バイデン政権の出方見極める「若干控えめの北朝鮮軍事パレード」――巨大“3密”でも「コロナゼロ」主張
北朝鮮は14日夕、朝鮮労働党大会(5~12日)を記念した軍事パレードを実施し、党大会で金正恩総書記が打ち出した「米国の軍事的脅威の抑制」を前面に押し出した。間もなく発足するバイデン米政権に向けて自国の軍事力を誇示した形だ。軍事パレードは党創建75周年記念日(昨年10月10日)の未明に開かれて以来。
国際社会で新型コロナウイルス感染拡大が深刻化するなか、屋外とはいえ数万人が密集し、マスクを着用せずに大声を張り上げるイベントを3カ月前と同様に開催している。北朝鮮は世界保健機関(WHO)に「新型コロナの感染者はゼロ」と報告し、それを印象付けるかのように巨大イベントを繰り返している。引き続き、北朝鮮での感染の実態に注目する必要があろう。
◇音楽担当は国務委員会演奏団と国防省中央軍楽団
軍事パレードが開催された平壌・金日成広場では、金総書記のほか、党最高指導部の政治局常務委員4人を含め、今回の党大会で選出された党指導部のメンバーがひな壇についた。
パレードでの音楽を担当したのは、国務委員会演奏団と国防省中央軍楽団だった。75周年の軍事パレードの際は、国務委員会演奏団と朝鮮人民軍楽団の組み合わせだった。党大会前に人民武力省が国防省と名称が変更されたのに伴い、楽団も名称変更あるいは改編された可能性がある。国務委員会演奏団は今回の党大会でも、会場の4・25文化会館のオーケストラ・ピットに入って必要な音楽を奏でていた。
軍事パレードでの演説は、金正官国防相が担当した。金総書記の肉声は伝えられていない。
この中で金国防相は「(北)朝鮮の武力は、朝鮮半島地域でのあらゆる軍事的脅威を徹底的に抑止し、もし、敵対勢力がわが国の安全を少しでも侵害するなら、最も強力な攻撃的な力を先制的に動員して徹底的に打ち砕き、祖国と人民の安全、われわれの社会主義制度を鉄壁に守る」などと宣言した。米国についての言及はなかったようだ。
国旗掲揚式のあと、李炳哲・党中央軍事副委員長(軍元帥)が、朝鮮人民軍の朴正天総参謀長(朝鮮人民軍元帥)から「各閲兵部隊が整列した」との報告を受けて点検に回り、金総書記に「準備が整った」と報告。朴正天総参謀長の乗った指揮車が走って軍事パレードの開始となった。
◇原潜導入の意思を強調か
北朝鮮が公開した兵器で注目されたのが、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)だ。写真には「北極星5シオッ」と記されている。
SLBMは党創建75周年の軍事パレードでも新型として「北極星4シオッ」が公開されている。
ちなみに「シオッ」はハングルの子音字の一つ。「シオッ」は朝鮮語で「水」や「試験」の構成音であるため、「水上」「水中」あるいは「試射用」を意味している可能性がある。
今回の「北極星5シオッ」は「4シオッ」に比べ、胴体の長さは同程度だが、弾頭部が大きくなっている。韓国の軍事専門家は聯合ニュースに「多弾頭搭載型、射程延長型の可能性」を指摘している。
一方、別の専門家は「SLBMが長くなれば、ミサイルを搭載する潜水艦のサイズを大きくしたり、船型も変更したりする必要がある」との見解を示している。金総書記は党大会で「原子力潜水艦導入の意思」を初めて明らかにしており、この発言と絡めて分析する必要があるかもしれない。
北朝鮮はSLBMの試射はまだ実施しておらず、バイデン政権発足以後の米国の動きを見極めながら試射に踏み切るとみられる。
このほか、短距離弾道ミサイルである「北朝鮮版イスカンデル」(KN-23)改良型も初めて登場。超大型放射砲や北朝鮮版ATACMSといわれる戦術地対地ミサイルなども公開された。党大会で金総書記は「国家防衛力を一瞬も停滞することなく強化してこそ、米国の軍事的脅威を抑制し、朝鮮半島の平和と繁栄を成し遂げられる」と呼び掛けており、このメッセージに呼応しているようだ。
ただ、大陸間弾道ミサイル(ICBM)公開は伝えられていない。米国に対するあからさまな挑発は控えたとの見方がある一方、党創建75周年の際のパレードで既に新型ICBMを公開しており、今回は改めて見せつける必要を感じていなかった、という指摘もある。