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89歳の生保レディはどのようにして、19億円以上をだましとったのか?狡猾な手口に迫ります。

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

89歳の元生保レディが、10年にわたり24人の顧客から19億5000万円以上をだましとったとして、第一生命被害者弁護団が結成され、今月17日に記者会見が行われました。

この会見から、元生保レディのだまし方がいかに巧妙だったかが、見えてきています。

多くの人がお金をとられてしまった理由に、第一生命が与えた2つの肩書が大きくかかわっています。

一つは「上席特別参与」です。

これは、あまたいる保険営業のなかで、十数人にだけ与えられている称号で、彼女の名刺にも上席特別参与の肩書があり、「保険のプロフェッショナルの中から、特に優れた営業職員の証である」とあります。

二つ目は、唯一、彼女だけに与えられた「特別調査役」というものです。

本来、80歳が定年とのことですが、彼女には顧客が数百人もいたため、この役職が与えられたといいます。

彼女は、これらの肩書を通じて、いかに自分が優秀で選ばれた存在であるかを誇示し、顧客に嘘の話を信じさせました。

真実に嘘を混ぜるテクニック

元生保レディの話の持って行き方は非常に巧みでした。

被害者の一人は、母親が亡くなって、5000万円の死亡保険金の受け取り手続きと説明を受けるために、彼女のもとを訪れました。彼女は第一生命の次長とともに「第一生命が利息をつけて死亡保険金等を預かる制度」を説明して、被害者はこれを利用することにしました。

数日後、彼女から「私のようなトップセールスだけが持てる第一生命の特別枠口座がある。こちらを使えば、もっと高い金利でお金を預かれる」という話を持ち掛けられて、5000万円をだましとられています。

これは詐欺などで行われる、真実に嘘を混ぜるという実に巧妙なやり口です。

次長とともに、最初に説明したものは、実際に第一生命にある「すえ置金」制度で、真実です。

しかし、その後に彼女が話した「高金利の特別枠口座」の話はまったくの嘘。

真実に嘘をまぜることで、嘘が見抜きづらくなってしまうのです。

特に保険の内容は素人には、わかりづらいもの。

人はわからないことが出てくれば、その筋の専門家にお任せしようとするものです。その時、任せる相手が信頼に足る人物かを判断する物差しは、やはり相手の肩書になります。おそらく被害者も「長年の付き合いがあり、第一生命の「上席特別参与」「特別調査役」の肩書を持っている人ならば、大丈夫だろう」と思ったはずです。

ところが、会社側はお墨付きを与える肩書を持たせていながら、彼女に対して適切な監督や指導をしていませんでした。つまり、二つの肩書を武器にして自由に詐欺行為ができる状況を与えてしまったわけです。

第一生命は、すでにこの元生保レディを7月に解雇して、詐欺容疑で刑事告発しています。

ですが、本当はもっと早く彼女の悪事を暴くことはできたはずでした。

それは、3年前にさかのぼります。彼女の営業内容に不審な点があるとの情報を外部から受けて調査をしましたが、詐欺行為を見抜けなかったのです。

火のないところには煙は立たないものです。その目線でもっと徹底した調査を行っていれば、さらなる被害は起こらなかったはず。

このように長年にわたる彼女の不正行為を見抜けず、肩書を与えて金をだましとる行為をさせ続けてしまった、第一生命側の管理・監督責任の不行き届きは免れ得ないものと考えています。

他にも、一流の生保レディとして培ってきた話術を悪用した、だましの巧みさは随所にみられます。

別な被害者には「第一生命の上層部しか知らない特別枠がある」という「あなただけに教える」という特別意識を植えつけるような話をしたうえで「まだ運用枠が残っています」「預けてくれれば。3割の利息をつけて、半年で元利弁済します」と持ち掛けて、1億8千万円をだましとっています。

彼女は地元の政財界から名だたる人々を集めて、数百人規模の勤続50周年祝賀会を開いていますが、こうした威光効果も存分に利用しています。

先の1億円以上をだましとられた女性のもとに、彼女は国会議員の妻と秘書を連れてきて、亡くなった夫の墓前に線香をあげるという行為をさせています。また高級なお中元も届けており、被害者に恩をうることで、何かしらのお返しをしたいという気持ちにさせるように仕向けています。これは返報性の法則ともいいますが、詐欺師たちがよく使う手でもあります。

この威光効果は、外の顧客だけに向けられたものではなく、会社内部に向けた意味もあります。

社内では「女帝」といわれるほどの大きな影響力を持っていたといいますが、こうした威光を使うことで、「自分のすることに口出しをさせない」状況を作りあげました。結果、詐欺行為が長く続けられる状況を生むことになってしまったのです。

これだけの手を使われると、私たち個人が被害を防ぐのはなかなか難しいですが、しいて、だまされないための方法をあげるとすれば、どんなに信頼できそうな相手であっても、「現金を直接に渡さない」ことしかありません。

だましとったお金は、どこに消えたのでしょうか?

バブル期の投資の失敗で、多額の借金があったという話もあり、その返済に回していたのではないかといわれています。となると、借金で首が回らなくなり、闇金などの反社会勢力からもお金を借りていたのではないかといった疑惑も生じてきます。

また、被害者のお一人は「お金の使い道として、親族にも流れているのではないか」ともおっしゃっていますが、この線も充分に考えられます。

いずれにしても、肩書を与えておきながら、監督や指導をせず、不正の煙がくすぶっているにもかかわらず、自助努力で火種を消せないという大手企業として「顧客の大事なお金を預かっている意識が欠如していたのではないか」と厳しく言われても、仕方のないところでしょう。

かんぽ生命保険における、不正・不適切な契約問題もそうでしたが、お客様と真摯に向き合おうとしない会社の姿勢が、この業界に次々にみられるのは、極めて残念なことです。

被害者の方はこうも話します。

「表に出られず、泣き寝入りされている方は多数いるはずです」

今回の被害は氷山の一角である可能性もあり、いまだ被害に遭いながら、自らの体裁を考えて口に出さない人もいることでしょう。

しかし、不正は絶対に許してはいけません。元生保レディの詐欺行為の真相を明らかにするためにも、一人でも多くの勇気ある被害告白が待たれます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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