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英国のEU離脱と企業活動影響について、サプライチェーンの観点からあらためて整理する

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
笑顔の離脱とならない不幸が企業活動にも影響をおよぼす(写真:ロイター/アフロ)

どうなるのか?見当もつかない離脱後の世界

現在、私たちはサプライチェーンに関する分析を行い「英国EU離脱とサプライチェーンへの影響」といった冊子を無償公開しています。調査でわかったのは、この英国離脱の影響把握の難しさです。

6月23日、イギリス国民はEUから離脱する選択をおこなった。経過発表が取引時間中となった6月24日の日本の株式と外国為替市場は、世界の主なマーケットでもっともセンセーショナルな動きを見せた。株式市場は2016年最大の下落幅を記録し、外国為替相場も円ドルでは一時100円を割りこんだ。

イギリスのEU離脱が日本だけでなく世界経済にも大きな影響を与えるからだろうか。しばらく経ったものの、現時点で、英国のEU離脱にともなう影響は、まだ不明瞭なままだ。日本市場の反応は、ただ事前の残留予想を裏切って、まさかの離脱決定に誰もが「慌てた」のが実態だった。

今回の国民投票の結果は、「離脱」する民意は示されたに過ぎない。実際に離脱後のイギリスと、関係国との間で、どのような関係が形作られるのか、まだ誰も分からない。ここでは限られた情報をもとに、今回のイギリスのEU離脱によって日本経済が直面する2つの事態について考える。

英国のサプライヤから購入している場合

英国のサプライヤから購入している場合、英国がEUを離脱して発生する変化は、サプライヤの調達構造に依存する。現在EU域内の取引なら関税は無税だ。

英国の製造業は、原材料や付加価値の低い部品の供給を、EU内の東欧に代表される相対的なLCC(Low Cost Country)からおこなっているケースがある。この場合、英国とEUとの通商交渉の結果によっては、従来発生していなかった関税が課せられる可能性はある。

原材料や部品をすべて英国内で調達している場合は、日本とEUもしくは英国の関係に依存する。EUは「域外共通関税制度」により、EU加盟国は対外的に等しく関税率を設定している。この部分が、英国と日本の二国間の通商交渉によって決定される。ここで、英国のEU離脱とは別に、日本とEUの通商関係について少し触れておく。

日本とEUの通商交渉

EUの行政を指揮する欧州委員会が2010年11月「貿易、成長、世界問題:EU2020戦略の中核要素としての通商政策(新通商戦略)」と題した通商戦略を発表した。これはEUの新注記成長戦略「欧州2020」の一環として提示された。日本との関係では、自由貿易協定を視野に入れた関係強化がうたわれている。新通商戦略の内容を受け、現在交渉が進められている。(http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/epa/eu/index.html

現在の交渉に加えて、英国と二国間のFTA交渉を開始すれば、英国のサプライヤとの取引に大きな影響は発生しないだろう。しかし、交渉がおこなわれるかどうか、おこなわれたとしても円滑に進むかどうかは、まったく見通しが立たない。

英国に現地法人を設立している場合

問題は英国に現地法人を設立している場合だ。事実、日本の大手企業が、英国に欧州の拠点を設立し、EU域内の本社機能をもたせている場合、事態の進捗を注意深く観察し、対応する必要がある。また工場がある場合は、今後英国とEUの間でおこなわれる離脱交渉の結果によっては、英国からEUへの輸出にも関税が発生する事態を想定しなければならない。調達・購買部門の現地法人としてIPO(international procurement office、国際調達拠点)を英国内に設置している場合で、英国内よりもEU域内からの購入が多い場合は、他のEU諸国への移転を検討する必要がある。

欧州現地化を進めている事業には影響が大きい

日本企業が国内に拠点を持って、最適調達を実行し英国のサプライヤから購入している場合、今回の影響は小さい。しかし原材料や部品、労働力をEU域内で調達し、販売市場もEU域内で、サプライチェーン全体がEU域内完結する場合は影響が大きいはずだ。まず、サプライチェーンの構成要素が、どの程度英国に存在するかを見極める必要がある。

これまではビジネス展開上、EU域内では国境を意識せずに済み、関税や人の往来に制限がなかった。しかし、英国とEUの間に再び国境が生まれる可能性が高くなった今、自社の欧州に展開するサプライチェーンに、どの程度英国のリソースが含まれているのかを理解した上で、今後の動きを決定しなければならない。

調達・購買部門が主導するのであれば、東日本大震災の後に各企業でこぞっておこなわれたサプライチェーンのTier構造の調査が、EU域内のサプライチェーンに必要だろう。同時に、これからおこなわれる英国とEUでおこなわれる離脱交渉の推移にも注目しなければならない。超楽観的に見通せば「離脱やめた」となる可能性もゼロではないのだ。

英国EU離脱とサプライチェーンへの影響」冊子もよろしくお願いします。

【参考文献】

EU 新通商戦略における日本の位置付け JETRO

https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07000433/eu_tsusho_senryaku.pdf

EUの通商戦略 EU MAG(駐日欧州連合代表部の公式ウェブマガジン)

http://eumag.jp/feature/b1113/

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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