東京地検特捜部の「桜を見る会」捜査は国会議事録を訂正させることだけが目的だった
フーテン老人世直し録(555)
極月某日
先週21日の安倍前総理に対する東京地検特捜部の任意の事情聴取から、25日の衆参議院運営委員会での安倍前総理の説明に至る過程は、検察と政治権力が綿密に打ち合わせを行った結果のようにフーテンには見えた。
まず前提の第一は、検察は安倍事務所に対する強制捜査を行わない。ただ誰もが信じられないでいる国会での虚偽答弁は訂正させる。そして補填の事実は認めさせるが、その具体的な中身は封印する。それが21日から25日までの5日間に粛々と行われた。
従って2014年に起きた小渕優子事件と事件の本質は同じなのに異なる展開となった。小渕事件で小渕事務所は強制捜査の対象となり、ドリルで壊されたパソコンのハードディスクが発見されたりした。政治資金収支報告書に虚偽記載をした秘書は在宅起訴され裁判で有罪判決を受けた。
しかし安倍事務所は強制捜査の対象にならない。政治資金収支報告書に記載しなかった秘書は略式起訴で裁判は開かれず、100万円の罰金を収めて終わりになった。しかもこの秘書は地元後援会の代表だが、事件の構図とは関係ないことが25日の安倍前総理の答弁で分かった。
議員本人はいずれも不起訴だが、小渕事件の場合には議員は本当に知らなかった可能性がある。しかし安倍前総理の場合は国会で虚偽答弁を繰り返したのだから、答弁内容に本人が少しでも疑念を抱けば事実を知りえたはずだ。それを知らないことにしていたとすれば秘書との共謀が成立する。
そして問題の秘書だが、略式起訴された配川秘書は地元の後援会の代表だったがために立件された。実際にホテル側との交渉や資金のやり取りは、東京事務所の秘書が行っていたと安倍前総理は国会で答弁した。政治資金管理団体「晋和会」を担当する秘書と思われる。
「晋和会」の会計責任者は元毎日新聞記者の西山猛氏である。5年前に公設秘書の定年を迎えて現在は私設秘書だが、「金庫番」と言えるのはこちらの秘書だ。衆参議院運営委員会で安倍前総理は、「5千円で間違いないね」と問い質した相手は「東京の秘書」だと言った。西山氏のことと思われる。
そして安倍晋三後援会が「桜を見る会」への参加募集を始めた2013年には、ホテルが補填額を「晋和会」に請求し領収書を発行していたことも分かっている。政治資金収支報告書に記載はなくとも、補填分を「晋和会」が支払った事実は1回だけ記載されている。
それが2014年からまったく何も記載されなくなった。フーテンは小渕事件の発覚を見て記載しなくなったのではないかと以前のブログに書いたが、だとすれば安倍事務所は極めて意図的で悪質な「隠蔽」に踏み込んだと思う。そしてそれは地元の安倍晋三後援会ではなく、東京の政治資金管理団体「晋和会」を中心に進められたと思う。
虚偽答弁のキーポイントは、主催をホテルに見せかける常識外れの説明だが、それも東京事務所で作られた。つまり参加料5千円を設定したのはホテル側、安倍事務所は金の受け渡しの仲介をするだけ、参加者とホテルが契約の主体という構図である。
安倍夫妻や安倍事務所はホテル側に会費を支払っていないが、一切飲食をしていないと安倍前総理は国会で説明した。しかし安倍夫妻が参加者と共に乾杯を行っている姿を大勢の後援会員は見ている。
この子供だましの嘘は、西山秘書が安倍前総理から「5千円で間違いないんだね」と言われて作り出されたと考えられる。森友問題で「私も妻も一切関わっていない」と安倍前総理が国会で答弁したため、総理を支える財務省の佐川元理財局長はその嘘を覆い隠す嘘を作り出さざるを得なくなり、「文書はすべて廃棄した」と言い、さらに公文書を改ざんせざるを得なくなった。
東京事務所はホテルを盾にするしかないと考え、無理なストーリーをひねり出した。これは安倍前総理が現職総理でいる間は通用する。しかし権力を手放せばいつまでも封印できるものではない。必ず領収書や明細書は出てくるものだ。
それを最も軽微な影響で済むように取り計らったのが東京地検特捜部の捜査である。疑惑の本丸は「晋和会」であるのに、それを捜査の対象とせず、地元の秘書を立件することで終わらせるストーリーを考えた。配川秘書は肩書が公設第一秘書だから世間は大物秘書が処分されたと考える。
そして特捜部はホテル側が領収書や明細書を任意で提出したことにして虚偽答弁を訂正させ、それ以上のことは何もしない。なぜ2013年には「晋和会」が補填分を記載していたのに翌年から一切記載しなくなったのか、「晋和会」とホテル側がどんなやりとりをしていたのかなど、それらを捜査の対象としないことで検察と政治権力は折り合った。
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