「死ぬ気でやる」はもう死語か? メチャクチャ頑張るときに使うべき言葉はどう言う?
■もう「死ぬ気でやる」はやめましょう
「死ぬ気でやります」
「今度こそ、命がけでやらせてもらいます」
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントである。「絶対達成」という表現を使っているせいで、昔から意識の高い人が私の周りに集まってくる。ありがたいことだ。私にも多くのエネルギーをもたらしてくれる。
ただ、引っかかることもある。それは、そういう熱い人たちはやたらと、
・死ぬ気で
・命がけで
・がむしゃらに
・初心にかえり
・一から出直して
・本気で
・退路を断って
といった副詞を使いたがること。
こういう刺激的な言葉を使って自分を鼓舞したいのはわかる。わかるが、実際の行動との落差がありすぎるとかなり失望させられる。だから不用意に使わないほうがいい、と私は思っている。
それに今どき「死ぬ」という表現をビジネス現場で使うこと自体、無分別ではないか。「死ぬ気でやります」と宣言する人ほど、後輩や部下にも「死ぬ気でやれ」と安易に使いがちだし、それを言われて気分を害する人もいるだろう。だから、今回は別の表現も考えてみたい。
■「死ぬ気でやれよ。死なないから」
「絶対内定」で著名な杉村太郎氏にはこんな名言がある。「死ぬ気でやれよ。死なないから」。このクールな名言に私は強く共感する。「死ぬ気でやります!」「死に物狂いで頑張ります!」という人に、「そこまで頑張らなくてもいいよ」なんて、口が裂けても言えない。
「絶対達成コンサルタント」を名乗って15年以上が経った。「死ぬ気でやる」という表現で私に誓った人は100人や200人程度ではない。しかし実際にその行動計画、そしてその間に費やされた労力を目にしてきて、身も心も壊れそうになるぐらいに考え、行動し、疲れ果てた人はいない。
なぜなら、周りから「これ以上はやめたほうがいい」と止められるぐらいに精根尽き果てるまで頑張る人は、事前に「死ぬ気でやる」と宣言しないからだ。
だから「死ぬ気でやれよ。死なないから」という言葉に私は同調する。「そんなこと言って、本当に死んでしまったらどうするんだ?」という問い掛けには頭を働かせない。
「家の外に出て、万が一交通事故に遭ったらどうするんだ?」
という問い掛けと同レベルと思うからだ。必死に努力しないことは、交通事故に遭うのがいやで家に閉じこもっている人と同じぐらいにリスクが高いのである。
■「死ぬ気」の基準はある?
「死ぬ気でやる」という表現は使わなくてもいい。使わなくてもいいが、「死ぬ気でやる」ぐらいの心情で頑張るというのは、そもそもどれぐらいのレベルの頑張りなのか、そのレベル感ぐらいは言語化できていたほうがいいと私は思う。
ちなみに、私の「死ぬ気でやる」レベルは以下のような基準だ。
世界的に著名な成功者(たとえばソフトバンク創業者 孫正義氏)が「へとへとに疲れた。もう無理です。ごめんなさい。勘弁してください」と根を上げるほどの努力の【10倍】。
これが私の「死ぬ気」の基準である。
神経伝達物質「エンドルフィン」が出まくり、感覚が研ぎ澄まされ、痛みを痛みと感じないほどの超集中力を、それなりの長期間保ち続けるぐらいのレベルと言っていい。
この状態が1週間も続くと不眠状態に陥るかもしれない。だから危険だ。したがって「エンドルフィン出まくり」の状態が2日間ぐらい続き、半日ほど通常モードに戻して、もう一度「エンドルフィン出まくり」の状態に突入――という日々を数ヵ月間ぐらい過ごす。これぐらいやれば「死ぬ気でやっている」と言っていいのではないか(※だから私は「死ぬ気でやる」とは絶対に口にしない)。
どうだろう?
これを読んでいる人の「死ぬ気でやる」は、どのレベルだろうか。やるかどうかは別だ。しかし、言語化できないと、自分自身で「死ぬ気でやっているかどうか」の判別ができない。
野球選手が「次のボールは引っ張って打ちます」と言っているのに、実際は「流し打ち」をしたらどうだろう? 言っていることとやっていることが違うと言われてしまう。
使う副詞には責任を持とう。
■「死ぬ気で」を使わず、どう表現するのか?
「SDGsウォッシュ」という表現が世界中で使われるようになった。うわべだけでSDGsの真似事をしている人や組織を指す言葉である。昨今、やたらとビジネスの現場で使われるようになったDX(デジタルトランスフォーメーション)もそうだ。DXに取り組んでいるように見えて、実態が伴っていない企業が急増している。
そう考えると「死ぬ気」も同様だ。「死に物狂い」とか「命がけで」といった表現を使ってばかりいると「死ぬ気ウォッシュ」と言われかねない。
「SDGs宣言をしておきながら、うちの社長、社会的課題解決にまるで関心がない」
と言われるのと同じように、
「死ぬ気でやるとか言いながら、あの人、それほど頑張ってない」
と後ろ指をさされてしまう。
なので、そんな大仰な副詞を使うのではなく、キチンと数字で表現すればいい。
「これまで30の行動をしていましたが、100にします」
「20%の確率を40%までアップします。そのためにやることは3つのことです」
と理路整然に表現すればいい。「死ぬ気で」とか「退路を断って」といった刺激的な副詞など省き、最後に「頑張ります」とだけ言えばいいのだ。
起業家が会社を起ち上げ、事業を軌道に乗せるまでは、さすがに相当な苦労をすると思う。しかし、そのようなシチュエーションではない限り、大半のビジネスパーソンは、そんな「死ぬほど」の努力をしなくても、望む成果は手に入れられる。
慣れていないことを慣れるまで何度もやったり、これまで使ってこなかった頭をフル回転させるぐらいで、大抵はうまくいく。そこまでの覚悟がなくても成果は出せることを知っておこう。