北朝鮮で「生計型犯罪」が多発…食糧難で治安悪化
治安の悪化が伝えられる北朝鮮で先月、老夫婦が何者かに殺害される事件が起きた。捜査に当たっている安全部(警察署)は、今に至るまで容疑者検挙に至っておらず、市民の間では不安と不満が渦巻いていると、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
警察は反社会主義・非社会主義、つまり風紀の乱れや商行為などの取り締まりばかりに注力している。
(参考記事:北朝鮮女性を追いつめる「太さ7センチ」の残虐行為)
事件が起きたのは先月6日のことだ。首都・平壌から北に50キロほど離れた順川(スンチョン)で、70代の夫婦が殺害された。
食糧難の続く北朝鮮では、金目当ての窃盗、強盗が相次いでいると伝えられている。しかし、この夫婦は金持ちというわけではなかった。近隣住民は、その暮らしぶりについて、次のように述べた。
「細々と畑を耕して暮らし、困窮しているわけではなかったが、だからといって特に財産を持っているようには見えなかった」
そのことから町内では、「たかが作物目当てで殺人を犯したとすればあまりにも恐ろしい」との声が上がっている。深刻な食糧難のせいで、殺人事件の噂が頻繁に流れてくるが、最近では財産を狙ったものではなく、なんとか生き抜くための生計型犯罪が多く、殺伐とした空気が流れていると情報筋は伝えた。
順川市安全部は、前科のある者のリストを洗い直すなど捜査を進めているが、事件発生から1カ月半が経っても、容疑者の検挙はおろかこれといった物的証拠すら見つけられていない。ただ、「空き巣に入ったところに帰宅した夫婦に出くわして偶発的に殺害したのだろう」との推論を述べるばかりだ。
北朝鮮は、凶悪犯罪を犯した者を公開処刑するなど、恐怖を煽る形で犯罪防止に努めているが、生きるか死ぬかのギリギリの生活を送っている者に、果たして効果はあるのだろうか。統計が公開されていないため、正確な数は不明だが、殺人事件が相次いで起こっている。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
「市民を不安にさせる強盗や殺人には当局がすぐに対応してくれればいいのだが」との声も上がるが、「事件が起きてから、聞き込み捜査を行う程度」だとして、命を脅かす犯罪の横行に住民はいかに対処していいのかわからず、強い不安を感じていると、情報筋は伝えた。