西川社長は、ゴーン体制転覆への“疑問”に何一つ答えていない
2月28日の日経朝刊一面トップの「2005年転機、日産ゴーン会長に全権『あの時、議論すべきだった』」題する記事、日産自動車西川廣人社長のインタビューが掲載された(日経電子版【「ゴーン流の成功は幻想」 日産社長インタビュー詳細】)。17面にもインタビューの続きが掲載されており、西川氏の話が、大きく取り上げられている。
しかし、このインタビュー記事では、ゴーン元会長についての「不正」の情報を検察に提供してケリー氏とともに逮捕させ、二人の代表取締役不在の臨時取締役会で、ゴーン氏の代表取締役会長の解職を決議したことについて、その経過や、果たしてそれが正当であったのか、という、ゴーン体制転覆に関する「疑問」には何一つ答えていない。西川氏ら日産経営陣の行ったことを「策略であり、反逆だ」と主張するゴーン氏に対する反論にも全くなっていない。
同記事で、西川社長は、ゴーン元会長の解任理由を改めて問われ
取締役会での決定は刑事責任の有無でなく、解任に相当する判断材料を弁護士から頂いたからだ。(不正は)経営者・トップとして守るべき事から完全に逸脱していた。会社としては絶対に放置できない。解任しない選択肢はなかった。
(社内調査の結果を)取締役会でシェアしたが『これは無いね』と。金融商品取引法違反、投資会社の不正使用、経費の不正使用など1件だけみても、普通の役員であれば即解雇というレベルのものなので
と答えている。
この中で、見過ごせないのは、今になって、「刑事事件になるかどうかにかかわらず」と言っていることだ。西川氏は、ゴーン氏・ケリー氏が検察に逮捕された直後に、記者会見を行い、
内部通報に基づき数か月にわたって社内調査を行い、逮捕容疑である報酬額の虚偽記載のほか、私的な目的での投資資金の支出、私的な目的の経費の支出が確認されたので、検察に情報を提供し、全面協力した
と述べた。「普通の役員であれば即解雇というレベルのもの」「刑事事件になるかどうかに関係なく、不正は重大であり弁解の余地がない」と考えていたのであれば、なぜ、検察に情報を提供する前に、その「重大な不正」の調査結果を取締役会に報告し、本人の弁解を聞いた上で、解職を決議するという方法をとらなかったのか。取締役会の場で全く議論することもなく、調査結果を検察に持ち込むという行動をとったことがコーポレートガバナンス上の最大の問題なのだ(【「日産・ゴーン氏事件」に表れた“平成日本の病理”(その1)~企業ガバナンスと透明性】)。
しかも、西川氏がゴーン氏逮捕直後の記者会見で述べた「不正」のうち、「報酬額の虚偽記載」については西川氏自身の関与の重大な疑念が生じ、他の二つの「不正」は、その具体的な内容は一切明らかになっていない。西川氏が、その具体的内容も明らかにせず、一方的に「トップとして守るべきことから完全に逸脱していた」と批判しているだけだ。
「昨年10月頭に私に社内調査の結果が来た」と言っているが、問題なのは、西川氏らが最終的な「社内調査結果」を受け取った時期ではない。そもそも、その不正調査が、どのような経緯で、どの時期に開始され、西川氏が、どのように関わったかだ。
西川氏は、2005年にゴーン氏がルノーの会長を兼任した時点で、「議論すべきだった」と言っており、それが記事の見出しにまでなっているが、ゴーン氏の「腰巾着」のような存在であった西川氏に、その時点で「議論」する余地などあったとは思えない。ゴーン氏への独裁を容認し、社長CEOに取り立てられ、自らも5億円もの高額報酬を得るようになってから、自らの責任をも顧みず検察と結託した「クーデター」でゴーン体制を覆したことが問題なのであり、西川氏が2005年のことに言及するのは、問題の「すり替え」以外の何物でもない。
このようなデタラメなことを言い放った挙句、西川氏は、
私が一身に受けて直していく。自分がやるしかない
と述べて「6月の定時株主総会以降も続投する考えを示した」とのことだ。
ゴーン氏が、有価証券報告書虚偽記載で起訴されているのであるから、直近2年分について、虚偽記載について直接的な責任を負うにある立場にある西川氏(【ゴーン氏「直近3年分再逮捕」なら“西川社長逮捕”は避けられない ~検察捜査「崩壊」の可能性も】)が、何の責任も負わず、そのまま社長を続けようとしていることの無神経さには、ただただ呆れるばかりだ。
クーデターで前経営トップの体制を覆した疑いを持たれた「日本を代表する大企業の経営トップ」が行う、何の言い訳にもならない“放言”を、日経新聞は、まともな発言のように大々的に掲載し、他のマスコミからも、そのことについての批判はほとんどない。
日本の社会は、いつから、そんな「野放図な社会」になったのだろうか。