アイスランド高校生は政治意識なぜ高い?
私は北欧アイスランドに取材に来ていた。9月の国政選挙を目前に控え、首都レイキャビクにあるハムラフリズカレッジ高校のドアをたたく。
私がこの高校を選んだのは、ある少女との出会いがきっかけだ。
カフェで勉強していた高校生のラウラさん(17)。
投票後は友達とパーティー!
「私は今年はまだ投票できないけれど、選挙の話を友達とするのが楽しくてしかたありません。初めて投票するという友人も多いので、投票後はみんなで友人の家でパーティーをする予定です。この日を祝うために!」
「家族も友人も『政治の話をもっとしたい』という人ばかり。学べることが多く、自分の考えを構築できるからだと思います」
「互いの意見が違うのはよくあることで、同意しなくてもOKという空気があります。意見が違っても関係性が悪化することはないし、そんなことは心配もしていません。友人も私の考えを変えようとはしないし、むしろ尊重してくれます」
「政治の議論の練習ができる授業は、社会や英語の授業でしょうか。英語でアイスランド政治の議論をするんです」
彼女の高校は政治や環境意識が高い若者が多いことで有名だという。
そこで校長先生に連絡したところ、日本語を学ぶクラスを訪問してみてはと提案があった。
投票権がない人、初めて投票する人が同じ教室にいる高校時代
高校となると、「まだ投票できない人」と「初めて投票する人」の両者が同じ教室にいる。北欧各国では、各政党の訪問や討論会、模擬選挙などが開催されるので、自然となんらかの刺激を受けることになる。
「初投票で緊張しています。まだ投票先は決めていないけれど、各政党の公約をチェックします」と話したのはブリンニャさん(18・今回が初投票)。
政党は高校生と話そうと必死
各政党の公約冊子は自宅の郵便箱に入っているだけではなく、政党が揃って学校を訪問し、生徒と話すチャンスが設けられる。
「学校にまで来て説明してくれることはいいと思う。子どもの理解が深まる」と答えたクリスチャンさん(17)は、模擬選挙で投票の練習をした。
アイスランドにも良くない政治家はいるが、でもそれは一部の政治家で、「政治」や「政治家」全体に絶望することはないとも語った。
歴史から生物学まで、どの科目も政治の授業になる
「歴史や社会の授業中に政治の話をよくします。生物学の授業でもSDGsを取り扱います」と話すのはアンナさん(16)。
家での親との会話はどうしてる?
アンナさん「自分の1票の効果は大きいと教えられて育ってきました」
「私は親の投票先は知りません。予想はできるけど、親は秘密にしています 親は私に自分で決定ができるように配慮してくれていて、私がどうするべきかとかは言いません」
「自分が投票したい思う政党が親と違うということはよくある?」と聞くと、イエス!と多くの人がうなずいた。
ビョルンさん(19・今回が初投票)「親は私と政治の議論をしようとしますが、私の考えに影響を与えたくないとも思っています」
ブリンニャさん「親も子供に影響を与えることができます。子どもが政治の話をしているのを聞くだけでもいい」
意見が違う相手が感情的になったらどうする?
支持政党が違っても、友達でい続けることに難しさは感じてないという。個人と意見を分けるというテクニックが北欧諸国にはあるが、彼らは日常生活でどうしているのだろう。
ビョルンさん「個人と意見を分けることは多くのアイスランドの人はできるとうけれど、もし相手が傷ついたら謝ります」
アンナさん「討論はそもそも相手に影を落とすためのものではありません。自分がこの政党を支持するから、他の人もそうするべきだとは思わない」
子ども扱いしない周囲
日本から交換留学生として彼らと交流しているすずかさんは、自身の体験を話した。
すずかさん「アイスランドでは18歳は大人として扱われます。この文化に慣れていないと放置されていると感じることもあるかもしれないけれど、ひとりの人として意見交換ができる。そういう状況を日本でも作ることができたら『子どもの意見だから』と言われることもなく、家族内でも真剣に話し合えるのかなと感じます」
アンナさん「私たちはバカではなくて、ただ経験が足りないだけ。経験は学んでいくものだから、子ども扱いするべきではないよね」
アメリアさん(19・今回が初投票)「若いからこそ新しいアイデアが生まれて、実験もできるしね」
「あなたには社会を変える力がある」と教えられ、育ってきた
ビョルンさん「小さい国だけど、私たちは自分たちの声が聞かれているという実感が好き。小さい頃から声をあげて、沈黙しないようにと教えられてきました」
「アイスランドのように政党が多すぎると複雑化するし、市民のやる気を失わせる一因にもなります。でも反対に、多くの政党は特定の政策に特化しているから、『ここが自分のための政党だ!』と、市民にとっては選びやすくもなります」。
「小さい国だから、1票の影響力が大きい。地方に住んでいたら1票はさらに大きな力を持ちます」
「自分には社会を変える力があると思う?」と聞くと、誰もが迷わずにイエス!と強くうなずいた。
アンナさん「将来がどうなるかを決めることができるのは、私たちの世代ですから」
そう教えてきたのは家庭であり、学校であり、メディアであり、社会にあるたくさんの現場だそうだ。
アンナさん「小さすぎる国だから市内で政治家はよく見かけるし、誰もが親戚に政治家がいるのではとさえ感じます」
政治が身近すぎて、政治はもはや空気のようなものではなく、直接感じることのできる「物質的」なものだとアンナさんが指摘した言葉は、私には印象的だった。
投票率を上げるために、あなたならどうする?
「あなたは国の首相だとして、若者の政治参加を高めるための取り組みを自由にできます。だとしたら、どうする?」と私は聞いた。
ヤコブさん(17)「アートでもっとプロモーションします!」
ブリンニャさん「学校で子どもの価値観を反映させた政党を作るといい!前の学校では授業の課題で、自分が政党になりきって、他の子どもに『なぜあなたは私に投票するべきか』を発表したこともあります」
クリスチャンさん「私の前の学校でも、実際に自分たちで政党を作るという課題がありました」
ビョルンさん「アイスランドでは、子どもに架空の政党を作らせることは普通です。おかげで政治への関心が高まったという子どももいるでしょうね」
ビョルンさん「こういう課題は本来は政府の責任であるべき。例えば、政府は学校にプレゼンをしにきて、生徒の出席は義務にするといいのでは」
政治の話をする彼らの表情はイキイキとしていた。日本と北欧の高校生が交流したら、画期的なアイデアがうまれそうだ。