AI駆使するソニー系のSRE HD 西山社長「2020年は不動産DX元年」 成長イメージはエムスリー
ソニー傘下の不動産テック事業会社として発足し、AI(人工知能)やビッグデータを駆使して業績を伸ばしている東証1部上場のSREホールディングス(HD)。インタビューに応じた西山和良社長は「AI市場は拡大の一途を辿っている」として、不動産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を柱としながら、金融やエネルギーといった分野でのAIサービス事業の強化に意欲を示した。デジタル技術に関する人材の育成、確保を一段と進める。
(インタビューはオンラインで3月下旬に実施しました)
創業5年で上場
SRE HDは2014年、ソニーの平井一夫社長(当時)主導の新規事業創出部第1弾として発足した。当初から陣頭指揮を執ってきたのが、平井氏のもとで経営企画に携わっていた西山氏だ。
ソニー不動産から名称をSREホールディングスに変更したのは2019年、創業5年後のタイミング。15年に資本参加したヤフー(Zホールディングス)の知見も生かし、不動産DXを推進してきた。不動産価格の推定額をAIが算出するシステムなど、AI活用型のサービスを強みとしている。
19年末に東京証券取引所マザーズ上場を果たし、1年後の20年12月には東証1部に市場変更となるなど、新型コロナウイルス感染拡大の状況下でも成長を続ける。
20年4~6月の第1四半期は、コロナ禍を受けて営業活動の自粛、停滞を余儀なくされた。ただ、感染防止の観点から物件情報のチラシに触れたくないといった非接触のニーズが高まり、オンラインによる物件紹介などデジタル技術の活用が一段と進んだ。西山氏は「DXをやっていこうという動きが、体感的に3、4年ほど前倒しで不動産業界にやってきた。2020年は不動産DX元年になった」との認識を示した。
先月には近鉄不動産がSRE HD子会社、SRE AI Partnersによる不動産価格推定エンジンを活用した「近鉄のAI不動産査定」のサービスを開始した。不動産分野でAIを活用してきたノウハウを他社に展開することで収益拡大を探る。
成長イメージはエムスリー
ソニー系の新規事業として始まった成功例としては、医療情報サイトを手掛けるエムスリーがある。もともと2000年に、ソニーの子会社だったソネット(現ソニーネットワークコミュニケーションズ)が出資して設立。医薬品や治験のデータベースを扱う海外企業を買収するなどして業容を広げ、売上収益1000億円超の企業に成長した。
西山氏は、SRE HDの成長イメージをエムスリーに重ねる。「エムスリーは筆頭株主のソニーへ依存せずに独自色を出し、是々非々でソニーと連携してきた」と分析。「SRE HDはソニーや大株主のZホールディングスとの連携は続けながらも、依存せずに成長していける地力をつけている。今後も独自の強みを伸ばしていく」と強調した。
AIの収益力で成長
SRE HDは、AI事業による収益への貢献度が大きい。2020年3月期までは単一セグメントだったが、21年3月期からはAIクラウド&コンサルティング(AI C&C)と不動産の二つのセグメントに改編した。「AIクラウドサービス」や、「AIコンサルティングサービス」などから構成されるAI C&Cは、SaaS(Software as a Service)系ビジネスとして年々収益力を増している。
21年3月期は前半こそコロナ禍で苦戦したものの、不動産業界をはじめ多様な業界におけるDX需要の高まりを受け、AIクラウド事業などが想定以上に伸びて回復基調を辿った。1月には21年3月期連結業績予想を上方修正し、売上高が前期の2倍近い74億円、営業利益は約4割増の10億円を見込む。
DXの流れに棹さすべく、SRE HDはAI人材の育成、採用の強化を掲げる。21年1月にはDX推進室を新設した。西山氏は「優秀なエンジニアは1人で5、6人分の仕事ができる。AI事業をこれから伸ばす時にどれだけいいエンジニアに来てもらえるかは、成長力の1つの必要なパラメータになる」として、人材獲得に力を入れる。また、「シーズや人材を発掘していきたい」として、複数の大学と産学連携に向けた協議を進めていると明かした。
不動産分野以外でもDX後押し
2021年3月期は、AI C&C事業がSRE HD全体の収益を下支えした。AIコンサルティングの獲得案件数の業界構成比を見ると、19年4月~20年12月の実績値ベースで金融が29%と、14%の不動産を上回っている。
異業種との連携も深めていく。昨年12月には日本ユニシスとAI活用型のVPP(バーチャルパワープラント)実証実験を始めた。西山氏は「キーワードはESG。特に環境面を考慮し、例えば自動車業界でEV、脱炭素といった形で産業構造が変化してきている。こうした変化はさまざまな業界で起きている。AI×ESGといったテーマ性を持って取り組んでいきたい」と話した。
現在進めるAIの「サードパーティー・データ・アライアンス」では、電力や金融、広告といった業界のビジネスパートナーを複数選定し、提供データをもとに競争力のあるAIをつくる。西山氏は「21年度は不動産、金融に加え、他の業界のAIクラウドも展開できる年になる」と自信をのぞかせた。
(写真、画像はSRE HD提供)