約82万円で落札されたイチローのユニホームから、リオ五輪の「銀バトン」オークション騒動を考える。
マーリンズのイチロー外野手が、大記録達成時に着用していたユニフォームなどが米野球殿堂博物館に寄贈された。
寄贈されたのは、イチローが6月に日米通算安打数で、ピート・ローズの持つメジャー最多安打記録4256安打を上回った試合で着用していたユニフォームやメンバー表、8月にイチローがメジャー通算3000本安打を達成した試合で着ていたユニフォームやスパイクなどだ。
メジャー通算3000本安打を達成した今、イチローの放つ1本1本の安打が何らかの記録に関係している状況と言ってもいいだろう。「ピート・ローズ越え」と「3000本安打達成」以外の記録達成時に身に着けていたユニフォームやボールはどうなっているのだろうか。
9月7日のフィリーズ戦、イチローは第3打席で通算3021本目の安打を記録し、ラファエロ・パルメイロを抜いてメジャー通算安打数で歴代単独26位となった。
この試合でイチローが着用していたユニフォームは、9月9日から18日までメジャーリーグの公式オークションにかけられ、8032ドル(約81万9592円)で落札された。落札されたユニフォーム
イチローは、この7日のフィリーズ戦の第1打席で三塁打を放ち、まず、パルメイロの通算安打数と並んだ。この第1打席で三塁打となったボールもオークションにかけられて、こちらは1890ドルで落札。また、イチローがこの時に到達した三塁のベースは380ドルで落札された。
イチローが2944本目の安打でフランク・ロビンソンの通算安打数を上回った試合で着用していたユニフォームも4515ドルで落札されている。
これらのユニホームは本当にイチローが着用していたものなのか。あの三塁ベースは本当にイチローが三塁打を放った時に設置されていたベースなのか。
リオ五輪でも、大会で使用された試合球や備品などが公式オークションにかけられた。、日本が、陸上男子400メートルで銀メダルを獲得したレースで使った「銀バトン」は日本に持ち帰られていた。それなのに、公式オークションにも「銀バトン」が出品されているという騒動が発生したのだ。本物の「銀バトン」はどちらなのか、と。
リオ五輪の公式オークションはオークションの運営会社が、大会組織委員会から競技で使用された備品をまとめて預かるようなシステムだったらしい。そのため、オークション運営会社側は、大会組織委員会が日本チームにバトンを譲渡したことを把握できていなかったようだ。運営会社は、予備のバトンを使用バトンと勘違いしたまま、オークションにかけたと思われる。
その点、メジャーリーグの公式オークションは抜け目がない。本当にイチローがその試合で着ていたユニホームなのか、本当にイチローが放った三塁打のボールなのかを、その場に立ち会って、確認するための認証者を配置しているからだ。これがリオ五輪の公式オークションとの大きな違いであろうと推測する。
筆者は数年前にこの認証者の仕事を間近で取材させてもらったことがある。
認証者は、試合が始まるとダグアウトの近くで試合に立ち会っている。
記念すべき安打の打球が放たれた時にはどうしているのか。認証者はボールを拾いにグラウンドを走るということはない。その代わりにボールボーイがボールを拾いにいく様子を目で追い、ボールボーイからそのボールを受け取る。そして認証者は、それがどの投手が投げ、どの打者が打ったボールかを記録し、個体識別番号のついた改ざんしにくい特殊なシールをボールに貼り付ける。
そして、試合が終わればクラブハウス内に入り、選手がその試合で着用したユニフォームであることを確認し、それを脱いだところで受け取っているのだ。サイン入りグッズも然り。認証者がその選手がサインしている場に立ち会っている。
認証者には元警官などを積極的に雇用しているそうだ。
100パーセント確実とは言えないだろうが、認証者を置くことで取り違えを極力減らし、メジャーリーグはお宝の価値を高めようとしている。お宝の価値を高めているからこそ、認証者を雇用しても、ビジネスとして成立するということだろう。メジャーリーグがこのシステムを作ったのは10年前のことだ。
メジャーリーグの公式オークションプログラムは認証者の配置と個体識別番号をつけるというシステムは全球団共通だ。レギュラーシーズンの全ての試合に少なくとも1人の認証者を配置している。ポストシーズンや記録達成があらかじめ予測される試合には3-4人の認証者が立ち会うという。
ただし、オークションの運営に関しては、利益の一部を寄付するというルール以外は、各球団に任されている。
高額で落札されたイチローのお宝グッズも一部は寄付されるだろうが、その残りはマーリンズの利益ということになる。
大記録達成使用時のユニフォームは野球殿堂に寄贈しても、その他の記録達成時のユニフォームや備品はマーリンズに金銭的な利益をもたらしたのではないか、と思う。