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住民投票「公文書廃棄」と報じた読売新聞がモリカケで報じたこと報じなかったこと

大阪市の公文書廃棄を伝える読売新聞の記事(筆者撮影)

都構想公文書、大阪市が故意に廃棄…議員には存在を隠蔽

 この見出しの新聞記事を見てどのように感じるだろう? 普通の感覚なら、公務員が公文書を廃棄するなんてけしからんと、まず思うだろう。しかも議員に隠ぺいまでしている。まさに問題で、そこに私も異論はない。

 ここで言う「公文書」とは、11月1日に投票が行われた大阪市の住民投票をめぐるものだ。大阪市を解体して4つの特別区に分割した場合の財政試算について記事を書いた毎日新聞の記者が、記事の素案を内容確認のため大阪市財政局の担当者に送り、担当者がそれを部局内で共有した。つまり書いたのは毎日の記者だから「それが公文書になるの?」という素朴な疑問が湧くが、役所内で文書を共有したら公文書扱いになるのだという。

 大阪市解体は、大阪維新の会のいわゆる「大阪都構想」の一環だから、見出しに「都構想公文書」と付けたのだろう。そして公文書扱いになるのなら、それを勝手に廃棄するのはもちろんルール違反だ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b1696b9dd2b81cee43906b77b426fa54b5f1fd2b

実は森友事件とほぼ同じ

 この記事は読売新聞に載っている。その見出しに何か見覚えがあるなあと感じた私は、ふと気がついた。あっ、「都構想」を「森友」に、「大阪市」を「財務省」に変えたら、森友事件とほぼ同じじゃないか! 議員に隠ぺいしたところまで同じだ。

読売の見出し。大阪市を財務省に変えればそのまま森友事件(筆者撮影)
読売の見出し。大阪市を財務省に変えればそのまま森友事件(筆者撮影)

 でも、森友事件が発覚した2017年(平成29年)2月のあの時、盛んに報道したのは朝日新聞と毎日新聞とNHKだった。読売新聞は産経新聞とともに、当初はほとんど何も記事を出さなかった。NHKで森友取材を担当していた私はよく覚えている。

 森友の文書はスルー、都構想に不利な文書は叩く、というのであればダブルスタンダードになってしまう。そうではなく、財務省であれ大阪市であれ公文書の無断廃棄や改ざんは許されず、どちらも責任を追及していく、という姿勢に読売新聞が転じたのであれば、歓迎すべきことだ。さて、どちらだろう?

権力に不利なことは報じず有利になるよう報じるのか?

 ここで「モリカケ」と並び称された加計問題のことを思い出す。加計学園の獣医学部新設計画で「行政がゆがめられた」と告発した前川喜平元文部科学事務次官について、出会い系バー通いを記事にしたのが読売新聞だった。前川さんの告発が世に出る直前のタイミングだったこともあり、前川さんの信用を貶める意図があったとしか思えなかったことから、「不公正な報道だ」「口封じではないか」と、むしろ読売新聞が批判された。権力に不利なことは報じず、有利になるよう報じる。それが社是なのだとすれば、実に怖ろしいことである。そうではないと信じたい。

批判を浴びた読売の記事(筆者撮影)
批判を浴びた読売の記事(筆者撮影)

 …と、手厳しいことを書きはしたが、実は読売新聞は私のNHK新人記者時代のあこがれだった。黒田軍団と称された読売新聞大阪社会部の若手記者谷やんの活躍を描く漫画「こちら大阪社会部」。読売東京社会部記者だった本田靖春さんの「警察(サツ)回り」を読みふけって胸を熱くし事件記者を志した。読売で当時「東の本田、西の黒田」と並び称されたという。兵庫県警担当になってからは一番事件に強い読売をずっと購読し、読売の記者を最も警戒した。大阪府警時代は読売の朝刊で自分の原稿の間違いに気づき、あわてて早朝に警察幹部に電話で確認して書き直したこともある。今も尊敬する記者がいる。どこにだって優れものの記者はいる。その人たちこそ「読売、こうじゃないだろう」と嘆いているだろう。

松井市長の言葉はご自身に跳ね返る

 記事にはもう一つ注目すべき内容がある。松井一郎大阪市長が記者団に「危機管理として最悪。幹部職員が責任を取らないといけない」と述べたというのだ。

松井さん、その言葉ご自分に跳ね返ってきますよ(筆者撮影)
松井さん、その言葉ご自分に跳ね返ってきますよ(筆者撮影)

 でも、森友事件のそもそもの始まりは森友学園が設立をめざした小学校だ。その小学校の名誉校長は当時の安倍首相の妻の安倍昭恵さんで、認可の権限がある大阪府は、私学審議会でいったん認可が認められなかったのに、臨時の審議会を開いて認可の方向に持っていった。当時の大阪府知事は松井氏だ。

 そして認可のためには用地が必要で、財務省近畿財務局が国有地を大幅に値引きして売却した。その取り引きの公文書が廃棄されたり改ざんされたりした。だから松井市長のこの言葉はそっくりご自身に跳ね返ってくるのだ。

産経新聞には素敵な動きを続けてほしい

 ところで、読売新聞と趣旨が似た記事を産経新聞も載せている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/c6c4934a1645ccb62a55c89478eb97688d2f59fe

産経の記事も読売と趣旨は似ている(筆者撮影)
産経の記事も読売と趣旨は似ている(筆者撮影)

 公文書を故意に処分してはいけない。公務員が決してしてはならないことだ。だが先に指摘したとおり、産経新聞も森友事件は当初スルーしている。この「公文書」に基づく記事は、住民投票で賛成派に不利に働いたと見られている。都構想に不利になるから問題を指摘する、政権に不利になるなら書かない、というのでは、権力への向き合い方として問題があるだろう。

 私はきのう18日、【産経新聞で素敵な動きが起きている】という記事をYahoo!ニュースに出した。

https://news.yahoo.co.jp/byline/aizawafuyuki/20201118-00208473/

 森友事件で公文書の改ざんをさせられ命を絶った財務省近畿財務局の赤木俊夫さんの妻、赤木雅子さんが起こした裁判について、産経新聞のウェブ上の記事が的確に解説していた。そのことについて次のように書いた。

赤木雅子さんの裁判を的確に解説する産経の記事(筆者撮影)
赤木雅子さんの裁判を的確に解説する産経の記事(筆者撮影)

『この記事を書いた産経の司法記者と、掲載を決めた産経大阪社会部が、記者として、新聞としての「意地」を見せてくれたのではないかと感じる』

『産経新聞大阪社会部の皆さま、特に大阪司法記者クラブの皆さま、ぜひ赤木雅子さんを取材してあげてください。東京の圧力に負けずに、大阪人の意地と新聞人の気概を見せて下さい』

 今もそのままの思いである。そして私も、大阪生まれではないエセ大阪人の意地と、記者の気概を見せる仕事をしたい。

大阪地裁前で夫・俊夫さんの遺影を掲げる赤木雅子さん(筆者撮影)
大阪地裁前で夫・俊夫さんの遺影を掲げる赤木雅子さん(筆者撮影)

この記事のネタ元は…

 最後に、この記事の元になった読売新聞の記事に気づかせてくれたのは、ある方からのツイッターのダイレクトメッセージだった。見知らぬ方から初めて、「おたく、これスルーすんの?」という言葉とともに記事のリンクが送られてきた。おかげでこの記事を出すことができた。ツイッターのプロフィールを見ると大阪維新の会を支持しているそうだ。

 私“は”スルーしませんでしたよ。絶妙のタイミングでのメッセージ、どうもありがとうございました。

【執筆・相澤冬樹】

絶妙のタイミングでの情報提供(筆者撮影)
絶妙のタイミングでの情報提供(筆者撮影)

宮崎生まれ。NHKで記者修業30年余(山口・神戸・東京・徳島・大阪)。森友事件取材中に記者を外され退職。経緯は文春文庫『メディアの闇「安倍官邸vs.NHK」森友取材全真相』。還暦間近なるも修業継続中。「取材は恋愛に似ている」を信条に、Yahoo!ニュースや週刊文春、週刊ポスト、日刊SPA!、日刊ゲンダイなど様々な媒体で執筆。ニュースレター「相澤冬樹のリアル徒然草」配信中→http://fuyu3710.theletter.jp/about

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