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密かに男たちの「共感」を呼ぶCMは!?

碓井広義メディア文化評論家
「妻には笑顔」の竹野内豊さん(大和ハウス工業CM「言えない」篇より)

この秋、密かに男たちの「共感」を呼ぶCMが流れています。1本の主役は竹野内豊さん。もう1本は、タカアンドトシのお2人です。

● 大和ハウス工業 xevoΣ(ジーヴォシグマ)「言えない」篇

大人になればなるほど、なかなか他人に本音を言えないものであります。ましてや妻に本音をもらすなど、怖くてとてもできません。自ら地雷を踏むようなものだからです。

その意味で、竹野内豊さん演じる夫は、よく耐えていますよね。本当は、押入れや机の下など狭い所が大好きなのに、妻である中村優子さんの希望に沿って、室内でボルダリングができるほど天井が高い家に住んできました。

しかも今度の家は、1階だけでなく2階まで天井が高い。とはいえ竹野内さん、「せめて2階くらいは天井を低くして落ち着きたかった」なんて本音は、何がなんでも「封印」するしかありません。

夫の「言えない!」と、妻の「言わせない!」。2人の心の声がシンクロする。

“内心のおびえ”を隠しながら平静を装う竹野内さんと、“支配者の微笑”をたたえた中村さん。その対比があまりに見事です。

シリーズ4作目となるこのCM、夫婦で見ているときが一番困ります。竹野内さんへの同情と共感を悟られたら、わが身が危ない。しょせん夫は、妻には勝てないのですから。

● サントリー ボス 「関ケ原」篇

地球を調査中の宇宙人ジョーンズ(トミー・リー・ジョーンズ)は、時空を超えてあらゆる場所に出没します。今回の現場は、徳川家康(タモリ)と石田三成(野村萬斎)が激突する関ヶ原の戦いです。

萬斎さんといえば、東京オリンピック・パラリンピックの開閉会式を演出する、総合統括への就任が決まりました。実にタイムリーなキャスティングだと思ったのですが、本当の主役はタカアンドトシのお2人でしょう。

演じるのは西軍から東軍へと寝返った、小早川秀秋軍の足軽。いわば企業のトップの判断に振り回されて、ヘトヘトになってしまう末端社員にあたります。

「この惑星では、ほんとに働いている人が一番疲れる」というジョーンズの報告も、まさにその通り。“働き方改革”などと言われますが、なかなか、どうして。現実は戦国時代同様、結構厳しいものがありますよね。

組織に使われるのではなく、いずれ組織を使って仕事をする人になって欲しい。就職活動を控えた大学3年生を見ながら、そんなことを思ったりします。

がんばれ、ほんとに働いている人!

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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