韓国メディアが結構しつこく報じる「日本のFAX異常愛」イジり うるさいよ、という話なのか?
韓国の大手ポータルサイトで「日本(イルボン)」と検索したら、何が出てくる?
先週(9月19日から25日)の間に「ああ、韓国人は日本をこう見ているんだな」と感じさせたニュースがこれだった。
「日本人の55%がいまだにFAXを使う理由」
韓国経済新聞の日本特派員の連載「チョン・ヨンヒョのインサイドジャパン」として9月24日に掲載された。
なにせ韓国ではFAXとは「ほとんど使わないものと見ていい」(オンライン取材に応じたソウル郊外在住の40代男性)。
2013年時点で「ソウルの1世帯当たりのFAX所有台数」が、ファックス単機能で「0.01台」、プリンター複合機で「0.05台」だったのだ(韓国政府統計庁調べ)。
いかにも「日本らしいもの」のひとつとしてFAXが見られている。
「FAX廃止派」河野太郎自民党総裁候補の発言も引用
記事は、2020年の日本の国立国際研究センターによる「新型コロナ死亡者報告書」の発表が「最初の国内感染者発見から7か月後」だった点を挙げた。1月16日に発見され、8月7日に発表となった。
日本の160倍もの死者が出たアメリカでは、最初の国内感染者発見から同様の資料発表が「2か月後」だったという。
この原因が「FAXだ」と自民党総裁候補の河野太郎氏が指摘した点を紹介した。現職の行政改革担当大臣としてのものだ。日本での感染拡大初期には、保健所からFAXでデータを集約し、集計していたのだ。氏はかねてから「廃止論」を唱えてきた。
【参考記事】朝日新聞 河野行革相、国会対応でもFAX廃止を明言 自ら説得も
また今夏の東京オリンピックでは「諸外国の選手たちが、日本がいまだにFAXを使っていることに驚いた」という。
いっぽうで記事はこうも綴っている。
「それにもかかわらず、日本ではFAXがかなり長く生き残るだろう」
朝日新聞が行ったアンケート結果を引用し、「いまだにFAXを使っている人が55%」。その理由を「簡単に書いて簡単に送れる」という「意外な便利さ」だとしたうえで、これぞ日本的特徴というポイントを紹介している。
「迷惑をかけることを嫌う日本人固有の情緒もFAXの生命力を延ばしている要因だ」。
朝日新聞のアンケートで静岡県在住の49歳の女性が「電話は相手の時間を奪って失礼なんじゃないかという気がする。そんな心配もなく、紙に記録を残すという安心感があるのでFAXを使う」。
一般大手紙は「三種の神器」とイジる
韓国メディアによる日本の「FAXいじり」の記事は他にも存在する。
「21世紀の日本には三種の神器がある」(「朝鮮日報」9月4日)
記事では「元SMAP草なぎ剛の結婚報告のプレスリリース(2020年12月末)がFAXで配信されたこと」、そして韓国でもNetflix配信されている日本ドラマ「100万円の女たち」(原作は2017年)で度々FAXが登場することを紹介。
さらに「韓国では消えていっているFAXが依然として現役だ」としたうえで、またしても東京都の新型コロナ感染者の集計にFAXが使われてきたことを”ツッコんだ”。
「人口2000万人を超える東京都(※実際は1400万超)がFAX2台で集計を行っていた」
「この滅茶苦茶な状況が端的な例」
そして同紙は「FAX、印鑑、紙の資料が日本の21世紀の”三種の神器”」とした。痛烈なイジりだ。
こればかりではなく、ウェブ検索すると2013年にもすでに「京郷新聞」による「FAXと惜別できない日本、なぜ?」という記事が存在した。
いっぽうで韓国側から「別の目線」も
冒頭で紹介した「韓国経済」記事のコメント欄で最も反応が多かったのも”イジる”内容だった。
「温かみをいうのなら、直接書いた手紙に言葉を載せて送ればいいのに」
一方で2番目に反応が多いのは”意外にも”この内容だった。
「(日本は)先進国になって日が経つから(こそ)、簡単に新しい技術にぶれない特性まであるな。ヨーロッパやアメリカのように」
確かに早稲田大学の与田憙家名誉教授(東洋史)、在日朝鮮人文学者の故金達寿氏らは日本文化の「新しいものを採り入れても古いものを捨てない性質」を論じてきた。
例えば、サッカーの世界にもこういった傾向はある。
「国立競技場」の話だ。
02年W杯時に首都圏に大きなスタジアムがたくさんできた。「埼玉スタジアム2002」「横浜国際スタジアム」。それでも渋谷区千駄ヶ谷の「国立競技場」の聖地としての優位性はあまり揺るがなかった。1964年東京五輪時の施設にもかかわらず。ピッチとスタンドの間には陸上トラックがあり、照明もちょっと暗い。でも幾多の激戦の思い出が詰まっているから大好きなのだ。ついぞ2010年代に建て替えられたが。
しかしソウルの「蚕室スタジアム(88年五輪時のメインスタジアム)」は”捨てられていた”。02年時にサッカー専用のW杯スタジアムが完成すると、イベントではほとんど使われない状態に。
05年に取材に行った際にはアポなしで管理室に「中が見たいです」と申し出ると簡単に許可が出た。スタンドに鳩の糞がこびりついていた。「さすがにソウルの一等地近くのインフラがもったいない」と2013年の東アジアカップから再度使用されるようになった。現在はプロリーグ2部のソウルイーランドというクラブのホームスタジアムとなっている。
韓国の新しいものを採り入れ・作るということは「古いものを捨てる」という傾向を感じる。
日本での「韓流・K-POP人気」を韓国視点で見ると…
この日韓の感じ方の違いは、韓流・K-POPの取材でも大いに感じるところだ。最近でも超人気ドラマ「愛の不時着」の関連取材でギャップを経験した。
日本で2020年年末から全国展開された「愛の不時着展」についてだ。日本の視聴者たちは、韓国で1年以上前に放映が終わったドラマをずっと愛し続け、ついぞドラマの美術道具を揃えた展示会が始まったのだ。セットが再現され、登場人物の衣装などが会場に展示されたのだ。
この点を韓国メディアや友人に伝えると「確かに面白いドラマだったけど、もう終わったし、次のシリーズが始まっているでしょ?」という反応が多かった。
いやいや、日本のファンとて他の作品も観ているだろう。それでも「愛の不時着」は記憶に残り続けるのだ。
またK-POPの中小規模ガールズグループが、ステージ上のトークでこういった内容をよく口にする。これは日韓両国の公演で遭遇したことがある。
「(他のグループに)乗り換えないでくださいね」
韓国では「ほかのグループに関心が行くことは、それまでのことは消えるんだな」と感じる。
しかし筆者が自分と同類項の日本のK-POP好きおじさん達を眺めるに、みんな平気で「複数グループ大好き」なのだ。「古いものを捨てない」。
それゆえ韓国の視点からすると「2年ぶりにそのグループの来日ツアーのチケットを買って、タンスに眠っていた応援Tシャツを取り出して会場に行く」という話が、こういう反応になるのだ。
「日本のファンはとても情が深い」。
韓国なら「2年も経てばとっくに忘れているだろう」と。
「デジタル化」とは古きを徹底的に捨てること?
FAXの話に戻そう。
こういった海外からの視点を見るに、現在日本政府が取り組み、(近々新政権に引きつかれるであろう)「デジタル化」というのは、古いものを捨てることではなく、「使い分け」だとも感じる。
冒頭に引用した韓国経済の記事では、樹木希林さんが生前、友人にイラスト付きのFAXで手紙を送っていた点を紹介している。やめることなんてない。芸能人の結婚報告のリリースだって「A4の紙を見て、パッと内容が分かる」ということはすべてが悪いことではない。画面をスクロールしなくていいから。
あるいはそれほど生易しくもないか。徹底的にFAXを駆除しないと「メールやスマホで情報を扱う」という状態には至らないのか。
いずれにせよ、どうか、国家の一大事「疫病流行の際にFAX」というのはお控えを。