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オンラインならではの良さってなんだったんだ…?「東京ゲームショウ 2020」オンライン配信への提言

黒川文雄メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト
CESA/Nikkei Business Publications, Inc.

ライブイベントの魅力ってなんだ?!

ライブイベントには不思議な魅力があります。

その場限りの刹那感、参加した者同士の時間と体験の共有、そして観客とステージ上のスター、芸人、バンドなどのライブによる高揚感と目に見えないエネルギーの高まりがあります。

あるロックスターが、ライブを喩えて言ったことには

来場したお客さんから元気をもらう貴重な場所がステージだ!」、観客も一様に「ステージ上にいるロックスターから元気と勇気、明日への活力をもらった……」などと言います。

ロックならではの、うねるようなバンドのサウンドの洪水と、観客が放つパッションが入り乱れ、双方を興奮の極致へ誘ってくれるのではないでしょうか。

それが、芸人さんならば、歓声、会場を満たす阿吽(あうん)の呼吸、拍手、そして笑いによるストレス発散も重要な舞台の効能です。

コロナ禍のなか、すべてを受け入れた今の状況は…

しかし、残念ながら、これらは2019年末か2020年初めに終焉を迎えてしまいました。

ライブでのロックスターと、観客のココロのキャッチボールは終わりました。その要因はCOVID-19(新型コロナウィルス)の蔓延に依るものです。

日本は諸外国と比較すれば、まだ重症患者数と感染者数が少なく済んでいますが、それは我々が、ウィズ・コロナを意識し、従来は当たり前だったことへの意識を改め、日々の生活を注意深く送っている結果ではないでしょうか。

もちろん、日本のみならず諸外国の感染者と死者の減少、重症者の早期の回復を祈る次第です。

ライブイベント同様、ゲーム業界における世界的な展示会も、2020年に入ってから、7月31日から8月3日まで上海で開催されたチャイナジョイ2020を除いては、ほとんどがオンライン開催になってしまいました。

春の訪れとともに始まるはずだった「GDC2020」(@サンフランシスコ開催)、開催が初夏を感じさせる「E3-2020」(@ロサンゼルス開催)もオンラインでの開催でした。

逆に「チャイナジョイ2020」(@上海開催)に関しては、よく開催できたなぁ……と感心する一方で、コロナ発症国としての不名誉を一蹴すべく、国家の威信をかけて開催したのではないかと思えるものでした。

実際に参加した日本人ゲーム関係者に依れば「例年ほどの混雑や混乱はなく、ブースも広めに確保してあり、落ち着いた展開だった」と言わしめるほどで、そこには集団感染などのリスクに配慮した開催側の配慮があったのかも知れません。

初のオンライン開催になった東京ゲームショウ2020はどうだったのか?

ここ数年ですが、東京ゲームショウ開催に併せて、私はメディアパスを取得して参加しています。

今年は、6月25日時点で東京ゲームショウ2020 のオンライン開催が決定したため、どのような取材ができるのか、どのような内容になるのかは掴めないでいましたが、例年通り、開催前に「取材申し込みシート」に記入し事務局へエントリーをしたのですが、今年に関しては帰属しているメディアまたは編集部からの申請以外は受け付けないというメッセージを受け取りました。

事務局としてはフリーランス(系ライター)の取材は受け付けないというポリシーと受け止め、通常、寄稿しているメディアに申請を依頼し、取材活動に支障をきたすことはありませんでした。

しかし、実際に取材活動と言っても、YouTubeの「TGS2020チャンネル」以外に主だった取材ソースも、方法もなく、メディア自体の取材もずいぶんとやりにくい配信イベントになったと感じました。つまりYouTube番組を視聴して、最新の情報があればそこからピックアップするというものしかありませんでした。

大半の配信プログラムが芸人さんとの絡みがメインのバラエティ番組

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画像出展(c)2002-2020 CESA/Nikkei Business Publications, Inc. All rights reserved

さて、後半は、実際の東京ゲームショウ2020をどう感じたか……という点にフォーカスしたいと思います。

さきほど、書いたように、YouTube番組をずっと視聴し、そこから選りすぐりのコンテンツ情報や、特ダネを抜くのは苦行に近いものだったと思います。

ただ、バラエティ番組の中には、きちんとグローバル対応を考えて、英語字幕を付けて、海外からの視聴にも対応を広げているプログラムもありました。総じてYouTubeのチャット欄には海外からのコメントも多く、日本ゲームへのリスペクトを感じる部分もあり、来年以降もオンラインで開催するのであれば、さらなるグローバルな対応が必須と思います。

eスポーツ関連にも非常に良質なプログラムがあり、いくつかのパブリッシャーはがんばって長時間の配信番組を展開したり、パブリッシャー側=作り手や宣伝マンの愛を感じるプログラムもありました。

しかし、新作のプレイ情報を配信する番組にもかかわらず、実際の画面には該当する画面は映らないまま、出演したタレントのクローズアップで番組が終わってしまったものもありました。

この点に関しては海外からはその展開をどう受け止めていいかわからないという書き込みや失望があったと思います。そのタレントさん自体はゲーム好きで配信番組なども自身で行っているのですが、メーカー側と演出側、プレイするタレント側の3者の思惑がチグハグだったように思います。

また、これらのプログラムに関して言えることは、視聴者は興味のあるプログラムしか視聴しないというマイナス面があります。

可能な限りのリアルイベントを開催するために

リアルイベントの良さは、意外なものの発見ではないでしょうか。

例年、幕張メッセまで足を運ぶ面倒臭さはありますが、会場に入って感じる…、

「このブース(パブリッシャー)の、このタイトルは客付きがいいぞ!」とか、待機列に並んでいること自体が、その新作への期待値のバロメーターだったりします。それらは歩いて展示場内を回っている最中に目に入ってくる偶発性を伴っており、予定外の情報や知識を得ることができるのがリアルイベントの良さです。つまり配信番組と異なるところは、視聴者があらかじめプログラムを決めてしまうものとは異なる偶発性です。

また会場で1年に一回しか擦れ違わないゲーム業界の関係者との旧交を温める場や、偶然の出会いの場でもあると思います。

もし今年のようなYouTube配信展開を東京ゲームショウとしてオフィシャルに今後も続けるのであれば、視聴する観客は減少していくのではないでしょうか。

それは単にパブリッシャーが独自にプログラムを構成してYouTubeを使って配信しているのと代り映えがないからです。

次年度以降の東京ゲームショウへの提言として思うこと

この10-15年くらいに、ビジネスデーへの一般客と思われるかたの流入が増えました。

また出展パブリッシャー側もビジネスデーにもかかわらず、一般デーと同じようなイベントを我先にやってメディア露出を強化する傾向も否めません。

私の映画配給会社での勤務経験から、次回以降の東京ゲームショウが、こうであったらいいな…ということを最後に読者の皆様にお伝えしたいと思います。

前提としてCOVID-19のワクチンや治療法が確立して、2019年までの開催と同様のリアルイベントが復活することが主催者と参加者の願いですが、もしそれが実現しない場合は以下のような展開を提言したいと思います。

それにはビジネスデーとパブリック(一般)デーの顧客(観客)を完全に分離するというものです。

それは海外の映画祭(売買を伴う)をモデルケースにしたもので、大規模のホテルを一棟ごと借りて、各パブリッシャーの規模に応じて部屋を割り振るのです。

今までも、各社は幕張近隣のホテルで東京ゲームショウに併せて出張所のような部屋を確保しています。日本の場合は経営陣の休憩場所になっていたり、落ち着いたインタビュー用のスペースになっている場合もあります。

特に海外のパブリッシャーは、重要な顧客のために、特別なスイートルームにゲーム試遊と商談ができる場を確保しています。幸い幕張地区はそのような対応が可能なホテルは多いため、いかようにもアレンジができるはずです。

それらのスペースを単なる休憩場所にするのではなく、活用することを考えてみてはどうでしょうか。それは、またインバウンド需要が大きく減衰した近隣のホテル需要にもマッチすると思います。

それと幕張メッセの展示場内で目にする豪華絢爛なブースは素晴らしいと思いますが、開催には多大なコストが掛かっています。おそらく1億円を優に超えるものが多いでしょう。しかし、それらは会期が終われば、すべてを廃棄されます。その多大かつ過剰な展開コストを削減し、ホテルなどの部屋で内覧会形式にすれば、どれだけコストが軽減されるかは業界関係者でなくともわかるはずです。

そして、以下の2つが実現すればいいと個人的に思います。

■ビジネスデー対応

1・各部屋(または宴会場)ごとにパブリッシャー・ブースを設ける、各社の規模と新作に準拠して割り振る。

2・そこでは簡素な展示で、新作の試遊と販売促進の交渉や商談が可能な場所として活用する。

これによってブース来場者を限定できること、さらには「アポイントメント(予約者)オンリー」にすることで適度なプレイ機会の創出や取材、商談が確保できる。まさしく共存共栄になるのではないでしょうか。また来場者(記録)を限定することで感染対策にも有効です。

そのうえで…

■一般観客デー対応(配信番組のみ行う)

1・タレントさんなどの力に依らない、ゲーム会社独自による新作紹介、他にテクノロジー系の技術紹介や業界のトレンド紹介などの動画配信を行うことを提言したいと思います。

2・上記の配信番組に一般の参加者を(限定数・感染対策施行のうえ)招待してライブ感を高めるなどの工夫が必要です

出口の見えない現状を打破するには時間がかかると思います。同時に時代とともに人間の価値観も変化します。2021年に世界的なコロナ禍が沈静し、リアルな世界に、平和なウイズアウト・コロナ時代が来ることを望んでいます。

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(写真は東京ゲームショウ2019より 筆者撮影)

YouTube 黒川塾 96チャンネル にて当該コラムにおける補足コメントを収録しました。御高覧よろしくお願いします。コメント歓迎、チャンネルフォローもよろしくお願いします。

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9月30日16時 誤字脱字修正のうえ更新しました。

メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト

黒川文雄 メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/株式会社ジェミニエンタテインメント代表 アポロン音楽工業、ギャガ、セガ、デジキューブを経て、デックスエンタテインメント創業、ブシロード、コナミデジタルエンタテインメント、NHN Japan (現在のLINE、NHN PlayArt)などでゲームビジネスに携わる。現在はエンタテインメント関連企業を中心にコンサルティング業務を行うとともに、精力的に取材活動も行う。2019年に書籍「プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本」を上梓、重版出来。エンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰し「オンラインサロン黒川塾」も展開中。

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