リトミックとは音楽を楽しみながら生きる力の基礎を学ぶ教育~元保育士パパが教える【リトミックのすすめ】
子育て中のお父さん、お母さん達の中には、お子さんに習い事をさせているという人が多くいるでしょう。中には「お子さんに何か習い事をさせようか?」「習い事をさせるには何がよいのかな?」などと悩んでいる人もいると思います。習い事にはスイミング、英語、サッカー、ピアノなどいろいろありますが、今日紹介するのは“リトミック”です。
残念ながらまだまだリトミックの認知度は低く、「リトミックって聞いたことあるけどよくわからない」「初めて聞いた」という人がたくさんいます。リトミックとは、一言で言うと“音楽教育”。しかし、音楽にはとどまらず、子ども達が本来持っている“潜在能力”の発達を促し、たくさんの能力を引き出したり身につけたりすることができる奥深いものです。今回はリトミックの魅力や効果について解説しましょう。
リトミックとは
私はリトミック指導者の資格を取得しており、リトミック講師としても活動しています。「リトミック講師をしています」と自己紹介すると、「リトミックってなんですか?」と聞かれることがよくあるのですが、そのたびになんと答えるのが1番よいのか迷い、困ってしまうのです。なぜかというと、リトミックを一言で説明するのが非常に難しいから。リトミックを一言で言うと“音楽教育”ですが、それだけではリトミックの素晴らしさを伝えることは到底できません。音楽教育でありながら、音楽教育と一言で言い表せない奥深さがあるからです。
リトミックとは、スイスの音楽教育家であり作曲家のエミール・ジャック=ダルクローズ(Emile Jaques‐Dalcroze 1865~1950)が考えだした音楽教育法。音楽を学ぶものですが、楽器の演奏法を学んだり楽譜を使ったり理論を教えるのではなく、身体を使って体験するということが特徴です。音楽教育と言っても、身体を動かす活動がたくさんあります。年齢が高くなってくると音符を学んだりもしますが、最初はピアノの音に合わせて挨拶や返事をしたり、身近な動物や食べ物、動作などの模倣遊びをしたりすることで、「強弱」や「テンポ」「音の高低」などの音楽のニュアンスを、自然に身体で覚えていくのです。この自然にというところが大きなポイントです。楽譜を使ったり理論を教えたりしようとしても、音楽が苦手な子にとっては理解することが難しいですが、音に合わせて楽しく活動しているうちにいつのまにか身体で理解することができているのです。
ピアノを弾いたことがある方は、片手ずつだと上手に弾けるのに両手一緒に弾こうとすると途端に難しくなって苦労した経験があるのではないでしょうか。しかし、リトミックでは身体で音楽を表現したり、口(言葉や歌)・手の動作・足の動作を別々に行ったりすることで音感が身体に育まれるので、右手と左手の別々の動きに対応したり、複雑なリズムを弾きこなしたりできるようになります。したがって、ピアノを習うときに最初からピアノ教室に通う子よりもリトミック教室でリトミックを体験してからピアノ教室に通い始める子のほうが断然上達が早いと言われているのです。
リトミックを“ダンス”や“お遊戯”のようなものだと思っている人も多くいます。確かに音楽を使って身体を動かすというところは一見似ているように感じますが、リトミックとダンスは大きく違う点が1つ。ダンスや遊戯は1つの曲に合わせてみんなが同じ動きをするのに対し、リトミックは自由なのです。リトミックにも振りを覚えてダンスを踊る活動はありますが、人前で発表するための踊りではなくリズムや拍子などを身体で感じて理解する目的の踊り。また、リトミックでは曲が即興的に変化し、曲の変化を聴き分けて動きも変化させるというような活動があり、みんなが決まった動きをするのではなくて、音楽を聴いて自分が感じたことを自由に表現するというような活動もたくさん行うのです。
リトミックの効果とは?
リトミックは音楽教育ですが、音楽だけではないさまざまな能力が身に付くものだとお伝えしました。では、さまざまな能力とは具体的にどんな能力でしょう。
活動内容はとても多いので全部紹介することはできませんが、いくつか具体的な活動内容を紹介するとともに、リトミックを通して身に付くさまざまな能力について解説します。
【即時反応】
集中力・反射神経・我慢する力・判断力・思考力・実行力・行動力
リトミックには、“即時反応”と呼ばれる活動がよく出てきます。即時反応とは、言葉通り“音に即座に反応する”ということ。たとえば、「ピアノに合わせて歩き、ピアノが止まったらすぐ止まる」「ピアノが速くなったら走り出す」などの活動があります。子ども達はいつ止まるかわからないドキドキ感を楽しみながら、音が止まったら自分もすぐに止まることができるよう非常に集中してピアノの音を聴くので集中力が養われます。音が止まったらすぐ止まることで、反射神経が伸び、まだまだ歩きたくても音が止まったから止まることで我慢する力も育まれるでしょう。
そのほかにも、即時反応はさまざまな形に応用が可能。「高い音が鳴ったら上に向かってジャンプする」「低い音が聴こえたら床に手をつく」などの活動を通して、音の高低を理解します。ほかにも「ピアノがいろいろなリズムパターンを演奏し、そのリズムパターンに合わせてステップし、リズムが変わったら即座にステップを変えるだけではなく進む方向も変える」「途中で音楽の拍子が変わったら同じように変えることで、拍子を感じて理解する」など、集中して音を聴いたり動作したりすることで音楽の理解が深まるのです。同時に、「○○の音が聴こえたら○○をする」ということを言葉の指示ではなく、自分で「音を聴き分ける」「音の種類を判断する」「動作を考える」「実行する」という段階を全て1人で行うため、判断力や思考力、そして行動に移すことで実行力や行動力の基礎も培われていくでしょう。
【模倣遊び】
表現力・想像力
リトミックでは、模倣遊びを通して音楽のニュアンスなどを体験し、学ぶ活動が数多くあります。主な例は以下の通りです。
・動物の模倣遊び
音符の種類を体験し、理解する活動。リスやネズミなどの小動物の速い動き→八分音符(走る速さ)、ウサギやタヌキなど跳んだりお腹の太鼓を叩いたりする動き→四分音符(歩く速さ)、ゾウやクマなどの大きな動物の動き→二分音符(ゆったりとした速さ)をピアノに合わせて楽しむことで、3つの音符の長さを身体で理解します。
・乗り物の模倣遊び
自動車、バス、電車、遊園地など身近な乗り物の模倣遊びを行い、ピアノに合わせて動くことで速度の変化(段々速く、段々遅く)を体験したり、カーブ、ガタガタ道、トンネルなどいろいろな動作を楽しんだりできるのです。
・動作の模倣遊び
お茶を運んだりテーブルを拭いたりするお手伝い、アイロンや洗濯機などの電化製品、大工さんや靴屋さんなどのお仕事、おにぎり、サンドイッチ、ケーキ作りなどのお料理などさまざまな動作の模倣を楽しみながら、音符や拍子の違い、リズムパターン、音の高低など音楽のニュアンスをたくさん体験します。
模倣遊びは、自分の中で動物や乗り物、動作のイメージを広げることで想像力を育むことが可能です。そして、表現の仕方は自由。みんなが同じ動作をするのではなく、自分が好きな動作を自由に表現することで、表現力も伸びていくでしょう。もちろん、模倣遊びの中でも即時反応を取り入れることで、集中力や反射神経などを伸ばすことも可能です。
【グループ活動】
社会性(コミュニケーション能力)・協調性
低年齢の子どもは親子一緒にリトミックに参加し、親子でたくさんふれあうことで絆が深まります。子どもだけで参加できる年齢になると、2人組や3人組を作ったり全員で輪になったりして行う活動もたくさん。仲がよい子同士だけではなくて、近くにいるお友だちと手をつないだりパートナーを交替しながら行ったりするので、いろいろな子ども同士でふれあうことができるのです。そして、一緒に活動することで、相手に合わせたり協力し合ったりできるようになり、社会性や協調性が伸びていきます。
まとめ
リトミックの1番の目的は“体験して学ぶこと”です。決して上手にできるようになることが目的ではありません。音楽が好きな子や得意な子はどんどん音楽的力が伸びていきますが、苦手な子も音楽の楽しさを感じ、少しずつ音楽の力が身についていくでしょう。そして、音楽以外のさまざまな力も同時に育まれていくのです。
リトミックには身体を動かす活動だけではなく、座ってする活動も数多くあります。また、文字や数字に興味を持ったり、工作を取り入れたりするなどバリエーションが豊富。音楽をベースに、たくさんの要素が体験できるのも魅力の1つ。
そしてリトミックの“即時反応”をたくさん体験することで、“即興力”が身に付きます。人生には予想もしなかった出来事がたびたび起こりますが、リトミックで培われる即興力は突然の事態にも慌てず、臨機応変に対応できる力に通じるはずです。生きるために必要な力の基礎が培われるリトミックを、ぜひ体験してみませんか?