「さようならトランプ」地元で不人気の大統領 愛するニューヨークを惜しまれずに去る
世界最大規模のハロウィンパレードでニューヨークが活気付いていた10月31日。トランプ大統領は午後9時30分過ぎ、何やら意味深なツイートを発信した。
何やら、長年連れ添った恋人に別れを告げるかのようなセンチメンタルな表現で、我が愛する地元から転居する決断に至ったことを匂わせた。
ニューヨークはトランプ氏にとって特別な街だった。
マンハッタン区の隣のクイーンズ区で生まれ育ち、1983年にマンハッタン区五番街に富の象徴、トランプタワーを建設し自身もそこに居住。リアリティ番組『ザ・アプレンティス』に出演するなどし、スターにのし上がった。過去に6度の破産を経験したものの、名実共に世界一のビジネスマンとして大成功した。アメリカンドリームを後押ししたこの街にあるトランプタワーは、「終の住処」になるはずだった。
同氏が1987年に出版した『The Art of the Deal 』でも「おそらく理にかなっていないかもしれないが、私は、世界の中心マンハッタンが居住には最高の場所だと信じていた」と、ひとかたならぬ地元への思いを語っていた。
しかしそれは、もはや過去の話だ。
ニューヨークタイムズ紙は10月31日、「生まれながらのニューヨーカー・トランプが、フロリダに居住宣言」という見出しでトランプ大統領の「心変わり」を報じた。
「フロリダ州のパームビーチ郡巡回裁判所に提出された書類によると、トランプ氏は9月下旬、マンハッタンからパームビーチに自宅の住所変更をした」と同紙。
パームビーチには、トランプ氏のリゾート「マー・ア・ラゴ 」(Mar-a-Lago)がある。過去には安倍首相夫妻も招待した特別な場所。トランプ夫妻がこのほど「本拠地宣言」を提出したのは、その敷地内にある豪邸だ。
大統領に選出されて以来、五番街のトランプタワー前や周辺には、トランプ派の歓声に加え反対派の抗議活動が頻繁に行われるようになり、連日人も車も大渋滞を引き起こしている。トランプ氏にとって気分が良いことではなかっただろう。
転居の理由はそれらに加え、大統領側近からの情報によると上記ツイートにもある「税金関係」だという。
所得税も相続税もなく、年間通して温暖なフロリダ州は、アメリカ北東部に住む富裕層には「避難地」として人気の場所だ。
ただし今後も、トランプタワーは別宅としてそのまま残すことになるだろう。ニューヨーク州の法律では、年間184日以上住む場合、所得税を申告する必要があるが、NBCニュースによると「大統領になって以降、トランプ氏がトランプタワーで過ごしたのはたったの20日間」(マー・ア・ラゴは99日間)だから、今後もうまく使い分けて各地に住むのではないだろうか。
「いい厄介払いだ」
ニューヨークタイムズ紙の記事に対して、ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏はトランプ大統領をタグ付けし、このようにツイートした。
ニューヨーク市のデブラシオ市長もこのように参戦。
デブラシオ市長の妻、マックレイ氏まで出て来る始末。
そうすると、翌日になってトランプ氏は再びツイートし、応酬合戦となった。
デブラシオ市長はこれに対して、
今回のツイッターで「ニューヨークへの愛」を強調したトランプ大統領。この街を愛しているのはメラニア夫人もそうだ。夫人は、トランプ氏が大統領に選ばれた際、息子のバロンくんの学校を「言い訳」に、しばらくニューヨークに居座るほどだった。
クオモ氏の言う高額の税金の信憑性について、ニューヨークタイムズ紙は「トランプ氏は自身のタックスリターン(確定申告)を発表したことがないため真偽は不明」としながら、ニューヨークは税金が高いことから「1010万ドル(10億円以上)を超える不動産に対して16%もの税金を徴収するため、この街から転居届を出すことは、トランプ氏の死後、相続する家族にとって大きな節税対策になる」。
これほど多額の節税となると、愛するニューヨークから遠く離れたフロリダ暮らしは、トランプ氏にとっても夫人にとっても、まんざらではないだろう。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止