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記録に興味のない大天才、藤井聡太王位・棋聖(19)は叡王を獲得し史上最年少三冠となるか?

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 豊島将之叡王に(31歳)に藤井聡太二冠(19)が挑戦する叡王戦五番勝負は第3局まで終わりました。藤井挑戦者は2勝1敗とし、叡王位獲得まであと1勝と迫っています。

 もし藤井王位・棋聖が叡王を獲得すれば19歳1か月での三冠保持となります。

 これまでの三冠の最年少記録は1993年1月、羽生善治竜王・王座・棋王が達成した22歳3か月でした。もし「藤井新三冠」が誕生すれば、羽生現九段の最年少記録を大幅に更新することになります。

 藤井二冠の記録を語る上では、二つの前提を踏まえる必要がありそうです。

 まず一つは、どんな記録に関しても同様ですが、過去と現在とでは、時代背景が大きく異なる場合があります。

 1957年、史上初めて三冠を達成したのは升田幸三元名人(1918-91)です。当時、将棋界のタイトルは名人、王将、九段(のちに十段→竜王に発展)の3つしかありませんでした。つまり三冠を独占したわけです。

 現在のタイトル数は8。そのうちの3つを保持することはもちろん偉業です。しかし現在の三冠と升田三冠を単純に比較することはできません。

 もう一つの前提は、藤井二冠は自身の記録に、ほぼ興味がないという点です。叡王戦第3局が終わったあともいつもの通り、藤井二冠はその旨を語っていました。

藤井「(五番勝負は2勝1敗で)これでリーチという形になったんですけど、それは意識せずにまた、これまで通りの気持ちで第4局に臨めればと思ってます。(将棋史上最年少三冠の記録については)いや、それは・・・。そうですね、なんというか、自分としては意識することではないのかな、と思います

 藤井二冠は、一貫して自身の記録には興味がありません。

 一方で藤井二冠の活躍を伝える側としては、時代背景の違いなども考慮に入れた上で、藤井二冠の記録に触れざるをえません。

 藤井二冠は現在、叡王戦五番勝負だけではなく、王位戦七番勝負も並行して戦っています。相手はいずれも豊島将之叡王・竜王です。その日程を整理してみましょう。

 今回、三冠達成は「叡王奪取時点で王位を保持したまま」という場合のみ実現されます。

 8月22日の叡王戦第4局で藤井新叡王誕生の場合。その時点で王位保持は確定しているので三冠となります。

 9月13日の叡王戦第5局で藤井新叡王誕生の場合。もしそこまでに王位を失冠していれば、三冠とはなりません。

 藤井二冠の実力をもってすれば、仮に今回で三冠が達成されずとも、いずれどこかで三冠を達成するのは、ほぼ間違いない未来と言ってよさそうです。それが羽生九段よりも若い22歳3か月未満の可能性もかなり高そうです。

 今回三冠を達成し、その上でさらに今期竜王戦の挑戦権も獲得すれば、早くも史上最年少四冠の可能性が高まります。

 先日おこなわれた竜王戦挑決三番勝負第1局では、藤井二冠は永瀬拓矢王座に勝利。豊島竜王への挑戦権獲得まであと1勝と迫っています。

 今年度は最大六冠の可能性まであります。

「ということは、19歳六冠? まさかそんな信じられない」

 そう言いたくもなりますが、すでにあと1勝で19歳三冠という可能性からして信じられないような話です。この先もう、何が起こってもおかしくはないのかもしれません。

 振り返ってみれば羽生九段が25歳で七冠を独占する過程もまた、信じられない夢のような話でした。藤井二冠がこの先、夢のような七冠制覇、そして八冠独占を達成する日はやってくるのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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