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メッシ VS ロナウドのもう1つの戦い:税金逃れ。ちゃんと納税するのが本物のヒーローだ!

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
2017年7月31日、脱税疑惑のロナウド出廷に集まった報道陣(写真:ロイター/アフロ)

4月4日、日本から1カ月半遅れてスペインでも確定申告がスタートする。いつも腹を立てているが、特にこの時期ははらわたが煮えくり返る思いがする。サッカー選手の脱税行為についてである。

なぜ年間数十億円を稼ぐ者たちが、十分贅沢に一生を暮していける者たちが、税金逃れを企てるのか?

スペインは決して豊かな国ではない。

ずっと20%を超えていた失業率は昨年12月時点で2008年以来の低水準を記録したが、それでも16.5%もあって日本の5倍以上。国民1人当たりのGDPは日本の約7割。平均年収140万円は日本の約3分の1。「貧困者または貧困危機者」(年収が平均の6割未満など)とされる者が人口の3割弱1300万人もいて、私の住むアンダルシアでは10人に3人が貧困者で5人が貧困危機者だという。

そんな数字以外でも、街を歩けば物乞いをする人たちと何人も出会うし、病院の職員不足(人手不足ではなく雇う金がない)が深刻でおとといも緊急搬送された人が数時間廊下で放置されて死亡したばかりだし、家賃やローンを払えなくなって家を追い出される人のニュースは毎日のように目にする。この国には税収が足りない。緊縮財政によって医療や教育、社会保障に支障が出始めている。

そんな国のリーグでお世話になり大金持ちになっておきながら、どうして、限りなく脱税に近い節税行為をしよう、という発想が出てくるのか?

メッシは有罪、ロナウドは容疑者

メッシとロナウドはグラウンド内でもライバルだが、残念なことにグラウンド外でもそうである。

メッシの方は、昨年5月410万ユーロ(約5億3700万円)の脱税行為で判決が出て有罪が確定。脱税額の支払い+210万ユーロの罰金、21カ月の懲役刑が科された。再犯ではない者の21カ月以下の懲役は、次に犯罪を起こさない限り実行されない。よってメッシは今もプレーできているわけだ。

ロナウドの方は、メッシへの判決が出た3週間後に1471万ユーロ(約19億2700万円)の脱税の疑いで検察庁が訴追した。メッシの訴追から判決まで4年かかっているから、ロナウドに判決が出るのはまだ3年ちょっと先だろう。よって、ロナウドは現段階では「推定無罪」であることを断っておかねばならないが、検察と国税庁は立件にかなり自信を持っているようで、つい先日もロナウド側からの和解の申し出を蹴っている。

この2人の年棒は、メッシが4000万ユーロ(約52億4000万円)でロナウドが3600万ユーロ(約47億1000万円)だと言われている。しかもこれ、税抜後でまるまる手元に残る金額である。それだけもらっておきながら、犯罪行為あるいは犯罪と疑われかねない行為に手を染めないといけないのか?

脱税(容疑)ベスト11とは?

しかも、いずれも脱税の対象は巨額の年俸ではなく肖像権料の方である。こちらは年俸と違ってクラブによって税金を“天引き”されないので、節税&脱税の余地が大いにあるわけだ。

年俸の他に、メッシやロナウドならそれに匹敵する額の肖像権収入を得ていて、合計すればとてつもない億万長者であることがわかる。それなのに税を減らそう&免れようとする点に、選手たちと社会との間に共感や連帯感が欠如していて、2つの世界が断絶していることがうかがえる。

未成年者じゃないんだから「知らなかった」では済まされないが、悪い側近(代理人や家族の場合がよくある)にそそのかされた、騙されたという可能性は大いにあるだろう。

サッカーに集中してきたゆえにハタチそこそこで億万長者になり得たのだが、それゆえに社会常識やモラルが未成熟であっても不思議ではない。ゆっくり金持ちになったのなら資産増と人的成長は足並みをそろえるかもしれないが、未熟な若者がいきなり大金を手にすれば過ちを犯すのも無理はない。それを正すのが大人なのだが、逆に大人が悪知恵の授け役になっている。

メッシ、ロナウドだけではない。スペイン国税庁が告発し検察が訴追したサッカー関係者(罪が確定した者も容疑者も含む)は、シャビ・アロンソ、ファルカオ、マスチェラーノ、アレクシス・サンチェス、モドリッチ、マルセロ、モウリーニョ、ディ・マリア、エトー、コエントラン……。なかなか強力なベスト11が組めそうだが、グラウンド外の不始末で集められた悲しい面々である。

有罪になったら……、否、とんでもない金持ちの分際で本来、節税の試み自体が恥ずかしいと反省し、払うものを払ってほしい。ついでに寄付でも何でもしてほしい。そうしてあえぐスペイン社会を救う本物のヒーローになってほしい。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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