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どんなときに上司は部下に食事を「おごる」べきか? 「おごる」べきでないか?

横山信弘経営コラムニスト
上司は部下に食事をおごったほうがいいのか?(写真:アフロ)

食事を「おごる」と、ついつい見返りを期待する?

男性がデートで女性に(もしくは女性が男性に)おごったりするように、上司が部下に食事を「おごる」ことはよくある出来事です。ビジネスにおいては、部下をねぎらったり、お客様を接待するときに「おごる」という行為はあるでしょう。相手の喜ぶ顔がみたい、自身の甲斐性を見せたいという欲求から、誰かにおごりたいという気持ちが芽生えるのも自然のことと思います。

とはいえ「おごる」ほうは、無意識のうちに等価交換を考えてしまうことがあります。

等価交換とは、同等の価値があるものを相互交換することです。「おごる」行為をした人は、知らず知らずのうちに「見返り」を期待する心理が働くということです。

「おごる」ことで、相手から「いい人」と思われるだろう、自分のことを気に入ってもらえるかもしれない、こちらの言い分を聞き入れて、仕事に精を出してくれるかもしれない……。「同等の価値」を要求しなくとも、少しばかりの期待をいだくことは自然です。

しかし、部下にとって「見返り」を期待して「おごられる」のは、あまり気持ちがいいものではありません。「おごる」側は『ギブ&テイク』を考えずにおごったほうがよいと私は考えています。特に「おごり慣れていない」人は意外と、そのような心理に陥ってしまうことがあります。気に留めておいても損はないでしょう。

「おごられる」側は、当たり前と感じるようになる?

「刺激馴化」という心理現象を覚えておきましょう。刺激馴化とは、ある刺激を受け続けると最初に受けた反応が徐々に鈍くなっていく現象です。「おごられる」側は、同じ相手におごられ続けることで、感謝の気持ちが鈍くなり、次第におごられることが「当たり前」と受け止めていってしまいます。

最初は感謝の気持ちをあらわしていた相手も、だんだんと「ありがとう」の言葉も言わなくなり、さらに「刺激馴化」が進めば、おごられないと残念に思うようになります。

いつものように「おごられる」ものと思い込んでいたら、上司から「今日は割り勘ね」と言われた瞬間に、ムッとしてしまった経験はないでしょうか。これは「刺激馴化」が引き起こす感情です。おごられ続けた過去が、その感情を発生させたのです。自分の性格が傲慢で、謙虚さに欠けているわけではありません。

「おごる」ことと信頼の構築は関係がないのか?

接触を繰り返すことで、相手との信頼関係(ラポール)が少しずつ深まっていくことがあります。これを「単純接触効果」と呼びます。美味しい食事をしたり、飲み会をしたり、プレゼントを渡したりするのは、接触する「ネタ」としては、格好の材料です。信頼関係を構築することと「おごる」こととは関係がないので、たとえ「割り勘」であっても、一緒に食事をともにすることで関係は構築できていきます。

どんなときに上司は部下におごるべきなのか? それは、部下におごりたいと思えば、おごっていい。自分がおごりたいから「おごる」。それでいいのです。コミュニケーションしたい相手とその機会が増えてラッキーだと受け止める程度でよく、「見返り」は期待しないことが重要です。

また、反対に「おごられる」側の人は、前述したとおり、その状態が続いてしまうと、ついついそれが「当然」のことのように感じられてきます。その心理現象は特別なことではありません。しかし人間関係を良好に保つためにもおごられたときは、ためらうことなく感謝の気持ちをあらわしたほうがよいでしょう。10年、20年のお付き合いしている相手に対しても同じです。

「おごる」「おごられる」ことは、人の価値観によってかなり受け止め方が変わるものです。ここに書いたことに共感をも持てない人もいるでしょう。多種多様な考え方があり、デリケートなテーマでもあります。「おごる」「おごられる」ことによる基本的な心理作用を押さえておいたほうが安全です。

ほとんどの人は良かれと思って、誰かに何かを「おごる」のですから、その行為によってお互いの関係がギクシャクしないようにしたいものですね。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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