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いよいよイギリスの延期を決めるEU首脳会議:短期か3カ月か。マクロンVSジョンソン:ブレグジットで

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
10月18日のEU首脳会議で。ルクセンブルク首相、ユンケル委員長、マクロン大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

本日、10月28日(月)、欧州連合(EU)の臨時首脳会議が開かれる予定である(後述:結局、大使級会合になったようだ)。

イギリスの離脱の延長期間を定めるためだ。延期には27カ国の全会一致が必要だ。10月31日は目前で、もう「様子を見る」時間はない。何かを決めないといけない状況だ

今は、短期派と、イギリスの申し出る3カ月派に分かれている。「条件付き短期」「条件付き3カ月」という道もあるかもしれない。

27日朝(日本時間)の『フィガロ』の報道によると、短期を主張しているのはマクロン大統領と、オランダのルッテ首相の二人で、3カ月を支持しているドイツなどと対立しているという。

短期派は数としては少ないが、有力な意見がある。

11月1日に、新しくウルズラ・フォン・デア ライエン委員長が誕生するという事実だ。この新しい委員会が始まるという大事なときに、機能を妨害するという理由だ。

前回、春にメイ前首相が延長を申し出た時、トゥスクEU大統領は1年の延長を主張していた。しかし、マクロン大統領は、上記と同じ理由で反対。このときもフランスは少数派だったが、「新しい委員会の船出を妨げるな」という理由が通り、10月31日になったという経緯がある。

さらに重要な理由としては、予算案がある。

詳しくはこのリンク:EUが認めるイギリスの延長期間は短期か3カ月か。問題は予算案(お金)と寒さとクリスマス

2021−2017年の7年間の予算案とお金の問題である。

イギリスがEUの決定に参加?

3分の2の同意がないと解散できないイギリス下院は、労働党の協力を得ることが必須である。

しかし、離脱合意案に同意していない労働党は、12月12日の選挙を受け入れる代わりに一つの条件をつけている。「この日に、合意無き離脱をしないこと」。

よくわからない条件だが、これが意味することは、EUとの合意に署名していない労働党にとっては、ベン法に従って2020年1月31日まで3カ月の延期をEUに要請していることになるという。

しかしそんなことをしたら、イギリスが新しいデア ライエン委員会の決定に参加することを意味する。

閣僚会議や欧州議会などにイギリスは参加できて、政治の中心に居座ることになるのだ。司法でも同じである。イギリス人委員を指名しないわけにはいかない。法的にそうなるのだ。

もうEUを離脱すると決めているのに? EU側と連帯を感じていないのに? メイ前首相と異なり、ジョンソン首相は清算金の支払いを盾にとって、いっそう厳しい離脱条件を突きつけてきて、EU側に飲ませたのに? 

春の時点で離脱が1年ではなく、10月31日になったのは、ユンケル委員長がマクロン大統領を支持したのも大きな理由だろう。今回もユンケル委員長は短期派と言われていたが、もう任期が3日間しかなく、退任モードに入っている彼は、どの程度介入しているのか不明である。

また、メルケル首相はどうも影が薄い。以前より求心力が弱まっているのと、次の委員長がドイツ人なので、マクロンの意見に反対しにくいことはあるだろう。

単独過半数は難しそうな保守党

この合意案を総選挙という形で市民に問うことは、民主主義にはかなっている。EUとは、こういう意見に反対しない傾向がある。

延期には正当な理由が必要とされているが、総選挙は十分に正当な理由になる。

保守党が選挙における勝算がどれだけあるかで、動向は変わるだろう。保守党の支持率は、どの世論調査でも上がっている。

最新の『オブザーバー』によるOpiniumの調査によると、保守党の支持率は40%となり、1週間前よりも3ポイント上がった。労働党は24%で変わらず、自由民主党は15%で1ポイント下がった。 Brexit党は10%で2ポイント減少、スコットランド国民党は5%で1ポイント増加、緑の党は3%で1ポイント減少した。

保守党の支持率は上がっても、単独過半数からは遠い。近年西ヨーロッパでは、選挙結果が事前の予測とまったく異なる事態が多発しているので、何とも言えないが・・・。

さらに、EU残留派の自由民主党も総選挙を支持しており、12月9日の選挙日を提案しているという。通常イギリスでは選挙は木曜日となっており、12日は木曜日である。しかし、やはりクリスマスに配慮して少しでも早いほうがいいと思ったのか、9日月曜日を提案してきた。

今、EUが短期の延長しか認めないことは、この総選挙をつぶすことに等しい。これは難しい決断だ。

ただ「民主主義」というのなら、一番心配に思うのは、投票率が50%に満たないのではないかという点だ。人々はブレグジット問題にうんざりしている。EU側も、イギリス人も。12月の大変寒くて忙しい時期に、クリスマス休暇の前の町が華やぐ時期に、なぜこんな「嫌な」問題と取り組まなければならないのか。

国民投票ではないので、「投票率が50%を超えなければ無効」という条項はないだろうが、「市民に聞く」という点では、はなはだ情けない心もとない結果となり、後日問題になりかねないのではないかと思う。

強いリーダーが勝つ

ただ、様々な国連関係やEU関連の「模擬」を体験してきて、一つのことは言えると思う。

ほとんどの人が疲れ果て、判断も迷うような、どちらでもいいような状態になっているとき、人々は「強いリーダー」になびく。自分の主張が決してぶれず、主張には理があり、首尾一貫しており、ずっと力強い態度で臨み続ける者に、人々は従うのだ。

前の記事にも書いたように、EU内においては、クルド問題とシリア情勢で、ロシアやトルコの動きのほうが自国に近くて重大であり、イギリスは遠いと感じている加盟国の動き、イギリスにおいては、離脱がいいのかどうか判断がつかない人たち、離脱合意の内容も複雑でついていけないと感じる多くの人たちーーーこういう人たちがどうなびくかで、情勢は決まる。

強いリーダーとは、EUではマクロン大統領、イギリスにはジョンソン首相である。今はボールはEU側にある。

俯瞰して眺めると、これはマクロンとジョンソン、どちらが強いかという見方もできるのではないか。

この点は、今後のヨーロッパ情勢を見ていく上で、大きなポイントになるような気が筆者はしている。

参考記事:EUが認めるイギリスの延長期間は短期か3カ月か。問題は予算案(お金)と寒さとクリスマス。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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