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イベントを中止した方々へ:あなたは偉大なことを成し遂げました:新型コロナウイルスに負けないために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:新型ウイルス肺炎が世界に拡大 国内で中止や休館など相次ぐ(写真:アフロ)

■相次ぐイベント中止、延期、規模縮小:新型コロナウイルス騒動の中で

この1ヶ月、中止、延期、規模縮小。そんな話ばかりです。その連絡をたくさんもらいましたし、私も出しました。

春のセンバツ野球も中止です。結婚式を中止にした人たちもいます。様々な全国大会、地区大会も中止。卒業式も中止や規模縮小。卒業パーティーや、卒業生を送る会など、軒並み中止です。

プロが企画したものも、素人や、子供たちが企画したものも、大きいイベントも小さなイベントも、次から次へと中止、延期、規模縮小です。

来場予定だったお客さんも残念がっているでしょうが、企画準備をしたみなさんは、どれほど悔しく悲しく、残念な思いをしてることでしょうか。

その人にとっての最初の企画イベントが中止になった人もいます。最後のイベントを中止にした人もいます。人生に一度のイベントが中止になった人もいます。

でも、企画準備を進め、そして中止の決定をしたみなさん。一生懸命企画準備し、胸が張り裂けそうな思いで中止にしたみなさんは、偉大なことを成し遂げました。

■イベントを中止にするとは

個人的な話で恐縮です。小さな出来事の話ですみません。私が勤める新潟青陵大学と短大の学園祭の話です。2004年(平成16年)は、10月23日(土曜日)と24日(日曜日)が学園祭でした。

しかし、10月23日(土曜日)17時56分、新潟県中越地震が発生しました。

大学のある新潟市の被害はほとんどなかったものの、新潟県全体が大騒ぎになりました。1日目、土曜日の学園祭を終え、今日の片付けが終わり、明日の日曜日の準備も全部整ったところでの、大地震でした。

何十名もの学生が帰れなくなり、学校に泊まりました。当時学生部長だった私も、学生課長さんらと一緒に泊まり込みました。

明日の学園祭をどうするかは、翌朝実行委員みんなが集まって決めることになりました。

翌朝早朝、まだ薄暗い午前5時。実行委員たちが来る前に、学園祭でファッションショーを行う予定の学生たちがやってきました。手伝うことになっていた近隣の美容学校の学生も来ました。

「今日の学園祭は中止になるかもしれない」と私は伝えました。「でも、開催するなら、今から準備を始めなければ間に合いません」と、学生たちは準備を始めました。

そのあと、実行員たちが集まり、学園祭は中止と決定されました。

発表や露天のお店をやる予定だった学生は、片付けを始めます。土曜日も行ったグループはまだ良かったのですが、日曜日だけのグループもありました。

お客さんには誰にも見てもらえなかったまま、露天や飾り付けの解体が始まります。すでに買ってしまった食材をどうするのか、グループごとに話し合っています。

ファッションショーの出演者も、メイクを落とし、髪型を戻し、みんなに見てもらうはずだった服を箱に戻します。

実行委員は、大学の門の前に立ち、来てくれたお客さん一人ひとりに、頭を下げ、中止のお詫びをします。実行委員は、朝から、夕方まで、立ち続けました。

私は、東京から来てくれるはずだった芸能人の事務所と電話で折衝です。新幹線も高速道路も止まってはいましたが、折衝には100万からの出演料の行方がかかっていました。幸い、先方は理解を示してくれました。

それから、学生たちの様子を見るために学内を歩き回りました。ある学生は、私に食ってかかって来ました。中止にしなくても良いのにと。学生たちの悔しさは、手に取るようにわかりました。

イベントが大成功し、そして片付けるのであれば、疲れてはいても楽しい作業です。深い満足感があり、達成感があります。でも、イベント中止での片付けは違います。

昼頃には、全ての片付けが終わりました。私に文句を行ってきた学生が、またやってきました。

「先生、さっきはすみませんでした。オレ、先生の気持ちもわからないまま、怒ってしまいました」。

学生たちは、見事に学園祭を中止にしてくれました。イベントを見事に成し遂げることは大変なことですが、見事に中止することは、もっと大変なことです。

その日は、結局夜まで、大きな余震は起こりませんでした。

小さな大学の小さな学園祭の中止など、ニュースになるようなことでもありません。でも、企画準備に参加した学生たちは、それぞれに悔しく悲し思いをし、でも立派に中止作業を行うことで、得難い経験をすることができました。

私は今でも、この時の学生たちのことを誇りに思っています。

■新型コロナウイルスでイベント中止を経験した人々

卒業式の前日に中止になった学校もあります。何年も前から準備していたイベントも中止です。

ネット上のツイッターには、客としても、スタッフとしても、悲しく悔しい言葉が並びます。スタッフを慰める言葉も並びます。そして、それでも何とか前向きに行こうと思う人々の声が並びます。

「タイムラインに流れてくるイベント中止・延期の数々で心が痛い. 本当ウイルスさんいい加減にしなよ、そろそろさって気分になりますね」

「今回の状況を受けてのイベント中止は胸が痛む。多くの人が関わって多く時間と費用をかけて準備してきたことを中止せざるを得ないというのは、出演者もスタッフも本当に悔しいと思う。」

「私も以前台風でイベント中止になったことがあるので悔しさはわかります(´;ω;`) 誰のせいでもないからより悔しいんですよね」

「イベント中止で一番悔しいのは本人だと思うし、謝らなくていいのになあ」

「演者が1番悔しい苦しいとか分かってるよ。でも誰が1番悔しいとかなくない? みんな悔しいんだよ。その人にしか分からない事情があるし、みんな悔しいね、苦しいね、 苦しいもの同士慰めあおう」

「ついにイベント中止の波がきてしまいました… 悔しいけど何かしら埋め合わせは検討中なので、またアナウンスします! 仕方ないことなので、あくまで前向きに、今だからこそ出来る楽しいこと考えます!」

「イベント中止告知ポスターを作成中。虚しい作業だよこれ。でも、 万が一来られた方に申し訳ないので、精一杯作ります」

イベントを見事に中止にしたみなさん、あなたは偉大なことを成し遂げました。

■中止の経験を活かすために:新型コロナウイルスに負けるな!

結果は大切です。お客さんがたくさん来ることも、高い評価を受けることも大切です。決して、どうでも良いことなどではありません。大きな金銭的被害に頭を抱えている方々もいるでしょう。

でも、心の問題で言うならば、大切なのは、プロセスです。結果だけでなく、一人ひとりがどんな体験をしたかです。そして、その体験を次にどう活用するかです。

来場者側も残念がっています。企画団体を支援しようという声もたくさん出ています。その団体が潰れては、ファンも客も困ります。金銭的にも、心の面でも応援できればと思います。

中止になって、悲しく絶望的になるだけではもったいないことです。悲しくても、悔しくても、友情は壊れず、夢を失わず、見事に中止を成し遂げた自分たちをほめて上げて良いと思います。

心理学的に言えば、私たちが不幸になるのは不幸な出来事があったからではなく、出来事を不幸だと思ってしまうからです。

思い通りにならないことは、あるものです。大切なのは、次のチャンスを活かすことです。

災害やウイルスに負けないとは、建物や体だけのことではなく、心が負けないということです。

学園祭のファッションショーが中止になった学生と担当教員は、そのあと、工夫と努力を重ねました。学長理事長とも話し合い、予算も得ました。

そして、その年のクリスマス。立派なシティーホテルの会場で、見事なファッションショーが開かれました。このホテルでのファッションショーの企画は、そのあともずっと続いています。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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