「余計なことを」金正恩の"お気に入り"巡り庶民から不満
北朝鮮の金正恩総書記は今年9月6日、平安南道(ピョンアンナムド)殷山(ウンサン)にある呉振宇砲兵総合軍官学校を視察したと、国営の朝鮮中央通信が報じた。それから1ヶ月後にも再訪し、第75期卒業生の砲実弾射撃訓練を現地指導した。
記事では触れられていないが、金正恩氏がいたく気に入ったものがあった。それは「ドジョウ」だ。同校を視察した彼は、キャンパス内のドジョウ養殖場と、その周囲の干しドジョウを見て、同様の施設を全国にも多数建設して、ドジョウを軍部隊に供給せよと指示したのだ。これが住民の怒りを買っている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
平安南道の情報筋によると、順川(スンチョン)ではドジョウ養殖場の工事が始まった。工事に動員された市民は、朝鮮労働党順川市委員会の責任秘書(地域のトップ)を口汚く罵り続けているという。それは、彼が他の地域を押しのけて、順川にドジョウ養殖場を作ると言い出したからだ。その経緯は次のようなものだ。
金正恩氏の視察に随行していた幹部は、ドジョウ養殖場建設に関する指示を書き留め、平壌に戻ってから内閣水産省に伝え、党を挙げて大々的に展開するよう指示した。その後、水産省の養魚総局が朝鮮労働党の各道の委員会にドジョウ養殖場の建設に関する指示を出した。
それを受けて、朝鮮労働党平安南道委員会(道党)が会議を行った。
「道党は、南浦(ナムポ)にドジョウ養殖場を建設することにしていたが、市・郡党責任書記が集まった席で、順川市の責任書記が自分たちの力で養殖場を完成してみせると買って出たことで、順川で建設が進められている」
責任書記は、そんなときに下手に手を挙げれば、市民にしわ寄せが行くことがわかっているはずなのに、業績づくりのためか、「順川でやる」と買って出たのだ。市民が「余計なことをしやがって」と怒るのもごく当然もことだ。
別の情報筋は、順川市民が工事に動員されている様子を伝えた。
市民は、2カ月連続で大同江(テドンガン)の河原に毎日行かされ、無報酬労働を強いられている。商売をして現金収入を得なければ生活が立ち行かないのに、毎日、川に入って石拾いをさせられている人々は、水の流れに足を取られて転ぶたびに、「あのゴマすり野郎め!」と責任書記を罵っている。
中高生も授業が終われば河原に動員される。養殖場が完成したとしても、ドジョウは自分たちの食卓に届くことはないことを知っている人々は、「こんな幼い生徒まで動員するなんて、党は本当に『母なる党』なのか」と激しく罵っている。
ちなみにドジョウ養殖場は、2017年10月に完成したナマズ養殖場の隣で作られている。ここは金正恩氏が建設を指示し、自らも何度も視察に訪れている。しかし、完成後に順川市民の食生活が改善したとの話は聞こえてこない。
また、金正恩氏はその場の気分で指示を出すことがしばしばある。大同江スッポン養殖工場もその一つだが、停電で水質管理ができずにスッポンを死なせてしまった支配人が銃殺刑にされている。金正恩氏に関連するプロジェクトを行うと、このように地域に災いが起きるリスクが高まるのだ。
(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導)
そんな厄介なものを自ら誘致した責任書記は、市民からボロカスに言われても仕方ないだろう。
ちなみにドジョウは、伝統的な朝鮮のドジョウスープ「チュオタン」に使われる。水につけて泥を吐かせたドジョウを茹でた後にすりつぶし、白菜、ワラビ、里芋のツルを入れて煮たのので、エゴマ、サンショウ、ニンニクなどの香りの強いものを入れる。全く臭みがなく滋味深い逸品だ。