「幸せそうな1枚の写真」に隠された、北朝鮮の真実
北朝鮮の金正恩総書記は、先月末の大雨、洪水で甚大な被害を受けた平安北道(ピョンアンブクト)、慈江道(チャガンド)、両江道(リャンガンド)の被災者のうち、子どもやお年寄り、栄誉軍人(傷痍軍人)などを首都・平壌に招待すると明らかにした。
そして1万3000人あまりが15日に平壌に到着した。金正恩氏は、宿泊所の4.25旅館を訪れ、被災者を前にして歓迎の言葉も述べた。
人々が到着したことを知った平安北道のデイリーNK内部情報筋は、電話をかけて「本当に羨ましい」などと伝えた。すると、意外な答えが帰ってきて衝撃を受けたという。
「心も体も針のむしろに座らされているようだ」
食事は、北朝鮮で理想とされる「白米に肉のスープ」が出されるのだが、そのたびに「朝鮮労働党の愛と配慮に感謝する言葉」を述べさせられる。そして朝から晩まで政治学習や見学など、スケジュールがみっちりで、まるで軍隊のようだという。
ちなみに宿泊所として使われているのは4.25旅館に加え、軍事パレードのリハーサルを行う閲兵訓練基地だ。ここはかつてコロナの隔離施設としても使われていたところだ。
また、他の被災者、家族の置き去りにしてきたことへの負い目で夜も寝られないという。
「故郷でトウモロコシ粥をすすりながら暮らすのであっても、自分が復旧作業に参加する方が気持ち的に楽だ」(被災者)
心のなかではそう思っていても、平壌では幸せそうに暮らすことを強いられる。水害で土地、家屋、財産、家族を失った悲しみを表現すれば、金正恩氏の愛と配慮に背く行為として、下手をすれば処罰の対象となりかねない。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
ちなみに、北朝鮮メディアは17日、平壌のレジャープールで遊ぶ子どもたちの写真を公開した。本当に楽しそうではあるが、この子どもらは未曽有の「水害」から命からがら逃れてきたばかりなのだ。
本当に幸せなのではなく、「幸せであること」を強いられるのが、北朝鮮という社会だ。