浦和の戦略に幅をもたせるDF高橋はな。フォワードとセンターバックでスペシャリストを目指す19歳
【リーグカップ予選が佳境に】
女子W杯は7月8日にクライマックスを迎え、前回王者のアメリカがオランダを下して過去最多4度目の優勝を成し遂げた。
なでしこジャパンの選手たちは6月27日に帰国し、数日間のオフを挟んで各チームに復帰している。リーグカップの予選リーグが佳境を迎えているためだ。7月6日(土)と7日(日)の試合では、一部の代表組がピッチに立った。
FW菅澤優衣香、GK池田咲紀子、DF南萌華の3名が復帰した浦和レッズレディースは、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースに1-0で勝利。14日(日)に行われるマイナビベガルタ仙台レディース戦に引き分け以上で、B組2位での決勝トーナメント進出が決まる。
浦和は序盤、ワンタッチ、ツータッチでテンポよく千葉のプレッシャーをかわしてゴールを目指し、今季、森栄次監督の下でポゼッションを強化してきた好影響が見られた。特に、FWからサイドバックにコンバートされたDF清家貴子の積極的なオーバーラップがもたらす右サイドの攻撃は魅力的で、3バックに近い形で主導権を握り続けるゲーム運びは迫力があった。
その姿勢は、開始早々の前半3分に結実する。清家が上げたクロスのクリアボールを菅澤が左に流し、走り込んだFW吉良知夏が逆サイドネットに落ち着いて決め先制。
これで試合を優位に運ぶかに思えた浦和だが、追加点が奪えない。後半は耐える時間帯が多くなった。
「点を取った後、3、4回あったチャンスで決めきれなかったところは今後の宿題かな、というゲームでした。後半は相手が自分たちの攻めに慣れてきてバタバタしてしまい、ボールを握られる時間もあったことは(チームとしての)反省点ですね」
森監督はそう振り返っている。後半の失速は、前半のハイペースな試合運びの影響もあっただろう。また、全体がペースダウンする中で、リードを守ってカウンター狙いに切り替えるのか、ボールを回して時間を使いながら様子を見るのか、それとももう1点を取りに行くのかーーゲームプランが曖昧になったように見えた。
【攻守を活性化した切り札】
苦しい時間帯が続く中、浦和は終盤になってようやく流れを押し戻す。ゲームプランの問題に一つの答えを出したのは、62分からピッチに立ったDF高橋はなだ。浦和のユース育ちで、現在19歳。トップチームで2年目(16、17年はユースとの二重登録)を迎える。
高橋は2トップの一角に入り、79分には相手のロングボールを前線からスライディングでカット。セカンドボールを奪われる場面が続いていた中で、嫌な流れを断ち切った。その直後、森監督は高橋をサイドバックに下げる。すると、その2分後には攻撃で魅せた。相手コーナーのクリアボールを菅澤が自陣中央で収めると、高橋は長い距離を駆け上がり、MF柴田華絵のパスを受けてフィニッシュに持ち込んだ。わずかにオフサイドになったが、流れが変わった。
「彼女を入れることで(前線の)的を2つにして、そこで(菅澤と高橋の2トップの)どちらかが前を向ければ相手にとって脅威になるかな、という狙いで入れました。(終盤は)右サイドの守備の出だしが遅れていたので高橋を右サイドバックにしました。相手の攻撃を抑えられたので、うまくいきましたね」(森監督)
高橋はフォワードとサイドバックの両ポジションで、それぞれ守備と攻撃で輝きを放った。両ポジションでプレーできるユーティリティ性は魅力だ。
今季、高橋は主にセンターバックでプレーしている。だが、試合の流れや他のメンバーの状況によって2トップの一角やサイドバックで出場することもあった。6月23日(日)に行われた伊賀戦(△3-3)は、フォワードでフル出場。代表組が不在でリードを許す苦しい展開の中、前半でハットトリックを達成し、チームに貴重な勝ち点をもたらしている。
そのプレーを支えるのは、168cm、63kgの恵まれた身体と、裏に抜け出すスピードだ。
「“便利屋”ではなく、どのポジションでも『必要とされる選手』になりたいと思って、練習からいい準備を心がけています。1対1で負けないという強い気持ちを持つことはベースにありますし、ゴールはいつも狙っています。今年は攻守の切り替えを早くして、球際で強くいくことに取り組んでいますが、センターバックでも守備範囲が広がったと思います」
記者一人ひとりの質問に対する聡明な受け答えは、彼女がまだ10代であることを忘れさせるものだった。普段は朗らかな高橋だが、その口調からは責任感の強さが伝わってきた。
【年代別代表で培ったスペシャリティ】
年代別代表でも、高橋は2つのポジションで実績を残してきた。
U-16とU-17ではFWとして活躍。15年のAFC U-16女子選手権で準優勝し、16年のU-17女子W杯では4試合で3ゴールを決め、準優勝に貢献した。
U-19でDFにコンバートされ、17年のAFC U-19女子選手権で初タイトルを獲得した。
そして、昨夏のU-20女子W杯ではFW遠藤純とともに18歳ながら飛び級で選出され、センターバックで全6試合にフル出場。同大会で初の世界一に大きく貢献した。大会序盤は硬さも見られたが、試合を重ねるごとにプレーが安定。
浦和の同僚でもある南(171cm)とのツインタワーは1対1に強く、高橋にコンタクトを試みた海外の大柄なFWが弾き飛ばされる場面も数回あった。
同大会で日本を優勝に導いた池田太監督は、現在はU-19女子代表監督を務めている。今年10月にタイで行われるAFC U-19女子選手権に向けたチームづくりのため、千葉戦の視察に訪れていた。昨年からの高橋の成長についてこう語った。
「(浦和では)スピードや体の強さというポジティブな面をいろいろなポジションで生かせていると思います。人間力があってチームのためにプレーできる選手ですし、ピッチで周りにも良い影響を与えてくれる。そういう部分は経験を積んで成長していると思います。U-19年代に限らず、なでしこジャパンなど常に上のレベルを目指して頑張って欲しいですね」(池田監督)
高橋は昨年12月に静岡県で行われた「なでしこチャレンジ合宿」で、A代表の候補入りもしている。浦和のユースやU-20代表でともに戦ってきた南は身近な目標だが、なでしこジャパンで10年のキャリアを誇る菅澤の存在も大きい。
「菅澤さんは本当にボールが収まりますし、奪われないんです。そこにボールが入った時が、攻撃のスイッチだと思っています」(高橋)
それほどの安心感を与えてこそ、フォワードでもセンターバックでも「スペシャリスト」と言えるのではないか。それは、高橋が目指す目標でもあるだろう。
【W杯で受けた刺激】
8日に幕を閉じた女子W杯では、優勝したアメリカに対して「A代表となるとやっぱり違うんだな、と思いました」と目を輝かせて話した。
また、普段同じリーグでプレーする選手たちの活躍は、世界との距離を測る物差しになった。
「なでしこリーグで本当に上手いと感じる選手たちが、W杯でも活躍していたことは刺激になりました。日本はもっと上(のステージ)にいけると思っていたので、それでも勝てない現実を目の当たりにして、フィジカルは今まで以上にもっと鍛えないといけないと感じましたね。アメリカやイングランドやフランスが入った山はさらにハイレベルな戦いが続いていましたが、いつかは追い越したい、という気持ちが強くなりました」
数年後、W杯の舞台に立つ自分の姿をイメージしながら、高橋は自らの武器にさらに磨きをかけ、2つのポジションを極めていく。
今週末の7月13日(土)から15日(月)の3連休にかけて行われるリーグカップ予選最終節では、代表に多くの選手を送り込んだ日テレ・ベレーザとINAC神戸レオネッサの選手たちも復帰が予想される。浦和は勝ち点1差の仙台をホームの浦和駒場スタジアムに迎え、決勝トーナメント進出をかけた大一番を戦う。