FP6人に聞く。住宅ローン、今借りる(借り換える)なら固定か?変動か?【2022年】
2022年1月現在、住宅ローンを借りる(借り換える)としたら固定金利か変動金利か、あるいは10年固定などの固定金利期間選択型でしょうか? 住宅ローンや不動産に詳しいFPに聞いてみました。
■2022年に住宅ローンを借りる(借り換える)なら?
インフレを機に、2021年12月にイギリスの中央銀行であるイングランド銀行が利上げをし、アメリカでも、FRB(米連邦準備理事会)が今後1年程度の間に最大3回の利上げを示唆するなど、金融緩和から金融引き締めに切り替え始めた国もあります。
一方、日本では2022年1月現在、明らかなサインはだされていないものの、「2%の物価安定目標」が達成されれば、金融政策が変更される可能性があります。そして、様々な要因で値上げが相次いでいることから、今年、この「物価上昇率2%」を超えてくる可能性があると見られています。
そんな分水嶺ともいえるタイミングにある2022年。今、住宅ローンを借りるなら、金利タイプは何を選べばいいのでしょうか。固定金利がいい?変動金利?それとも固定金利期間選択型でしょうか? ……という質問を、6人の独立系FPにぶつけてみました(筆者も加えていただいております)。選択の際の参考にしていただけましたら幸いです。
※ご協力くださった皆様、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。
■変動金利派の意見
6人中4人が「変動金利」と答えました。しかし、よく読んでいただくと注意事項が書かれている点を見落とさないようにしましょう。
有田美津子氏(CFP、住まいのお金相談室代表)
▼借りるなら?
変動金利
▼理由
アメリカのインフレから長期金利が上昇する可能性も考えられますが、日本では年率2%の物価上昇が達成されるまでは長期金利(10年物国債金利)、短期金利とも日本銀行が現状程度の金利推移でコントロールすることを約束しています。
銀行間の競争による金利優遇幅の拡大との相乗効果で、変動金利における急激な金利上昇は現状考えにくいのではないかと考えます。そのため、今自分が借りるなら、残高が多く返済期間も長く残っている借り入れ当初に、低金利で元金を多く返済できる変動金利を選びます。
とはいえ、将来的にはアメリカの金利上昇に引きずられる形での金利上昇や、物価上昇による日本銀行の金融政策の変更からの金利上昇も考えられます。金利上昇時の繰上返済がむずかしい家計であれば長期固定金利をお勧めします。
中村諭氏(CFP、住宅ローンソムリエ(R)代表)
●借りるなら?
変動金利
●理由
FPとしてお客様相談に回答する場合、「終の棲家」を買うのか、住み替え前提で買うのか、子供の教育費負担の有無など、相談者の個別事情によって選ぶべきローンは異なりますが、私が“今”住宅ローンを組むなら、次のような優先順位で条件を付けて「変動金利」を選びます。
①15年以内に住み替え
②20年で完済可能な額を30年返済でローン組み
③住宅ローン減税適用
④利率0.50%未満で団体信用生命保険にがん保険付保
⑤繰上げ返済の選択肢に「返済額軽減型」がある金融機関
⑥125%ルール、5年ルールを備えている金融機関
橋本秋人氏(FPオフィス ノーサイド、住宅ローンアドバイザー)
●借りるなら?
変動金利
●理由
やはり固定金利との金利差のメリットを取りたいです。返済額の差を固定金利の安心料と捉えたとしてもこの差額は大きいのではないでしょうか。
一方、長期で見ると変動金利はリスクが高く固定金利は安心という考えもあります。しかし、住宅金支援機構の調査では、約68%の人が返済期間25年超の借入をしていますが、約60%の人が15年以内、約78%の人が20年以内で完済しており、完済年数の平均は16年です。もちろんデータにはタイムラグがあり借り換えや買換えに伴う完済も含まれますが、多くの人が長期で借入をしても早めに返済を終わらせている傾向がうかがえます。
大切なのは30年、35年間何もせず返済を続けることを前提にするのではなく、金利上昇時の対応や繰上げ返済の可能性を検討しながら金利タイプを選択することだと思います。そもそも繰上返済も考えられないぎりぎりの資金計画で住宅を買わないということが肝腎です。
深野康彦氏(ファイナンシャル・プランナー)
●借りるなら?
変動金利
●理由
2022年は米国で利上げが行われる予定で、利上げに伴い長期金利が上昇していくと考えられます。米国の長期金利の上昇に連動して、日本の長期金利も上下動を繰り返しながら緩やかに上昇していくと予測しています。日本銀行が年内に政策変更を行うことはないと思われますが、 ETF(上場投資信託)や国債の買入額を縮小しているため実質は緩やかな金融引き締めを行っていることも日本の長期金利上昇の根拠としています。
長期金利が上昇することでフラット35や固定金利選択型住宅ローンの金利も上昇することでしょう。反面、短期金利に連動する変動金利は今年も見直される可能性はほぼありえないでしょう。景気の回復が欧米と比較して周回遅れであることも、日本銀行が政策転換を行う時期を後送りしていると思われ、ひいては変動金利見直しの基準となる短期金利が上昇することも後送りになると考えているからです。
短期金利の上昇が当面視野に入らないため、変動金利が有利である局面も当面続くと考えられるわけです。変動金利はさまざまな優遇措置の適用で1.0%を大幅に下回る水準で借入ができますが、その水準で借入ができる要件が付くことは忘れないでください。
■「条件付きで変動金利」という意見
基本スタンスは固定金利派なのだと思われますが、回答が「(条件付きで)変動金利」とのことでしたので、分けました。
菱田雅生氏(ファイナンシャル・プランナー(CFP))
●借りるなら?
条件付きで変動金利
●理由
20年以上言い続けていることですが、金利変動のリスクを取りたくない、安全性を最重要視したい人は、フラット35などの全期間固定金利を選ぶべきです。損得は関係なく、安全だからです。
一方、多少のリスクを取ってでも有利になるほうに賭けたい人は、2022年1月現在0.4%前後という超低金利の変動金利は魅力的です。3000万円を年0.4%、35年返済で借りるとして、毎月返済額76,557円のうちの1回目の利息部分の金額は、たったの10,000円です。同じ3,000万円を年1.3%、35年返済で借りるとすると、毎月返済額は88,944円で、そのうちの1回目の利息部分の金額は、32,500円です。
変動金利のほうが利息負担は3分の1以下になります。さらに、元金返済に充当される金額も約1万円多いので、ローンが減るスピードも速くなり、適用金利が変わらなければ、それだけ利息の負担は軽くなります。
とはいえ、今後20年、30年、適用金利が変わらないというのは考えにくいです。なので、「①適用金利が2%とか3%に上がったとしても、返済に困らないような家計運営ができる人」、かつ、「②教育資金や老後資金の準備も考慮した返済計画で、60歳までには完済できる計画を立てられる人」、この2つの条件を満たせる人が変動金利を利用してもいいといえるでしょう。
■固定金利派の意見
固定金利派が豊田だけになってしまいました。まるで狼少年ならぬ狼オバサンのようですが、長く「(原則)固定金利」というスタンスを貫いています。
豊田眞弓(FPラウンジ、住宅ローンアドバイザー)
●借りるなら?
固定金利
●理由
日本銀行が2%の物価上昇を目指して行ってきた金融緩和策のおかげで住宅ローンは超低金利できたわけですが、悪いインフレであれ、いよいよゴールに達する可能性が高まっています。金融緩和が進んできた逆の道として、長期金利が正常化してから短期金利の正常化が進められると考えられます。
短期金利が上昇するまでの金融引き締めに転じるのはまだ先だとは思いますが、長期金利は変動幅(1月10日現在、±0.25%)を小出しに上げるなど、徐々にコントロールを外していくのではないかと考えます。重要なことは、変動金利が上がる頃には固定金利はすでに上がってしまっている可能性が大であること。「金利が上がり始めたら固定に借り換えればいい」と気軽に変動金利を借りている人は、借り換えのタイミングを逃す可能性もあります。
また、「フラット35S」のような一定期間の優遇は新規で借りないと受けられないですし、固定金利の適用金利が低い間に最初から固定金利で借りておくのが、生活者としては心穏やかに暮らすポイントではないかと思います。
今年、変動金利で借りる方は、15年程度以内で完済できることを確認したうえで慎重に利用すべきだと思います。
■自己責任で選択を!
6人の意見を並べてみましたが、結局のところ、長期でリスクを取れるゆとりのある家計なら変動金利で借りるのはいいですが、ぎりぎりの住宅ローンを変動金利で借りることはリスキーであるという点は、多くのFPが発している警報です。特に、今後は金融政策の方向転換があるかもしれないタイミングですので、しっかり頭において選択する必要があります。
長期の住宅ローンを変動金利で借りるのは、そもそも投資に近い面があります。固定金利か変動金利か、10年固定のような固定金利期間選択型かといった選択は、自身の家計の状況やライフプランなども踏まえて慎重に検討し、自己責任で選択することが大事です。
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