが」(新沢としひこ歌詞)という曲では、「…世界中の子どもが一度に笑ったら…空も、海も笑うだろう」と言っている。シンプルで、解りやすい。そして深い。幼稚園にもいろんな文化背景の子どもがいる。すでに世界中の友達をつくって共に笑っているようにも思える。
朝一に世界のニュースを見るのが私の日課である。「生活発表会」に出かける日の朝ももちろん見た。世界中で、相手を認められず、殺しあったり、脅しあったりしているニュース映像を見た直後だったこともあってか、発表会での子どもたちの歌が心に強く突き刺さった。
私も曲りなりに少しは子育てに関わってきた。一筋縄ではいなかいのが子育てである。時には子ども同士喧嘩もする。仲裁に入る教員も親も大変である。たくさんの園児のそんな場面を見てきたが、問題解決方法には一つの共通点がある。大人が当事者の話をしっかり聞き、お互いに対して「ごめんなさいを言おう」と言い、「仲直りしよう」と許しをもらう。問題解決の理屈は非常に簡単である。
幼稚園が休みの土曜日には、我が子に日本の文化を学ばせようと空手道場に連れて行った。空手とはその名の通り、空の手のことで、「何も持たないこと」と「鍛錬により得られる強さ」を学んでいる。倅はすこぶる技も磨かれ、蹴りもパンチも強くなった。しかし彼の最も大きな成長は、挨拶がしっかり出来るようになったことだった。相手をやっつける技を身につけて帰ってくるかと思ったら、謙虚さと対話力を身に付けて帰ってきた。
大人は子育ての中で嘘をついている。子どもが母体から産み落とされたと言わず、コウノトリが運んできたと教える。クリスマスには、「サンタが持ってきた」と言い、本当は、子どもたちが寝静まった頃に大人がプレゼントを置く。幼稚園でも、「世界中の友達を作ろう」と教えながら、大人は喧嘩している。園児には、痛かった相手に対しても謝りなさいと言いながら、謝らなくても良いと考えている大人がいる。本当の強さとは、謙虚さや対話力と子どもに教えながら、強さを見せつけたり、実際に戦ったり、戦いに挑もうとする大人がいる。
「子どものまま大きくなった人」だとか、「童心を忘れていない人」などの言葉はあるにはあるが、実際の大人は少し違う。大人は子どもに嘘を教えているのか。それとも大人が子どもの頃の教えを忘れたのか?大人に、特に意思決定に関わる大人に機会をつくって幼稚園へ「生活発表会」の歌を聞きに行ってもらいたい。国会や国際会議の場でみんなで歌うのも良い。
生活発表会で、園児が歌ったもう一つの歌に、「きっとできる(柚梨太郎 作詞)」というものもあった。そこでは「…忘れ物を減らすことも、あの子と仲直りすることも…」さらには「…寄せ合い、結び合い、どんな人もみんな活かし合える」ことも「きっと出来る」と言っていた。「ちっぽけな夢も良い、馬鹿でかい夢も良い、夢が世界を友達にする」と言っていた。