「独裁」が文在寅派を巡る最新キーワード。批判に対し「殺人者」「そっちこそが独裁」など熾烈な反論も
”支持率低下”がたびたび日本でも報じられる韓国の文在寅大統領。
ところが、実際の韓国政界での”トレンド”は違う点にある。
「独裁」
今月10日に壮絶な出来事があった。大統領派の革新系与党「ともに民主党」が、新たな捜査機関「高位公職者犯罪捜査処(公捜処)」の設立改正案を可決。
この新機関のトップ人事推薦の際、「野党側の拒否権」を認めない内容が織り込まれていたため、保守系野党の「国民の力」が猛反発した。
翌11日に同党の国会議員58人全員が「国会議論において”フィリバスター”という手段に出る」ことを発表したのだ。国会での討論(質問)を延々と長い時間やり、抗議の意を伝えるというもの。かつて日本でも見た牛歩のように「時間をかけて注目を集める」いう手法だ。
これを公表した会見で、保守政党の議員たちはこう意気込んだ。
「文在寅独裁を止め、自由民主主義を回復する」
また13日に今年4月の選挙で落選した保守系の元国会議員で、国民の認知度が高いナ・ギョンウォン氏が13日に会見を開き、より強い言葉を発した。
「180議席が独裁の免罪符と勘違いするな」「ブレーキのない暴走をしている」
文在寅大統領の支持率低下を巡る話題として、上記の「公捜処」法案成立での経緯や不動産政策の失敗、法相と検察の摩擦などは他でもすでに報じられている。
「独裁」。ここでは最新キーワードの背景を。韓国の関連ニュースを日々ウォッチングしていくなかで、対日関係も連想させる話が出てきて興味深くもあった。
8月15日の「反対派のデモに介入」から始まる
事は「別件」から始まっている。
上記の捜査機関設立改正案のくだりとは違う「弾圧」を想起させる話だ。
今年8月15日の「光復節」の保守派デモに対し、政権サイドが中止勧告を出した。
理由は「新型コロナによる感染拡大防止」だった。
にもかかわらず数万人規模のデモが行われた。保守派によるいわば「反文在寅デモ」だった。これに対し「体制側」たる警察は、バスを集団の間に挟み、阻止しようとしたのだ。
(8月15日のデモの様子。確かに”密集にバス”が見える。感染を考えると保守派のやりすぎにも見えるが… 地上波「MBC」公式アカウントより)
11月5日の韓国国会では、保守系野党「国民の力」のパク・デチュル議員が「バスでの阻止」の写真を掲げながら質問を行った。
「”文在寅の城”を見るに、鳥肌が立ちます。警察がバスで押し出し、集会の参加者たちをコロナの巣窟に押しやっているのです(つまりより「密」の状態にしている)」
「政府の立場からすれば、そもそもその場に来てほしくなかったのでしょうが、すでにその場にいた国民までを押しやり、感染の危険度を高めていいのでしょうか」
これに対し、回答者の大統領側の「古株」ノ・ヨンミン大統領秘書室長は激昂。こう答えた。
「不法の集会に参加した人を擁護するものではないか」
「許可されていない集まりのせいで経済成長率だけみても0.5%下落する要因になった」
さらに
「光化門デモ(保守派デモ)の主導者は殺人者」
とさえも。これにはさすがに現場にいた与党側からも「やめてください」との声が挙がっていたようだが。
デモのせいで「経済成長鈍化?」
事態はこれに収まらなかった。
11月9日、韓国大統領府「青瓦台」のイ・ホスン経済首席がメディアとのインタビューでなんと、ノ大統領秘書室長の激昂発言を肯定する内容を口にしたのだ。
「8月15日の(保守派)デモがGDP成長率を0.5%減少させた。それがなければ3分期GDP成長率は2.4%まで可能だったのに」
4日前の「問題発言」のうち、「デモのせいでGDP成長削減」の点を蒸し返して強調するかたちとなった。
このイ・ホスンという人物も昨年6月に韓国大統領府である青瓦台の経済首席に任命され、それまで企画経済部、経済政策局長など主要なポストを務めたなかなかの”文派”だ。
これにまず、「朝鮮日報」が11月11日の記事を通じて痛烈な批判を加えた。
「GDPを政治化した経済首席」
別の保守派議員「8.15デモでの感染者が国家経済を揺るがせた? ありえない」
保守派による批判の動きは国会に続いた。
11月15日、保守系野党第一党の「国民の力」所属で、2015年から2017年まで統計庁長を務めたユ・ギョンジュン議員が「そんな理由ではない」と”ガチ”に噛み付いた。
つまり、急落の反動でプラスに作用する現象が半年(4月から9月)も続くわけがない、という主張だ。前政権でのそれも実務経験者による。
さらに同議員はある「取材結果」を明らかにし、現体制側の「弾圧」を責め立てた。
「疾病管理庁に問い合わせたが、8月15日のデモ関連での感染者は2次~3次感染を含めても650人だったという。650人のせいで国家の経済成長率が由来だというのは常識的に考えても話にならない」
”抗議”の前日には…左派のデモが行われる
いっぽうの文在寅大統領派たる「ともに民主党」側も黙ってはいない。
じつは、その日の前日11月14日にはなんと革新系・左派の「全国民主労働組合総連盟」のデモが行われていたのだ。
もちろん、政権側も”味方”に対して、「感染者が発生した場合、あらゆる責任を負わねばならない」と強く警告したとしている。しかし…8月15日の保守派デモのような「バスを投入し密集を断つ」といったような強い行動には出なかった。
(11月14日のデモの様子。保守メディア「朝鮮日報」は「感染が広まっているのに大丈夫か?」としたが…8月15日のデモに比べ、遥かに小規模にも見える…)
また12月10日には左派メディア側が強い反応を見せた。独裁を訴える右派に対して、「ハンギョレ新聞」のソン・ハニョン専任記者がこう言い切ったのだ。
保守70年、革新ここ4年
関連のニュースを日々チェックしていて、12月13日の夕方、韓国メディア「YTN」の記事が興味深かった。
「誰が蜜を吸っている? 民主党・国民の力”独裁”論争」
ここで、同媒体はそもそもの韓国政治史の基本を振り返った。なぜこうなっているのか。いま一度、振り返っての理解が必要なほどに事態は深刻なのだなだと感じさせた。
「保守政党は70年という長い期間、韓国政治の主流の役割をしてきました。民主政党は最近4年間の新主流として浮上しています」
日本からの解放後、自由党、朴正煕政権時代の民主共和党、全斗煥時代の民主正義党、続いての新韓国党、ハンナラ党、セヌリ党の保守政党が70年に渡り韓国政治を「支配してきた」と。
「しかし、2016年から流れが変わり、この年の総選挙で革新系の民主党が国会での第一党に。さらに2017年の大統領選挙で同系の文在寅大統領が就任。さらに2020年の総選挙でも圧勝。全国他院位の選挙で”4連勝中”なのです」(同メディア)
70年耐えてきて、ここ4年でようやく主流に。
その間の思いが、マグマのように噴火・暴発している状態というべきか。これは2017年の文在寅政権就任後、日本にもベクトルが向いてきた。
「最も憎い保守勢力の背後にいる日本」として。今年春から8月に度々報じられた「親日派墓暴き」の話などがこの流れの一環だ。
ここ数ヶ月は、国内にベクトルが向いていて「独裁」と言われるほどの状態を作っている。それにしても「反対派のデモで国家の経済成長が鈍化」とは…。