【F1開幕】メルセデスが苦戦か?勢力図に大きな変化が出そうな2022年シーズンをプレビュー
18インチタイヤの導入、ウイングカーの導入などルックスが大幅に変化した新時代のF1がいよいよ開幕する。今回は3月20日(日)に決勝レースを迎える「F1世界選手権」の開幕戦・バーレーンGPのプレビューをお届けしよう。
悩むメルセデス、好調のレッドブル
2月のバルセロナ、3月のバーレーンで合計6日間に渡り行われた合同テストで、新時代のF1マシンがサーキットを走行した。イメージ映像撮影のフィルミングデーを除くと、僅かに6日間しかなかったテスト走行だが、その結果を踏まえると、今季のF1は勢力図が変わりそうだ。
2014年にパワーユニット規定が導入されて以来8年連続でコンストラクターズチャンピオンに輝き、F1を席巻してきた「メルセデス」。しかし、今季のテストでは厳しい現実が浮き彫りになってきた。
車体がマシンの下面でダウンフォースを得る「ウイングカー」(=グラウンドエフェクトカー)の規定に変わり、エアロダイナミクス(空力)の分野で多くの研究開発が求めらた今季の規定だが、テストが始まってみると、何が正解かは誰も分からないほどに多様なアプローチのマシンが登場した。
そんな中で、バルセロナテストとバーレーンテストで大きくマシンのデザインを変更してきたのが「メルセデス」だった。バルセロナで走ったメルセデスW13は特に目立った点のない保守的なデザインだったが、バーレーンに登場したW13はサイドポンツーンが驚くほど絞り込まれている(というより、ほぼ無くなっている)。そして、コクピット付近にはハンマーヘッドシャークの顔のように横に伸びたターニングベン(整流板)が配置され、ここに横からの衝撃を吸収する構造物が納められた。本当に奇抜なデザインに一変させてきたのだ。
しかし、「メルセデス」が記録した3日間のバーレーンテストでのベストタイムはトップから1秒遅れの総合5番手のタイム(ジョージ・ラッセル)に留まり、ルイス・ハミルトンは同じコンパウンドの柔らかいタイヤを履いて16番手というタイムだった。当然、テスト走行ではチームによって遂行すべきメニューが異なるため、あくまで参考程度にしかならないのだが、「メルセデス」が「脳ある鷹は爪を隠す」のスタンスだったとは思えないほど苦しい状況に追い込まれているのは確かだ。
一方で、バルセロナ、バーレーン共に特に目立つところなくテストを進めてきた「レッドブル」だが、最後にマックス・フェルスタッペンがトップタイムをマークして高いポテンシャルを披露。開幕に向けて順調にマシンを仕上げてきた。
今季の悩みの種、ポーパシングとは?
不調が伝えられる「メルセデス」を悩ませているのは、スローモーションで見ると、マシンが波打つように上下に振動する「ポーパシング」(ポーポイズ現象)と呼ばれる挙動だ。ポーパシングは飛行機の着地時などにも見られる現象で、小型のイルカ(porpoise)が水面を上下しながら進む姿から採られた言葉である。
これまでのF1マシンはウイングなどの空力パーツで下向きの力=ダウンフォースを得てグリップ力を獲得していたが、今季はマシンの底面が後方に向けて反り上がり、底面の空気の流れを利用してダウンフォースを得るウイングカーになった。通常であれば、ウイングカーの方がマシンのバランスは良くなるはずなのだが、車高を下げると底面が路面と接触することで、底面を流れる空気が繰り返し変化する事になる。これが連続して起こるとマシンがダンスを踊っているように上下に動き、その振動が止められなくなるのだ。
ポーパシングやバウンシングと呼ばれる現象はバルセロナで走り出した時に多くのチームに発生し、各チームはすぐに対応しアジャストを行ってきたが、「メルセデス」は最後の最後までポーパシングに悩まされている。今季から加入のジョージ・ラッセルは「バウンシングが起こっているし、正直言って快適ではない。車のパフォーマンスが目標通りなら快適さは気にしないけど、今はそこにたどり着いていない。僕たちはライバルに遅れをとっている」と苦しい状況をキッパリ認めた。
パワーユニットの優位性と優れたマシン開発力で近年のF1で王者に君臨し続けた「メルセデス」が迷い道に入る一方で、バルセロナで派手なポーパシングのスロー映像がSNSでも拡散した「フェラーリ」はその解決法を見出し、バランスの良いマシンに仕上げてきた。今季のマシン、フェラーリF1-75はサイドポンツーンを絞り込んだレッドブルRB13やメルセデスW13のような過激なデザインのマシンとは対照的に、大きなサイドポンツーンを持つ保守的でレトロなマシンに見える。しかし、今季の「フェラーリ」はペースが良く、テストで最も成果を得たチームだ。
そして、今季、「フェラーリ」と共に名門復活の期待が高い「マクラーレン」はフロントサスペンションをプルロッドにするなど、攻めの姿勢を見せたマクラーレンMCL36を導入してきたが、バーレーンテストではブレーキの冷却トラブルで走行距離を稼げなかった。さらにダニエル・リカルドが新型コロナウィルスに感染し、テストを欠席。開幕に向けての助走が充分ではない状態だ。
期待のトップチームがポーパシングや新設計F1マシンの信頼性に苦しむ中、シーズン序盤は中堅チームに大きなチャンスが生まれ、勢力図が変わりそうな雰囲気だ。
期待が大きい2年目の角田
チームの年間予算制限によりトップチームと下位チームのギャップを埋めることを狙ったF1。そこに勢力図をシャッフルする可能性を秘める車体の大幅な規定変更。今年のF1は特に序盤がエキサイティングな奇跡を生むかもしれない。
そんな中で、我らが日本の角田裕毅には大きな期待が集まっている。昨年はルーキーとして数多くの失敗を繰り返し批判されたこともあったが、シーズン最終戦では4位という素晴らしい結果を得た。今季はシーズンの流れ、全てを理解した2年目だけに、結果を求められるシーズンだ。
バーレーンテストを総合6番手タイムで終えた「アルファタウリ」の角田のコメントは明るい。「チームとして良い進歩が得られました。良いテストになったし、多くのデータを収集できた。しかし、C5コンパウンドのタイヤを履いたアタックは残念ながら全てを合わせることができず、決してハッピーではありません。自分もマシンも改善すべき点はありますが、テストは全体として良いものになりました」
また、角田は今季のマシンについて「他のマシンとそれほど一緒に走ったわけではありませんが、昨年までのマシンに比べてダーティエア(後方への乱気流)は少なめだと感じます。前のマシンに近づきやすいことを感じていますし、楽しんでいます。開幕戦を前に良いレベルの自信を掴めていますよ」とコメント。
新F1マシンの規定はより近づきやすく、オーバーテイクを促進するために導入されたものであり、角田が言うように接近戦がしやすい状況になっているならば、表彰台のチャンスも充分に巡ってくる可能性がある。F1デビュー前にFIA-F2で見せた怒涛のオーバーテイクショーの再現を期待したいものだ。
今季からホンダの名前が消えたとはいえ、ホンダが手がけたパワーユニットを積む「レッドブル」と「アルファタウリ」はそのパフォーマンスに大きな期待が持てる。上位争いに「アルファタウリ」も絡んでくることになれば、今季もF1は日本国内でさらなる注目を集めることになるだろう。