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パウンド・フォー・パウンドの挑発を躱して

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 7月29日、テレンス・クロフォードがエロール・スペンス・ジュニアを9回2分32秒にKOして、ウエルター級統一チャンピオンとなった日、リングサイドには1階級上の4冠王者、ジャーメル・チャーロ、そしてNBAを代表するスター選手、ジェームズ・ハーデンの姿があった。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 クロフォードがスペンスからダウンを奪い、勝利を確信するなか、リング上からチャーロに向かって「おい、俺と戦えないんだろう?」と発言した。チャーロは「お前なんかとやるかよ」と応じた。

写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 傍らでそれを聞いていたハーデンが「お前ら、同じ階級か?」と、チャーロに質問すると「俺は154パウンドで、ヤツは147パウンド。もう、こっちは試合が決まってるんだよ。何だあの野郎は」と答えていた。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 チャーロはこの時点で、9月30日にサウル・”カネロ”・アルバレスに挑むことが決まっていたのだ。チャーロのトレーナーであるデリック・ジェームズは、スペンスも指導してきた。アメリカボクシング記者協会が、2022年の最優秀トレーナーとしたジェームズは話した。

 「カネロ戦はジャーメルがずっと望んできたものだ。スーパーの付くスターダムに上るための一戦だよ。カネロは偉大なファイターで、何年もボクシング界でトップに君臨している。

 そんな相手に勝つためには、これまでにないジャーメル・チャーロを築かねばならない。本人が一番良くそれを分かっている。カネロ戦に集中し、キャンプで勝利するためのメニューを課す。

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 当日の夜、ジャーメルを最も動ける体重でリングに上がらせなければ。そこで、真の実力が発揮できる。チャレンジャーとして戦い、2つの階級で4団体統一王者となるんだ。これは大きな挑戦だ。

 チーム一丸となって、ベストなジャーメルに仕上げる。両選手とも、成功を目指してすべきことをやるだろう。素晴らしいファイトになることは間違いないね」

Ryan Hafey/Premier Boxing Champions
Ryan Hafey/Premier Boxing Champions

 このトレーナーの発言を聞く限り、チャーロはスーパーウエルター4本のベルトを返上せずに戦うらしい。つまり、負けてもスーパーウエルター級統一チャンピオンのままという訳だ。

 バンタム級タイトル全てを返上してステファン・フルトン・ジュニアに挑んだ井上尚弥のような潔さは、現時点のチャーロには無い。こうした判断がどう結果を左右するか。敗者となった場合、クロフォードは、対戦を希望し、ますます挑発するであろう。

 テレンス・クロフォードvs.ジャーメル・チャーロも、是非、見たいカードだ。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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