任天堂がコロプラを訴えた根拠となった特許の番号を推理する
任天堂が44億円の損害賠償と差し止めを求めてコロプラを特許侵害で訴えた事件は周知かと思います(参考記事)。コロプラの提供するスマホゲーム「白猫プロジェクト」が対象なのは確かなのですが、リリースや報道記事には特許番号が書いてありません。書いておけば類似機能を実装しようとしていた他社がその実装を控えることで無駄な争いを減らせて良いのではないかと思いますが、書くことは義務ではないのでしょうがありません。
ツイッターで山本一郎氏に召喚されているようですが、肝心の特許番号がわからないと厳しいものがあります。どこかの記者さんが東京地裁で訴状を閲覧してきてくれないものかと思います(追記:見に行った人のツイートによると第一回弁論(2月16日予定)まで非公開とのことです、無駄足を運ぶ人が出ないよう追記しておきます)。
とは言え、現時点でできるだけの推理をしてみました(もし間違ってたらすみません)。上記記事によると関連する特許は5件あり、少なくともそのうちの1件は「タッチパネル上でのジョイスティック操作」関連の特許であるようです。
そうすると、どうやら「白猫プロジェクト」における「ぷにコン」という機能が問題になった可能性が高そうです。わざわざダウンロードしてプレイしてみました。画面上の任意の場所をタッチするとそこが原点になり、そこからドラッグすることで仮想的なジョイスティック操作ができるというシンプルな仕組みです。そうなると関連する任天堂の特許も範囲が広いものであることが推測できます。
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の「特許・実用新案テキスト検索」で、出願人が任天堂であり、かつ、「タッチパネル」と「ジョイスティック」を含む特許公報を検索すると199件ヒットします。範囲が広いということは最近のものではなく、まだタッチパネル操作のゲームが珍しかった時代の特許の可能性が高いと読んで、昔のものから見ていくと怪しいのは特許3734820号です。2004年9月3日の出願です。NINTENDO DSの発売直前に出願された特許ということになります。
クレーム1の内容は以下のとおりです(なお、訂正審判が請求されていますので訂正後のクレームを示しました)。
ややこしいですが、言っていることは基本的には先の説明のぷにコンの挙動に似ており、画面上の任意の場所をタッチする等により原点(基準座標)を設定して、その後にドラッグすることで、ジョイスティック様の動作をさせるということでかなり範囲が広いです。いわゆる「キラー特許」と言えるかと思います。今にしてみれば自明に思えますが、2004年9月時点で自明であったことを立証するのは大変そうです。
興味深いのは2016年6月に訂正審判が行なわれて、上記の「前記指示座標が前記基準位置を中心とした所定半径を有する円領域からなる制限範囲を逸脱したときには,指示座標が前記制限範囲の外縁部にあるときの入力距離に基づいてゲーム制御を行う」という限定が加わっている点です。この時期にコロプラ(または、それ以外の他社)と水面下でやり取りがあって無効にされないよう対策を打ったのかもしれません。また、コロプラと任天堂の見解が相違してきたのはこの限定に関してではないかと思います(あくまで推測です)。
残り4件も推理したいところですが、ほとんど仕事と同じになってしまうので勘弁いただきたく。なお、ツイッターで特開2006-068387(特許4658544号)、特開2006-034517(特許4471761号)を挙げている人がいました(両者とも上記特許のバリエーションです)が、私がぷにコンを使ってみた限りでは当該特許クレームに示された挙動は見られなかったのでたぶん違うんじゃないかと思います。
なお、ツイッター等でコロプラもぷにコンの特許を持っている云々の議論が出ているようですが、自分で特許を持っていても、それを理由として他人の特許権を侵害しなくなるということはありませんので念のため(これは一般によく見られる誤解です)。