新型コロナワクチンを接種したら、マスクは不要か？

呼吸器内科医

2021/5/30(日) 7:05

アメリカの現在

アメリカ疾病予防管理センター（CDC）は、2021年5月13日、ワクチンの完全な接種が完了した場合、公共の場では「その地域での法や規制によって必要な場合を除き、マスクを外しても問題ない」とする通知を出しました(1)。医療現場など特殊な状況を除いて、ワクチンを接種したアメリカ人が、実際にマスクを外している光景をニュースでもよく見かけます。

少し不思議に思ったのが、「ワクチンの有効性が高いことは証明されているものの、本当にマスク装着やソーシャルディスタンスを解除してもよいのだろうか？」ということでした。

ここでデータとして議論されるべきは、「ブレイクスルー感染」についてです。「ブレイクスルー」とは「突破」という意味です。「ワクチン打ったのに運悪く感染したじゃん」という不運なケースを「ブレイクスルー感染」といいます。忽那先生の記事が分かりやすいです。

■新型コロナワクチン接種後に新型コロナに感染した「ブレイクスルー感染者」の特徴とは（URL：https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210429-00235308/）

CDCの思惑の1つとして、ワクチン接種を迅速に進めたいがための「報酬」として使われている側面はあると思います。「マスクを装着しなくてよい」という「報酬」は、ワクチン接種に忌避的な人をも突き動かす効果があるようで、アメリカでも一時的に接種人数が急増しました。その他、宝くじや奨学金助成など、ありとあらゆる策を講じているのはさすがと言えます。

しかし、専門家の間からは「マスク装着を解除するのは、早計すぎる」という批判もあります(2)。それほど、CDCの勧告は意外だったのです。

アメリカにおけるブレイクスルー感染

2021年1～4月のアメリカにおいて、新型コロナワクチン接種を完了した人のブレイクスルー感染は10,262人だったと報告されました(3)。接種した人は1億人以上にのぼるため、率にするとわずか0.01％というまれな現象です。これは換言すると、新型コロナワクチンの有効性が極めて高いことも意味しています。

メッセンジャーRNAワクチンは、確かに有効性が高いワクチンですが、変異ウイルスに対しても効果が期待できるものの、少しだけ効果が落ちます。今回報告されたブレイクスルー感染の5％でウイルスのゲノム配列が判明しているのですが、約6割が懸念されている変異ウイルスであることが分かっています。

ゆえに、たくさんの人に新型コロナワクチンを接種しても、新型コロナウイルス感染症を発症する可能性はゼロにはなりません。

また、ワクチンを突破するブレイクスルー感染症は、集団免疫が収束に必要な水準に達していない場合、当然ながら増えます。プールで溺れないよう浮き輪をつけていても、津波が起これば溺水してしまいます。「ウイルスの拡がり」と「人流」の合わせ技は、なかなか強力なのです。

マスク装着やソーシャルディスタンスの解除は可能か？

個人的な意見ですが、新型コロナワクチン接種の有無にかかわらず、暑い夏場に無理をしてマスクを装着するのはよくありません。特に外を歩いているときや、人と接しないタイミングでは必要性は高くありません。マスク熱中症のリスクに注意してください。

それ以外の公共の場ではどうすべきか。全国民の半数くらいが新型コロナワクチンを接種して収束傾向にあるフェーズでは、マスク装着やソーシャルディスタンスを段階的に解除するという戦略は容認されるかもしれませんが、「ワクチン接種はまだまだこれから」という国において、しかも変異ウイルスが主体になりつつある状況では、ワクチンを接種した個人がマスクを取るという施策は、あまり積極的には勧められないように思われます。

私は新型コロナワクチンを接種したからどうこう、というレベルでの議論よりも、国全体での議論が大事だと思います。

厚労省は、「ワクチンを接種した後も、マスクは必要ですか」という問いに対しては、「ワクチンを接種した方から他人への感染をどの程度予防できるかはまだ分かっていません。引き続き、皆さまに感染予防対策を継続していただくようお願いします」「ワクチンを接種した方は、新型コロナウイルス感染症の発症を予防できると期待されていますが、ワクチンを接種した方から他人への感染をどの程度予防できるかはまだ分かっていません。また、ワクチン接種が徐々に進んでいく段階では、すぐに多くの方が予防接種を受けられるわけではなく、ワクチンを接種した方も接種していない方も、共に社会生活を営んでいくことになります。このため、引き続き、皆さまに感染予防対策を継続していただくようお願いします。具体的には、『3つの密』の回避、マスクの着用、石けんによる手洗いや手指消毒用アルコールによる消毒の励行などをお願いします」と明言しています(4)。