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教義を否定する一番の方法は「自殺をすること」深刻な宗教2世のメッセージ 旧統一教会への第9次集団交渉

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正(司法記者クラブでの会見)

11月26日に司法記者クラブにて全国統一教会被害対策弁護団の会見があり、村越進弁護団長は旧統一教会に対して、第9次の損害賠償請求の集団交渉の申し入れを行ったことを話しました。

「通知人は16人で、その中には2世の方がお2人含まれております。請求金額は約4億6900万円で、第1次からの金額を合わせると57億8100万円を超えることになります」

会見に同席した宗教2世が「教義を否定する一番の方法は『自殺をすること』」と自らの経験を踏まえて話す言葉に、私たちはしっかりと耳を傾ける必要があります。

自己破産した上に、さらに献金をさせられ続けて任意整理する被害事例も

阿部克臣弁護士は、今回の被害者のなかで特に悪質なケースとして、次のような事例をあげます。

「信者が叔母の預金を無断で解約したり、母親の預金を無断に引き出したりして統一教会に多額の献金をしていた」

「信者の代表から『託児所を開くお金にする』『お金を渡さないと家族に不幸が訪れる』と言われて1500万円以上貸し付けた。何回言っても返済してもらえず、無償で働かせられた。いつの間にかそこもなくなり、15年ほど経った頃には1500万円が教団に献金した扱いにされていた」

「夫婦で信者であったところ、借金してでも献金しろという教会の雰囲気の中で、夫婦で1000万円弱の債務を背負い、夫婦で破産することになった。時間が経ち再び借り入れができるようになって再び借金を重ねて献金をさせられて約500万円の債務を背負い、弁護士に依頼して任意整理をした」

教団側の対応は、これまでより悪くなっているような印象を受けるとの見解

さらに同弁護士は「集団交渉へ回答についての統一教会の対応は、これまでより悪くなっているような印象を受けています。通知書を出すと、教団本部ではなくて、各地の信徒会代表と名乗る者が、通知人一人一人に別々の通知書の回答を出してくる状況で、しかもそれがだんだん遅くなってきています。第一次の通知書を2月に発送して、最初の回答が4月か5月位にきたわけですけれども、今は6月に送った8次の回答が半年近く経ってもきていない状況です。回答が非常に遅くなっており、ますます不誠実になっていると思います」と話します。

加害者ではなく宗教迫害を受けている被害者の訴えをする信者らに大きな懸念

お金を貸したはずなのに、なし崩し的に教団への献金にさせるなど、お金を集めるためならどんな手法もいとわない実態がみえています。本来なら、こうした組織的な加害行為を反省して、真摯な態度で返金すべきですが、そういう状況にはなっていません。

それどころか、翌日のことになりますが、東京地方裁判所の前で信者がマイクをもって、自らの正当性を叫び、加害者ではなく自分たちは信教の自由を脅かされて、宗教迫害を受けている被害者としての訴えをしている状況です。時が経つにつれて、ますます社会常識から逸脱し、攻撃性が増してきているように感じられて、よりカルト化が進む様相に大きな懸念を覚えています。

宗教2世として育った現実から目を背けるために日本を出ました

今回の集団交渉に参加している野浪行彦さん(仮名)から、永田真衣子弁護士の紹介を受けて後、話がありました。野浪さんは、合同結婚式を受けた親のもとで生まれて育った祝福2世です。

「今年の夏までフランスで暮らしていました。振り返ると、日本ではいろんな人をだまして過ごしてきた気がします。家族から虐待を受けていたことや、狂信的な家庭で生まれ育った自分の素性やアイデンティティについてずっと隠し続けてきました。その現実から目を背けるために日本を出たんです。フランスでは自分が2世だということを忘れる位の穏やかな生活をしていました。ある意味、自分自身までだましてきたという気がしています」と率直な思いを口にします。

安倍晋三元首相の銃撃事件が起きて、すべてが変わった

しかし2年前の安倍晋三元首相の銃撃事件が起きてすべてが変わったといいます。

「ものすごい衝撃を受けたんです。今までずっと嘘をつき続けた人生の結果が、この事件なのかとも考えました。自分のしてきたことがすごく恥ずかしかったです。それで帰国して、統一教会の問題に向き合うことにしました。別の2世の方が集団交渉に参加していることを知り、私も声を上げることにしました」

さらに、野浪さんは「(2世は)生まれた時から人間としての尊厳を踏みにじられ続けてきています。祝福2世は、一人の人間というよりも、組織のための道具として、神に絶対的な忠誠を尽くす兵士のような存在です。どの信者にも教義上『真の家庭を作り、神の子を作る』ことが求められています。ある意味、信者の肉体というのは、神の子を産む機械のようなものだといえると思うんです。信者の肉体は、信者自身の所有物ではなく、神の所有物、組織の所有物だということです。だから一人の人間としての尊重はなされてないです。そのために、いろいろな人権侵害が起きることになります」と話します。

両親から暴力を受けてきたことをあかす

会見の資料のなかで、野浪さんは「家はごみ屋敷状態で、生活上のしつけを受けた記憶もなく、両親が学校の行事にくることもなく」としており、さらに「母親からは頻繁に暴力を振るわれていた」「父親からも中学生になる頃まで暴力を振るわれていた」と、ネグレクトや身体的虐待があったことも赤裸々にあかしています。

「元々、反抗的な子供だったので、いうことを聞かないと殴られて鼻血を出していたという感じです。統一教会では『霊的になる』という表現もありますが、(野浪さんに)サタンがついているという発想を持っていて(暴力を)行ったのかなと、今は思います」
私自身も、信者時代に教団に対して反抗的な行動や考え方をしてしまうのは、信者のなかにサタン(悪霊)が入ったからだと教えられました。そのサタンを追い出すために、断食や水行をして自らの身を打った経験をしています。野浪さんの話すように、そうした思考のなかで、暴力という形を通じて、子供に手を出していたことは充分にありえると思います。

結局、教義を否定する一番の方法は「自殺をすること」

「1世・2世の信者に対して自己肯定感を貶める(おとしめる)ような教義があると思う」と話します。

「自分のような2世は(教義を通じて)組織的に生み出されてきた存在で、強い言葉を使えば、ある種の化け物だという気がするんです。そういう化け物じみた自分自身の存在が苦痛でした。教義を否定したくなる2世の方もいると思いますが、私も教義を否定したかった。結局、教義を否定する一番の方法は『自殺をすること』なんです。つまり、教義によって生み出されてきた者が、その教義に背こうとする時に、自殺に追いやられる場合がある」と、自らも自傷や自殺未遂を繰り返した経験から強く訴えます。

最後に野浪さんは「人には人間としての尊厳というものがあって、物としてではなく、人間らしく扱われる必要がある。これまで自分はものすごい無力感に打ちひしがれてきたのですが、同じように苦しんでいる仲間たちがたくさんいることがわかった。一緒に声を上げることができたらいいと思っている」と、苦しむ宗教2世に連帯を呼びかけます。

自分自身を否定する方法に「自殺」という道は絶対にあってはならないこと

教義を信じて結婚した信者の親から生まれてきた自分自身を否定する方法の一つに「自殺」という道があるという自体、絶対にあってはならないことです。しかし、親から子供に対してネグレクトや身体的虐待を受け続けて、その道を選ぼうとする宗教2世が少なからずいるとすれば、この状況を一刻も早く止めなければなりません。

野浪さんは損害賠償を請求する形で被害の声をあげましたが、今も声をあげられず、苦しみを抱える子供たちは多くいるはずです。彼らを救う道を真剣になって社会全体で考えることが求められています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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