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安倍氏死去 韓国の反応 メディアは9日社説で「日本のさらなる右傾化憂慮」 テロに怒りも

2022念6月に横浜で演説を行った安倍晋三前首相(写真:つのだよしお/アフロ)

韓国にも衝撃を与えている8日の安倍晋三氏銃殺事件。

当日の韓国メディアは「日本の報道を引用し、とにかく事件の概要を伝える」記事がほとんどだったが、一晩明けた9日、新聞の社説でも論じられるなど、より「韓国の見方」が見えるようになっている。

まずは「いかに多く報じられているのか」を。8日、9日の国内最大ポータルサイト「NAVER」上での関連記事の統計結果はこのようものだった。

8日のニュースアクセスランキング

「NAVER」が記事を掲載する81媒体中、22媒体で1位

9日の朝刊トップ記事掲載率

同じく「NAVER」が朝刊1面トップを紹介する21媒体のうち11媒体が1面トップ

ランキング面をより掘り下げると、最大の通信社「聯合ニュース」では1~3位と5位にランクイン。4位に入った保守与党「国民の力」のイ・ジュンソク氏が党代表ながら党から処罰を下されるという大事件を差し置いての結果だった。

ちなみに同通信社は8日の23時40分ごろに故人を「日本の右翼の象徴」と報道。これが翌9日の同社サイトのトップ特集のメイン記事に据えられている。

聯合ニュースの9日朝のトップページキャプチャ
聯合ニュースの9日朝のトップページキャプチャ

テレビでは公営放送「KBS」で2位。ただしトップ5のうち2つは関連ニュースだった。1位は「ニュージーランドの上空でバスケットボール大の流れ星爆発が観察される」だった。

社説では故人を糾弾してきた革新系が強い反応

いっぽう、9日朝刊の社説ではより深い韓国側の見方が示された。「朝中東(チョジュンドン)」と言われる朝鮮日報、中央日報、東亜日報の保守3大紙は事件を社説テーマに選ばなかった。いっぽうで、革新系2大紙が強い反応を見せた。

まずは穏健保守の「ソウル新聞」。テロに反対、という意見を伝えた。

[社説]安倍、襲撃により死亡 どんな理由があれテロは許してはならない

「自民党の支援遊説を行っていたところに起きた、白昼のテロに日本はもちろん世界中が少なからず衝撃に陥っている。相手が誰であれ、どんな理由であれこういったテロは決して許すことはできない。日本の与野党は徹底してテロに対し断固として反対し、糾弾するという声明を出した。犯人がどんな理由で安倍前総理に対するテロを加えたのか、警察の捜査によって明らかになるだろうが、動機がなんであれ、暴力で自身の信念を貫こうとするテロは民主主義社会にあって決して起きてはならないことだ」

続いて中道系の「韓国日報」。日本のさらなる右傾化を予測しながらも「韓国側も適切な対応を」と訴えた。

[社説]安倍前総理銃殺により死亡、国際社会に衝撃

「ウクライナ戦争により日本国民の安保に対する不安が高まるなか、今回の自体は日本国内の改憲世論を焚きつける可能性も高い。日本の(さらなる)右傾化は、日帝強占期の強制動員の被害者の補償問題などで硬直化している韓日関係改善のため、新しい解決法を探そうとしている韓国政府の負担となることは免れ得ない。韓国政府は今回の事態を綿密に注視し、韓日関係に及ぼす否定的影響を最小化する外交的解決方法を考え出してほしい」

そして革新系の2紙。いずれも「強い論調」で報じた。

まずは「京郷(キョンヒャン)新聞」。「日本市民への慰め」を伝えつつ、安倍氏の経歴を「日本の右傾化」と結びつけて報じた。

[社説]安倍前総理の襲撃死亡、民主主義を脅かす暴力を糾弾する

「安倍前総理は現代日本の右翼の象徴的政治家だ。2006年9月~2007年9月、2012年12月~2020年9月、2度にわたり8年9ヶ月間最長寿の総理として過ごした。在任中の総理として靖国神社を参拝するなど、歴史の問題など周辺国家とは敏感な葛藤を繰り広げた。反面日本の国内では「アベノミクス」により経済を復興し、第2次世界大戦以降最も強力な日本の指導者として評価もされている。2020年健康上の理由により総理職を離れた後にも、与党自民党内の最大派閥を率い、莫大な影響力を行使した。今回の選挙過程でも防衛費増額と平和憲法改定を主張するなど日本社会の右傾化の流れをリードした」

「今回の事件は直後に迫った参議院選挙に影響を及ぼす可能性が大きい。安倍前総理が長い間率いていた自民党により大きな力にもなりうる。選挙以降にも日本の政治・社会全般に甚大な影響を及ぼすことになるだろう。治安が安定していて銃器事件がほとんど起きない国家で、前職総理が銃撃を受けて死亡したという事件、日本の市民の衝撃も大きいだろう。事件の真相が迅速に徹底的に究明されることを願い、日本の市民に深い慰めを伝えたい」

もっとも強く報じたのは「ハンギョレ新聞」だった。氏の政治理念と歩みに「反対」の立場を示しつつ、テロに反対。さらには「日本の右傾化」への強い警戒を示した。ただし結論部分では強い糾弾は避けた。

[社説]衝撃的な安倍前総理の襲撃死亡 「政治テロ」許せない

「安倍前総理は2度に渡り、8年9ヶ月の間政権を握った日本歴代最長寿総理だ。辞任後にも自民党最大の派閥を率い『上皇』に比喩される強固な影響力を行使してきた。彼は在任中に靖国神社を数度参拝し、日本の植民地侵略の歴史について反省を拒否し、韓国の最高裁判所の日帝強占期強制動員労働者に対する賠償判決に反発し、輸出規制処置を取るなど、韓日関係が最悪の事態に陥る過程で核心的な役割を果たした人物であることは明らかだ。このような彼の政治理念と歩みに同意しない。しかし政治家を狙った銃撃暗殺は決していかなる問題も解決できない方法であり、社会をより葛藤に追い込むものであることは明確に記しておかなくてはならない」

「今回の事件はそれ自体でも大きな悲劇だが、韓日関係とアジア情勢でも大きな影となる可能性がある。当座、10日に予定されている日本の参議院選挙が「追悼選挙」として行われ、安倍前総理が率いてきた自民党内の強硬派の声がより強くなりうるからだ。そうなれば平和憲法の核心である第9条を変え、自衛隊の役割を明示する改憲や防衛費の大幅増額など、日本の軍備強化の動力が大きくなる心配がある。衝撃と悲しみにくれる日本社会が聡明に局面を乗り切ってほしいと思う」

(了)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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