「理念経営」「クレド経営」……経営理念もクレドも大切だが、それだけで会社がよくなるわけではない
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。組織風土、組織の空気がよい会社では、従業員の皆さんがイキイキと働いていますし、業績が安定しています。素晴らしい経営理念やクレドがあり、社長が率先してリーダーシップを発揮しています。ひとつひとつの仕事に対して妥協することなくプロ意識を持ち、互いに尊重し合い、感謝の気持ちをもってお客様に対応しています。
まさに絵に描いたような「優良企業」は、前述したような状態にあります。しかしここで気を付けなければならないのは「状態」と「プロセス」は異なることです。
組織風土が良いこと、業績が安定していること、社員がプロ意識を持ち、感謝の念をもってイキイキと働いていること、素晴らしい経営理念があること、社長がリーダーシップを発揮していること……これらはすべて、現在の「状態」「あり様」を表現しているわけで、「プロセス」であったり「やり方」ではありません。
「状態」に助動詞のdo/be/haveをくっつけてもプロセスには変化しません。たとえば、
「素晴らしい経営者」 → 「素晴らしい経営者になる」
「組織風土がよい」 → 「組織風土をよくする」
このような表現たちです。
経営理念やクレドは、使命(ミッション)、社是、行動指針、価値観などで構成されています。(諸説がありますが)
ふ
たとえば経営の使命(ミッション)を作ることは、かなり簡単です。経営におけるミッションは、幸福を与えるためです。どんな会社も、誰かを幸せにするために存在しているのです。それ以外の存在意義はあるはずがないのです。
それでは、別の側面で考えてみましょう。仕事を通じて【誰】を幸福にするのか、ということです。これには3つのグループがあります。
●自己グループ
●所属グループ
●社会グループ
まずは自己グループ(自社、自分)です。社長の私欲を満たす。社員が好きな仕事をして満足感を得る。金銭的報酬で生活に潤いを与える……など、自社のシェアや業績を伸ばして社長や社員たちが幸せな気分になる。一番の基本がここです。ただ当事者の幸せだけが目的であれば、まだ最初のレベルと言えるでしょう。つまり「自己満足」「自己中心」のレベルだ、ということです。
次のレベルは、会社の周囲の人を幸せにすることです。お客様、パートナー企業、社員の家族、地域社会……などが挙げられます。自社が所属している何らかの直接的グループに貢献する、という考えです。お客様の問題解決に貢献したい、家族に不自由のない暮らしを保証したい。こういう気持ちが叶えられることによって、自分もまた幸福な気分を味わうものです。「自己満足」のレベルを超えており、より高尚なレベルと言えます。
周囲の人よりもさらに外側の人(社会)の幸福のために働く、ということは最も高いレベルの使命、ミッションと言えるでしょう。つまり仕事、労働を通じて社会に貢献するという考え方です。自社の製品やサービスが社会の発展に寄与すると考え、実際にそうなっていけば、自分もまた大きな幸福を覚えるはずです。所属グループは実際に目に見える相手に貢献するわけですから、それらの方々に幸福感を与えることによって自分もまた満足感を得るというのはわかりやすいと言えます。
しかし3つめのグループは社会という概念的な存在です。直接接する相手の幸福ではないため、仕事をはじめたばかりの人にとっては、自分の労働が社会に貢献し、多くの人々に幸福を与えると言われてもピンとこないかもしれません。そのため経営者のリーダーシップが必要となります。私たちの使命とは何か? 何度も社員の前で語ることで、組織が一枚岩になっていくものです。
会社の使命・ミッションは、当然のことながら、社会グループに幸福を与えること。社会に貢献すること以外にありません。考えることでもないし、悩むことでもありません。何をもって社会貢献するかは、自社の商品やサービスで、としかならないのです。したがって、
当社は、旅行サービスを通じて、社会に貢献します。
このようになります。ただ、これだけでは味気ないので、
当社は、常にお客様に最適な旅行サービスを提案し、社会に貢献します。
とお化粧します。さらにまわりくどい表現にデコレートすれば、
当社は、常にお客様に最適な旅行サービスを提案し、豊かで健全な社会を創造することを使命とします。
となります。もっと格式を高くしたければ、文章を長くすることも可能です。
当社は、常に、各国、各地域の文化、多様な慣習を尊重し、お客様に最適な旅行サービスを提案して、豊かで健全な社会を創造することを使命とします。
このようにすると、「それらしく」なります。
たまに、その企業独自の経営理念を作らなければならない、どこにでもあるような理念やミッションを掲げても、うまくいかない! と声高に訴える経営者やコンサルタントがいます。しかし、会社の使命は必ず「抽象度」が極めて高くなるはずであり、抽象度が高くなればなるほど、すべて同じようなものになるのです。
行動指針や、価値観(バリュー)もほぼ同じで、社会に貢献するためにどう行動するか、お客様の問題を解決するためにどういう姿勢をとるのか、もすべて抽象度が高くなるため、同じようになります。
経営理念やクレドで他社と差別化をはかることは意味がありません。もし差別化されているのであれば、作られた理念やクレドが正しい形式のもとで作られていないだけです。
地球上、どんな場所にいようと、高いところへ登れば登るほど必ず「空」に近付くのです。結局誰もが同じところを目指しているわけで、それを忘れてしまっているだけ。理念やクレドはそれを思い出させてくれるツールだ、と割り切ることです。
素晴らしい経営理念があるから、素敵なクレドがあるから、あの会社は業績が安定しているんだ、あの企業の社員はモチベーション高く働いているんだ、と思い込むのは早計です。大切なことは、経営理念やクレドをどう浸透させるかということと、その「状態」になるような「プロセス」が大切なのです。つまり「あり方」ではなく「やり方」です。
経営理念ではなく、「経営戦略」「経営計画」はすべての企業が異なるものを掲げています。この戦略や計画の「抽象度」が高い会社は、ほとんどうまくいきません。「経営戦略」や「経営計画」は数字や固有名詞が入った具体的なものでなければならず、これらの立案と実践が、経営理念やクレドに書かれた「あり方」を実現させる武器となるのです。
経営理念やクレドは後付けでもかまいません。どうせ同じようなものになるからです。しっかり時間をかけて作り上げるのは戦略であり計画であり、それに基づいた行動であるのです。