武豊騎手と、4度制しているジャパンCとのストーリー
何が何でも勝たなければいけなかったJC
今週末、東京競馬場でジャパンC(GⅠ)が行われる。
世界に名の知れるこのレースを、過去に4度も勝っているのがご存知、武豊騎手だ。
「世界中のホースマンが見ているレースなので、アピールするには絶好だし、当然、重要なレースです」
以前、話を伺った際、日本のナンバー1ジョッキーはジャパンCをそのように評していた。
彼が初めてこのレースを制したのは1999年。スペシャルウィークとタッグを組んでいた。
「ダービーを初めて勝てたのもスペシャルウィークとのコンビで、でした。どちらも別格な嬉しさを感じました」
当時はそう言っていたが、それから7年後の2006年、天才ジョッキーは再び別格の嬉しさを感じる事になる。
「この年は何が何でも勝たなければいけないという強い思いで臨みました」
この時、手綱を取ったのはディープインパクト。前年には無敗で3冠を制し、この年も天皇賞・春(GⅠ)と宝塚記念(GⅠ)を優勝。日本競馬史上最強のふれこみと共に、海を越え、凱旋門賞(GⅠ)に挑んだ。しかし、結果は3位入線。更にレース後には検体から禁止薬物が検出され、失格となってしまった。
「ディープインパクトは、ひいき目なしに当時、世界最強だったと思います。でも、最高の舞台で勝たせてあげる事が出来ませんでした」
更に失格処分となった直後のジャパンC出走だっただけに「是が非でも勝って名誉挽回をしたい」と強く願ったのだ。
実際のレースの序盤は11頭立ての最後方11番手を追走した。
「遅い流れなのは分かりました。ただ、ディープ自身はリズム良く走っていたので、あえてそれを崩してまで前へ行く必要はないと判断しました」
数々の修羅場を経験してきた名手の感覚に誤りはなかった。
「ラスト700メートルくらいから仕掛けていきました。直線では馬場状態の良い外へ出すというのも最初から考えていた通り。最後はディープらしい脚で突き抜けてくれました」
2着のドリームパスポートに2馬身の差をつけてゆうゆうとゴールすると、ゆっくりと時間をかけてウイニングランを楽しんだ。
「向こう正面ではディープに『おめでとう』と声をかけました。ウイニングランを終えて上がって来て、池江(泰郎)先生やスタッフの顔を見たら、僕自身、こみ上げるものを感じました」
ちなみにゴールイン直後にはガッツポーズをしているのだが、これも「自然と出た」との事で、凱旋門賞後の陣営の苦悩を間近で見ていたからこそ、感情が爆発したのだろう。
最後まで諦めない姿勢で戴冠
さて、その後も10年にはローズキングダムで、16年にはキタサンブラックでそれぞれ頂点に立っている武豊だが、とくに前者は2位入線から繰り上がっての優勝劇。3位入線のヴィクトワールピサとの差は僅かに“ハナ”で、これが届いていなければ、繰り上がったところで2着どまりで終わるシチュエーションだった。
「不利を受けた後も最後まで諦めずに追った結果、ヴィクトワールピサをハナだけかわせました。その後、1位入線のブエナビスタが僕の後ろに降着になった事で、繰り上がって1着になれました。2位、3位のハナ差が実に大きな差になりました」
復帰の待たれる現在
このように数々の名勝負を演じてきたエンターテナーの武豊だが、ご存知のように、現在は怪我で療養中だ。今週末のジャパンCには復帰出来るか?!との噂もあったが、残念ながらそんな願いはかなわず、武豊のいない淋しい競馬場はまだもう少しの間、継続される事になってしまった。それは確かに残念な事ではあるが、この休みであれだけの技術を持つ手腕が鈍るわけではない。戻って来た暁にはまた間違いなくスタンドを沸かせる騎乗を見せてくれるはずだ。我々ファンも今は我慢して、名手が万全の状態で復帰してくれる日が来るのを待とう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)