ウクライナ侵攻のロシアフェイク、Twitter、YouTubeが3分の2を「放置」のわけとは?
ウクライナ侵攻をめぐり、ツイッター、ユーチューブが親ロシアのフェイクニュースの3分の2を「放置」している――。
ロシアによる情報戦を監視するNPOの連携組織「偽情報状況分析センター(DSC)」は、そんなレポートをまとめた。
ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、武力攻撃とサイバー攻撃、情報戦が連動した「ハイブリッド戦」の脅威が指摘され、侵攻開始当初は各プラットフォームも積極的なフェイクニュース対策を表明していた。
だが、侵攻開始から間もなく5カ月を迎える中で、ウクライナ政府からはプラットフォームの関心の低下を指摘する声が上がる。
プラットフォームが「放置」する一方で、フェイクニュースは新たな標的に向けて拡散を続けている。
標的の一つと目されているのは、日本だ。
●「3分の2がそのまま放置」
NPOの連携組織「偽情報状況分析センター(DSC)」は、13ページのレポートの中で、そう指摘している。
調査はロシアによるウクライナ侵攻開始から約4カ月、6月14日から23日までの10日間に、ウクライナ文化情報省の戦略コミュニケーションセンターと連携して実施した。
戦略コミュニケーションセンターは、ロシアによる情報戦対策を担当する。今回の調査のベースとなったのは、同センターが各プラットフォームの利用規約に違反しているとして、削除要請をした投稿やアカウントだ。
削除要請の対象には、侵攻にからむロシアの戦争プロパガンダやヘイトスピーチの投稿や広告、それらを投稿したアカウントや成りすましのアカウントが含まれるという。
ただし偽情報状況分析センターの調査では、削除要請の投稿が実際に利用規約に違反しているかどうか、ウクライナ政府の削除要請によって、各プラットフォームが対応をとったのかどうかについては、検証していないという。
調査結果によると、削除要請の対象となったプラットフォームの件数に著しい偏りがあったことに加え、対応の温度差も見られたという。
●「連絡を避けている」
ウクライナ政府による削除要請の件数で際立っているのはツイッターの1万4,679件で、投稿全体(1万6,556件)の9割近くを占めた。ユーチューブのコメントは1,440件、動画投稿は281件、フェイスブックの投稿は98件、コメントは58件だった。
ツイッターの投稿で、調査時点までに非表示となっていたのは3,962件で、削除要請のうちの27%。ユーチューブでも、非表示となっていたのはコメントが528件(37%)、動画投稿が85件(30%)にとどまっていた。
フェイスブックでは削除要請のあった98件の投稿すべて、コメントは48件(83%)が非表示となっていた。
削除要請のアカウントでは、やはりツイッターが6,361件と最多で、このうち調査時点で非表示となっていたのは506件(8%)。ユーチューブでは1,240件のうち非表示が28件(2%)、フェイスブックは136件のうち非表示は18件(13%)、リンクトインは49件のうち非表示が15件(31%)、フェイスブックの親会社メタの広告関連アカウント19件のうち非表示は4件(21%)だった。
ウクライナの戦略コミュニケーションセンター副センター長、マイコラ・バラバン氏は、ワシントン・ポストのインタビューに、こう不満を述べている。
●侵攻開始当初、プラットフォームの対応
バラバン氏が指摘するように、2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始した当初、各プラットフォームは矢継ぎ早に対策を表明した。
グーグルは侵攻開始翌日の25日、フェイクニュース対策に加えて、ロシア国営メディアのマネタイズの防止、ユーザー保護強化などを公表。ユーチューブは3月1日からEU域内でのロシア国営メディアのRTとスプートニクのチャンネルのブロッキングを実施し、同月11日からはグローバルに拡大している。
ツイッターも2月25日、ウクライナ情勢をめぐって、プラットフォーム操作や不正行為、フェイクニュースなどの検知やユーザーの安全対策の強化を発表。
メタも2月26日、ウクライナ情勢に関するファクトチェック体制の強化と、プロフィールのロック機能など、ユーザー向けの安全措置を発表。さらに28日にはRT、スプートニクのブロッキングを明らかにしている。
そして3月2日には、EUがRTとスプートニクが、域内での放送・配信の全面禁止措置を発表している。
ワシントン・ポストの調べでは、これらの相次ぐ抑制策の中で、各プラットフォームにおけるフェイクニュースは、ウクライナ侵攻開始前後をピークに、急速な減少を見せていた。
ウクライナ政府の不満は、戦争が長引く中で、各プラットフォームのフェイクニュース対策が、当初の熱量から後退してきているのではないか、という点にある。
だが、レポートの共同執筆者で、人権擁護NPO「リセット・テック」のシニアアドバイザー、フェリックス・カルテ氏は、ワシントン・ポストのインタビューに対し、今回の調査結果には、ロシア語、ウクライナ語、そして現地事情の知識があるスタッフの不足が影響していると指摘する。
米シリコンバレー発でグローバルに展開するプラットフォームは、英語圏のコンテンツ管理には注力するが、他言語には十分なリソースをかけていない、との批判は以前からあった。カルテ氏の指摘は、今回の結果もその延長線上にある、との見立てだ。
●拡大する多言語展開、日本も標的に
カルテ氏の指摘の一方で、親ロシアのフェイクニュースの多言語展開は続いている。
その矛先は、欧米の結束の揺さぶりとともに、アジア、アフリカ、中南米の国々へと向かっている。
※参照:ウクライナ侵攻「見えない情報戦」でロシアが勝っている? その理由とは(05/23/2022 新聞紙学的)
※参照:ウクライナ侵攻「偽ファクトチェック」5カ国語で発信、大使館が次々に拡散する思惑とは?(03/14/2022 新聞紙学的)
米調査会社「ミトスラボ」は、親ロシアのフェイクニュースを拡散するツイッターアカウントの9割が、多言語発信をしている、との調査結果を明らかにしている。
「ミトスラボ」はロシアによるウクライナ侵攻前から、継続的に親ロシアのフェイクニュース拡散状況を観測してきた。
※参照:フェイクツイート3,000%増が軍事的緊張を後押しする(02/14/2022 新聞紙学的)
6月21日付で発表した調査は、4月1日から6月1日までの2カ月間を対象に実施。親ロシアツイートを繰り返す1,227のアカウントを特定している。
それによると、親ロシアの偽情報/プロパガンダを拡散するアカウントの92%は複数の言語を使っており、33%はそれぞれ10以上の言語で発信していたという。
3月の調査では親ロシアアカウントが使っていたのは平均して5つの言語だったが、5月調査時点では平均8言語となっており、多言語による発信は拡大傾向にある、という。
中でも南米を標的としたスペイン語による親ロシアツイートは、2月から3月にかけては全体の2%だったのに対して、今回の調査では5%と倍増以上の伸びを示したという。
日本も標的になっている。欧州各国の言語以外で、最も存在感があったのが日本語だった。
149アカウント(全体の12%)が日本語を使い、ウクライナを支持するメディアへの批判や、原爆投下を引き合いに米国批判を煽るなど、日本向けのナラティブを展開していた。
グローバルな情報戦の舞台の一つに、日本ははっきりと位置付けられているようだ。
(※2022年7月19日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)