中国「独身の日」セールで有名になった口紅王子、李佳琦氏はどこがすごいのか?
中国最大の消費イベントである「独身の日」(ダブルイレブン、双十一)セールが11月11日に最終日を迎えた。例年ならば10日夜(11日未明)にネット通販大手のアリババが流通総額を速報し、そのニュースが日本でも大々的に報道されるが、今年は発表が見送られた。
中国の検索サイト「百度」では11日夜、「見送られた」こと自体が検索ランキングの上位に入り、さまざまな憶測を呼ぶなど、相変わらず注目度は高かった。
(追記:12日未明、アリババは「セール中の流通総額は約9兆6000億円に到達した」と発表した)
今年の特徴は盛大なカウントダウンを行わないなど、全体的に「地味」なイベントに終始したことだ。環境に優しいエコ製品の販売、通販で使用される包装材の軽減、売上高の一部を弱者に寄付することなどが推進され、習近平政権が推し進める政策に配慮した内容となった。
日本でも「独身の日」セールは恒例行事として注目されて久しいが、ここ数年、とくに脚光を浴びているのが、動画配信で商品を販売する「ライブコマース」という手法だ。
テレビショッピングのネット版のようなもので、インフルエンサー、KOL(キー・オピニオン・リーダー)がさまざまな商品の特徴をネットの生中継(淘宝直播(タオバオ・ジーボー))でアピールするというやり方。
まるで自分もその場にいるかのような臨場感、生中継中に生質問もできる双方向性、文字ではなく口頭での説明というわかりやすさや親しみやすさ、即座に購入ボタンを押すことができる利便性、スピード感――。
こういったライブならではの特徴が中国人消費者にウケて、大人気となったのだ。
中国で「口紅王子」を知らない人はいない
この「ライブコマース」で一躍中国中にその名をとどろかせた人物がいる。「口紅王子」こと、李佳琦(リー・ジアチー)氏だ。
昨年あたりから、ようやく日本のテレビ番組などでも取り上げられるようになったが、まだ日本では一般的にその名は知られていないだろう。
しかし、中国の若者の間で、彼の名前を知らない人はまずいない。彼はそれほど影響力のある人物なのだ。
李氏は1992年、湖南省で生まれた29歳。つい数年前まで化粧品メーカー「ロレアル」の美容部員として働いていたごく普通の青年だったが、化粧品店での販売実績が非常によく、その実力を認められたことから、同僚とともに独立した。
数年前から上海を拠点に活動するようになり、「ライブコマース」を中心にインフルエンサーとして活躍するようになった。
李氏の特徴は「口紅王子」というニックネームからもわかるように、自ら口紅をつけて視聴者に見せることだ。口紅の微妙な色合いや質感などを巧みな言葉で説明する話術(トーク)はすばらしく、身振り手振りも効果的だ。
ときには唇だけでなく、自分の腕やほほにも口紅を塗って紹介する。1回のライブコマースで3億円以上の化粧品を売り上げるといわれ、これまでに15分間で1万5000本の口紅を売ったという実績もある。2020年には上海市内に広さ1000平方メートルの豪邸を約30億円で購入した、と話題になった。
彼の弾丸のようなトークと、その整ったルックスに引き込まれた女性が多く、SNSのフォロワーは5700万人以上。つまり日本の人口の半数近くに激増した。
商品説明の際に連呼する決め台詞、「マイター!(Buy itの意味)」を真似する人も増えた。そのカリスマ性や人気が国内だけでなく海外でも注目を集めるようになり、化粧品以外、さまざまな商品もピーアールするようになった。
日本企業の商品もPRしている
在日中国人インフルエンサーによると、彼の事務所には一年中、世界各国の企業から商品ピーアールの依頼がひっきりなしに舞い込むという。彼の事務所スタッフが商品の特性を見極め、条件面などを詰め、最終的に選ばれた商品を彼がライブコマースで宣伝する。そこには日本企業の商品も含まれる。
中国では日本の化粧品、美容関連商品、食品、日用雑貨、ベビー用品、健康食品などが人気だが、いくら品質がよく、世界に通用する製品であっても、大量に行われるライブコマースの中で埋もれてしまい、目立たなければ意味がない。そこで、彼のようなトップ中のトップのインフルエンサーにあの手この手で宣伝を依頼する企業が増えていると話していた。
分刻みで「ライブコマース」を実施し続けるエネルギッシュな李氏だが「その商品のいちばんよいところを瞬時に把握し、それを自分の言葉で説明する能力はピカ一」だといわれる。また、女性目線で、ときに優しく、ときに強力に、ポイントをわかりやすく伝えることにも長けているという。
それが彼のすごさであり、俳優やタレントではない、インフルエンサーとしての地位を不動のものにした理由だろう。
今年は政府の方針に沿う形で「理性消費(理性的に消費して)」と訴えた李氏。やみくもに商品を爆買いするのではなく、本当に欲しい商品を吟味して買うようにと促したのだが、果たして成果はどうだったのか、気になるところだ。