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タイタニック深海旅行、これまで何度成功していた?タイタン乗船経験とCEOの印象、記者が語る

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
タイタン号とCEOら。出典:oceangateexpeditions.com

タイタニック号の残骸を見に行くツアーで5人が行方不明になった事件で、その後次々と経験者による情報が出てきている。

米CBS局の取材班は、昨夏オーシャンゲート社の潜水艇タイタン号に乗船し、秋に番組で紹介していた。その時の映像がYouTubeで公開され、話題になっている。

取材でタイタン号に実際に乗ったことがあるのは同局の記者、デービッド・ポーグ(David Pogue)さんだ。ある日、オーシャンゲート社からCBS局の人気番組『サンデーモーニング』に体験取材のオファーがあったという。ポーグ氏は参加の挙手をし、プロデューサーとカメラマンと共にツアーに参加。今月18日の事故を受け、その経験を27日付のニューヨークマガジンに寄稿した。

取材クルーの潜水ツアーは結局中止となり、潜水体験したのはわずか37フィート(約11メートル)の深さまでで、彼らは実際にタイタニック号を見たわけではなかった。記事の中では、オーシャンゲートのCEOで、今回の事故で行方不明になったストックトン・ラッシュ氏との写真と共に、その時の経験や感想を書いている。

記事によるとツアーは9日間の日程で、港からタイタン号の潜水出発地点まで船で2日かけて向かい、出発地点に到達後は5日間で潜水を試みるチャンスが5回あるという。その後さらに2日かけて港に戻って来る。オーシャンゲートはこのサイクルを毎年夏に5回繰り返していたという。

ボーグ氏はラッシュCEOの印象として、「彼は自信に溢れ、魅力的。そしておしゃべりな人」と表現した。(注:アメリカでは軽快なおしゃべり=会話が楽しいという意味の褒め言葉)

「彼は異端児の天才を演じることに喜びを感じ、業界の破壊者としての自分の役割をスティーブ・ジョブズやイーロン・マスクに例えたことが何度かあった」とも振り返った。

またボーグ氏ら取材班は、フランス人の探検家でラッシュCEOと共に今回の事件で行方不明になっているポールアンリ・ナルジョレ氏と夕食を共にしたことも振り返った。「彼はこれまで5つの異なる潜水艦で37回の残骸ツアーを経験してきた。 オーシャンゲート社はナルジョレ氏を雇い、深海ツアーに同行させタイタニック号の残骸について乗客に説明してもらっていた」。

潜水艇タイタンはタイタニック号への潜水に「何回」成功していたのか?

ボーグ氏ら取材班は、タイタン号の安全性についていくつか質問をしているが、ラッシュCEOは安全性は問題ないとしていた。さらに「ラッシュ氏はタイタン号がタイタニック号の深さまですでに20回も何事もなく潜水しており、そのほとんどを彼自身が操縦したと言っていた。その話は私を安心させた」と証言している。「タイタンの安全性に懸念があるならば、彼は自ら操縦しただろうか?(しなかっただろう)」。

(この成功体験の回数については公式発表がないため各紙で揺れており、さまざまな情報がある。例えば28日付のインサイダーによると「オーシャンゲート社の潜水艇は事故が起こるまで3度、タイタニック号まで到達していた」とある。英デイリーメールは「タイタン号がタイタニック号まで何回成功したかは正確には不明だが、事故が起こるまでに少なくとも10回は客を乗せたと考えられている」とした)

CBS局の取材クルーのツアーが中止になった理由は荒波、そして規定外のことが発生したためだった(2つのカプセル型の黒いフロートが潜水艦の発射台に固定されておらず外れていたため)。そのフロートは潜水艦の一部ではなく、潜水自体に何ら影響を及ぼすものではなかったそうで、ボーグ氏は「その時はかなりばかげていると思っていた」と語った。

また、タイタン号の運航管理や潜水ツアーの中止の基準について、このようにも語っている。「数えられないほどの安全確認項目、検査、そして必ず1日2回のミーティングがあった。懐中電灯の電池の残量が少ないとかプラットフォームのネジが欠けているといったようなほんの小さなことも見逃さなかった」「(ラッシュ氏を)詐欺師だとは思えない。彼は自分のデザインを心から信じていた。何度も自分の人生をかけて潜水し(安全性について)信頼していた」。

その一方で、先ごろ放送された番組(以下)では、潜水艇内部ではゲーム用のコントローラーが使われていたことなどに触れ、「潜水艇のすべての装備が安っぽかった」とボーグ氏は語っている。

  • 昨年7月に取材した内容をもとに報道されたCEB局の番組

Inside the OceanGate Titan tragedy

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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