Yahoo!ニュース

「インフルエンサー」6割は情報確認せず発信、4割は「いいね」・閲覧数で判断 国連が調査

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By HumongoNationphotogallery (CC BY-SA)

「インフルエンサー」6割は情報確認せず発信、4割は「いいね」・閲覧数で判断――

国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)は11月26日、ネット上で影響力を持つ「インフルエンサー」に関する54カ国の国際調査結果を発表した。

調査によると「インフルエンサー」の62%は、情報の正確性を確認せずにフォロワーに発信。42%は、情報の信頼度を「いいね」や閲覧数などの人気度で判断していた。

「インフルエンサー」の影響力は、米大統領選や兵庫県知事選などの選挙で注目された。これらの選挙では、偽誤情報の氾濫も問題視された。

ユネスコは、リテラシー強化の必要性を指摘している。

●「エビデンスで判断」はわずか17%

(回答者の)41.6%が、オンラインコンテンツの「いいね」や閲覧数を、ソース(情報源)の信頼性についての主な判断材料にしている。信頼する友人や専門家によって共有されているかどうかは、信頼性の判断で2番目に多い(20.6%)。3番目に多いのは、そのテーマに関する著者やメディアの評判(19.4%)だ。コンテンツにエビデンス(証拠)や文書が存在するかどうかは、信頼性の判断基準としては4番目(17%)にすぎない。

ユネスコは11月26日に発表した「インフルエンサー」に関する調査結果で、そう述べている。

調査は54カ国で1,000人以上のフォロワーを持つ「コンテンツクリエイター(インフルエンサー)」を対象に8月から9月にかけて実施した。内訳は、150人が英語圏、さらにフランス語圏、スペイン語圏、ポルトガル語圏、ドイツ語圏、ロシア語圏、中国語圏、アラビア語圏の50人ずつの計500人。

フォロワー数は1,000人~1万人の「ナノインフルエンサー」が68%、1万~10万人の{マイクロインフルエンサー」が25%、10万~100万人の「マクロインフルエンサー」が5.4%、100万人以上の「メガインフルエンサー」が1.6%だった。

発信に使う主なソーシャルメディアは、インスタグラム(34%)がトップで、フェイスブック(25%)、ティックトック〈抖音、ドウイン〉(16.4%)、ユーチューブ(9%)の順。X(1.8%)は7位だった。

また、主なジャンルはファッション・ライフスタイル(39.3%)が最も多く、美容(34%)、旅行・食(34%)、ゲーム(29%)、コメディ(27.1%)、ショッピング・レビュー(26.3%)、スポーツ・フィットネス(24.4%)、写真(21%)、動物・自然(14.9%)。選挙などにかかわる時事問題・政治経済は12.2%で10位だった。

コンテンツを視聴者と共有する際、調査対象のクリエイターの大半(62%)は、共有前に情報の正確性を確認していないことを認めた。約3分の1(33.5%)は、ソースやそのクリエイターを信頼しているかどうかを確認せずにコンテンツを共有すると回答した。

発信の前に情報源を確認すると回答したのは、36.9%だった。

また、「インフルエンサー」たちがコンテンツの情報源のトップは「個人的な体験・遭遇した出来事」(58.1%)、「自分の調査・専門家とのインタビュー」(38.7%)で、「主要メディア以外のネット情報のみ」と「主要ニュースメディア」は36.9%で同率だった。

政府などの公式の情報源と回答したのは12.6%にすぎなかった。

●情報を「インフルエンサー」に頼る

情報の入手先をネット上の「インフルエンサー」に頼る傾向が明らかになってきている。

米国の調査機関「ピュー・リサーチセンター」は11月18日の調査報告によると、5人に1人(21%)が、ソーシャルメディア上で「ニュースインフルエンサー」から定期的にニュースを得ている、と回答。18~29歳の若者ではその割合が4割近く(37%)に上った。

その一方で、米ギャラップが10月14日に発表したマスメディアの信頼度の調査結果によれば、1972年の調査開始以来最低の31%となった。

米大統領選では、候補者が「インフルエンサー」による人気ポッドキャストに相次いで出演。「ポッドキャスト選挙」とも呼ばれた。

日本国内でも、東京都知事選、衆院選、兵庫県知事選などで、ユーチューブによる情報発信が大きな存在感を示した。

※参照:「ニュースインフルエンサー」若者の37%が情報源に、85%はXで発信(11/19/2024 新聞紙学的

※「今やあなたたちがメディアだ」とマスク氏、米大統領選でマスメディアは「敗北」したのか?(11/11/2024 新聞紙学的

一方で、偽誤情報の氾濫も問題化した。

米大統領選では、ハイチ移民が多いオハイオ州スプリングフィールドで、移民がペットの飼い猫を食べる、という非公開グループのフェイスブック投稿が発信源とされる偽情報が、「インフルエンサー」らを通じて拡散。混乱を広げた。

●「ファクトチェック」と「リテラシー」

クリエイターの間でファクトチェックが浸透していないことは、偽誤情報に対して脆弱であることを示している。さらに、批判的思考のスキルを持たないクリエイターは、政府やブランドを含む様々な情報操作の標的となり、そのコンテンツの信頼性や誠実性を損なう可能性がある。これらのリスクは、公共の議論に大きな影響を与え、ユーザーがコンテンツに寄せる信頼を損なう可能性がある。

ユネスコの報告書はこう述べた上で、リテラシーの必要性を指摘している。

情報に対するしっかりした批判的評価が不足している現状は、ファクトチェックのための信頼できる情報源を見つけ、利用する能力を含めて、クリエイターのメディア情報リテラシー能力を向上させることが急務であることを浮き彫りにしている。

ユネスコはテキサス大学オースチン校と連携し、クリエイター向けのリテラシー講座を開設している。

Yahoo!ニュースと朝日新聞の共催で、筆者も動画解説を担当したニュースリテラシーのクイズコンテンツ「ニュース検診2024」も公開されている。

また、筆者が運営委員を務める日本ファクトチェックセンターも、リテラシー講座ファクトチェック講座などの情報提供をしている。

リテラシーの向上は、情報の発信者と受信者、いずれにとっても急務だ。

※参照:ダン・ギルモア著『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』を全文公開します(05/12/2016 新聞紙学的

(※2024年11月27日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

平和博の最近の記事