Yahoo!ニュース

ホリプロ女優の本流を継ぐ優希美青。主演の60周年記念映画で「闇を抱えた役に自分を出しました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『NO CALL NO LIFE』に主演した優希美青(撮影/松下茜)

ホリプロの創立60周年記念映画『NO CALL NO LIFE』が公開された。W主演の一方を託されたのは優希美青。深田恭子、綾瀬はるか、石原さとみらを輩出した登竜門「ホリプロタレントスカウトキャラバン」で、中1だった2012年にグランプリを受賞している。国民的正統派女優の系譜を継ぐべく期待される彼女が、この作品では親の愛を知らずに育ち、危うい恋に走る女子高生を演じた。

グランプリとして応募者の想いは受け継ごうと

――美青さんがホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを獲ったのは、もう9年前になります。

優希 エーッ!? そんなに経つんでしたっけ(笑)?

――グランプリからデビューして、良いことは多かったですか?

優希 いろいろなご縁はありました。私はもともと人見知りで、人と話すことが苦手だったのが、たくさんの方とお会いするようになって、少しずつ慣れてきました。

――中1で最初からそれだけ、関係者とかに会うことが多かったんですね。

優希 はい。もう目まぐるしくて「大人がいっぱい!」みたいな感じで大変でした(笑)。

――グランプリの重さを感じることもありました?

優希 ファイナリストの10人や応募した3万人の想いを受け継ぐというか、芸能界に入りたくて入れなかった人たちがたくさんいる中でグランプリに選んでいただいたわけだから、期待に応えなきゃいけないとは思ってました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

「平成の山口百恵さん」はプレッシャーでした

――スカウトキャラバン出身の深田恭子さん、綾瀬はるかさん、石原さとみさんたち先輩女優の系譜を継ぐ意欲もありました?

優希 自分ではそこまで意識してなかったんですけど、上の方から「そういうふうになってね」とよく言われました。スカウトキャラバンの実行委員長は通常チーフマネージャーさんがやられていたんですが、私の回は初めて10人の部長が担当されていて。「目指すは平成の山口百恵さん」みたいにも言われて、それはすごくプレッシャーでした。

――美青さんなりに、ホリプロの女優さんの伝統みたいなものは何か感じますか?

優希 何ですかね? 皆さんと接して思うのは、大先輩なのにフレンドリーでアットホームなんです。さとみさんは私の最終選考のときに審査員として来てくださって、それからお会いするたびに「きれいになったね」とか「大人になったね」とか気に掛けていただいて。だから、私も後輩を気づかえるようになりたいと思っています。

――実際、後輩とはそんなふうに接していて?

優希 あまり接する機会はありませんけど、後輩の子が「この役について悩んでます」とか連絡をくれて、頼ってもらえるのはうれしいです。力になってあげたいし、「オーディションに何を着ていけばいいですか?」とか聞かれると、かわいいなと思います(笑)。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

「私だったら」と自分中心に考えて演じました

ホリプロ60周年記念映画『NO CALL NO LIFE』で優希が演じた佐倉有海は高校3年生。携帯電話に残された過去からの留守電メッセージに導かれ、学校一の問題児・春川真洋(井上祐貴)と出会う。親の愛を受けることなく育った似た者同士の2人は恋に落ちるが、春川は警察に追われる身になる。

――『NO CALL NO LIFE』で有海を演じるに当たって、井樫彩監督に「美青ちゃんが持ってる闇の部分を出してほしい」と言われたそうですが、美青さんは闇を持っていたんですか?

優希 人生において、闇は多かったです(笑)。最初は監督のおっしゃることがよくわかりませんでした。私と似てる役と言われても、私は有海のような人生を送ってないし。でも、フタを開けてみたら、まったく同じではなくても似たような状況があったり、何となく有海に寄り添えて「そういうことか」と思いました。

――美青さんはたぶん、ご両親に愛されて育ったんですよね?

優希 でも、13歳でグランプリに決まって、ビューンと東京に出てきて、最初は両親と離れて生活していたんです。お父さん、お母さんに会いたいと思うときはありました。震災で福島から山形に避難して、お父さんは1人で残って逆単身赴任みたいになって、周りの友だちが「家族旅行に行った」とか「夜ごはんでパパとママが待ってるから帰る」と言うのも羨ましかったです。親の愛情がなかったわけではないですけど、お父さん、お母さんとごはんを食べられなかったりしたので、有海の気持ちがちょっと理解できました。

――なるほど。“闇”というかはともかく、ご両親の愛はあっても身近で触れられない状況があったと。そういった自分自身の内面とも、演じながら向き合ったわけですか。

優希 そうですね。監督にそういうことを言われてからは、「私だったらどう思うだろう?」とか、自分中心に考えました。監督に「美青ちゃんならどうする?」と聞かれて、「こうすると思います」と言ったら、「じゃあ、そうしよう」という感じでした。

――美青さんの考え方が反映されたシーンもあるんですか?

優希 ところどころありました。たとえば(一緒に暮らすいとこの)航ニイとの他愛ないシーンで、私が言った台詞が台本と違っていたんです。監督は「そのほうがいい」とおっしゃったのですが、自分では台本通りに言ったつもりで、変えた意識もなかったし変わっていたことに気づいてもいなくて。「エッ? 私、なんて言いました?」みたいな(笑)。でも、監督は「ナチュラルに出た言葉で良かった」と言ってくださいました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

嫌われない人にはわがままを言いたくなります

――有海も友だちといるときとかは、特に闇は感じさせませんでした。

優希 でも、3人で歩いて帰っているときとか、2人が楽しく話している中で留守電のことが気になって、心ここにあらずだったり。そういうところが、監督と初めてお会いしたときの私にもあったらしくて、「そこが有海に似ているよ」とおっしゃってました。

――自分のそうした面に、有海を演じながら気づいたと?

優希 整理していったら、確かに有海と似ているかもと思いました。変に頑固なところもそう。春川と花火をするシーンで、春川が忘れていて「ごめん。やろう」と言われても、有海は「もういい!」と突っぱねていて、私も日常でそういうタイプです(笑)。お母さんとか信用している友だちとか、自分が無茶を言っても離れていかない、嫌われない安心感がある人にだけですけど、ちょっとわがままを言いたくなっちゃうのは、有海と重なりました。

――有海が似た者同士の春川に惹かれていく心情もわかりましたか?

優希 そこは私は逆なんです。同じものを好きな人より、自分の知らないことを教えてくれる人に魅力を感じます。でも、春川みたいに学校帰りとかにグイグイ来られると、気になってしまう有海の気持ちは理解できました。

――有海には「痛いとき、苦しいとき、自分を少し遠くに置いてみる」という台詞もありました。

優希 それもすごくわかります。私、1コ悩み出すと、永遠に考えてしまうんです。『(名探偵)コナン』とかを観て気晴らしはしても、根本的に悩みはずっとあるから、なるべくそのことは考えないようにします。変に真面目なところもあるので、失敗してめちゃめちゃ反省していると、すごくネガティブになってしまって、かえって良くないので。

――じゃあ、有海は複雑な役ですが、それほど悩んだりはしませんでした?

優希 そうですね。演じていて大変だと思うことは、あまりなかったかもしれません。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

何回撮っても涙がどんどん溢れ出して

――クライマックスではカットがかかっても涙が止まらなかったそうですが、今までもそういうことはあったんですか?

優希 なかったと思います。今回はカットがかかった瞬間に落ち着いてから、何も考えてないのに、また涙が流れてきて。確かに珍しいことでした。何テイクもお芝居をしていると、涙は引いてくるじゃないですか。それが今回はなくて、むしろどんどん溢れ出してきました。

――現場でもずっと、有海のテンションでいたんですか?

優希 それはなくて、現場は毎日楽しかったです。暗いお話だから現場もドヨーンとするのでなく、逆に撮影中はみんな集中して、次のシーンまでの間は明るく元気。こんなに楽しい現場は久々かなと思ったくらいです。

――切り替えは自然にできて?

優希 はい。よく主役が現場の空気を作ると言うじゃないですか。私の目標は「みんなで楽しく。いい思い出を作ろう」という感じだったので、大変なシーンの前も、なるべく皆さんとコミュニケーションを取りながらやってました。

――有海と春川には思春期の危うさが漂っていましたが、美青さんは思春期に芸能界に入って、振り返れば自分に危ういところがあったとは思いますか?

優希 私、反抗期が長かったんです。中2から、たぶん高2くらいまで続いてました。門限があって、学校が終わってまっすぐ帰らないと間に合わないような時間に、お母さんが決めたんですよ。その時間をちょっと過ぎただけで、「誰といたの?」とか聞かれて、「そこまで気にしないで!」となってしまって。今考えると申し訳ないんですけど、「もういい!」って、お母さんに内緒で遊びに行ったこともありました。

――その感覚を変換すると、有海の行動に重なるのかも。

優希 そうですね。春川との逃避行になりました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

いろいろなポジションで求められる存在が目標です

――『NO CALL NO LIFE』はあとで振り返ったら、美青さんの転機になってそうですか?

優希 新たな発見がありました。これだけ自然体で、お芝居しようとしなかった作品は初めてです。演じるというより、自分を出す。私はこっちのほうが好きなんだと、学びがありました。やり甲斐や撮り終わったときの達成感は大きかったです。

――完成した作品を観て、イメージ通りになってました?

優希 なってなかったです。お芝居をしようとしてなかったから、「私、こんなことをしていたんだ!」って、驚きがたくさんありました。今までは「こういう感じになればいいな」と考えてお芝居をしていたから、出来上がって「できていたかな」というふうに観てましたけど、今回はそのときの感情を言葉にしていたので。やっていたときは何が何だかわからなくて、観たら「こんなに感情が爆発していたの?』と思ったりしました。

――今回はホリプロ60周年記念映画ですが、70周年の頃の美青さんは、今の石原さとみさんたちみたいなトップ女優になってますよね?

優希 なっていたいです。でも、ひとつひとつを次に繋げたいスタンスは変わりません。ちょっとずつレベルアップして、いろいろな作品や組から必要とされる存在になれたら。今回みたいに主演を任されたり、主演の方を支えるポジションで呼ばれたり。「この女優さんは受けの芝居をするから、優希美青に投げる芝居をしてもらおう」とか、そういうことに臨機応変に応えられるようになりたいと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

Profile

優希美青(ゆうき・みお)

1999年4月5日生まれ、福島県出身。

2012年に「第37回ホリプロタレントスカウトキャラバン」でグランプリ。2013年4月にドラマ『雲の階段』で女優デビュー。主な出演作は映画『でーれーガールズ』、『ちはやふる-結び-』、『ママレード・ボーイ』、『うちの執事が言うことには』、『10万分の1』、ドラマ『あまちゃん』、『マッサン』、『デスノート』、『赤ひげ3』など。

『NO CALL NO LIFE』

配給/アークエンタテインメント

テアトル新宿ほか全国公開中

公式HP https://nocallnolife.jp/

『NO CALL NO LIFE』より
『NO CALL NO LIFE』より

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事