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新たな変異株の流行に備える 3回目接種を急ぐべき対象は?

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:ロイター/アフロ)

国内における新型コロナウイルスの流行は、昨年の春以来の小康状態となっています。しかし、世界に目を向けると、欧米諸国では感染が拡大しており、お隣の韓国も過去最多の流行となっています。

いずれ第6波は到来するものとして、私たちは準備をしておく必要があります。そんな矢先、南アフリカにおいて新たな変異株が確認されました。WHOは「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern)に位置づけています。

オミクロン株の感染力や病原性は、まだ明らかではありません。ただ、30を超える変異があり、とくにワクチンが作用する部位であるスパイクタンパク質に集中していることから、ワクチン効果を低下させる"可能性"が懸念されています。

さらに、デルタ株が広がっている地域で置き換わったことから、デルタ株よりも感染力が強い"可能性"が指摘されています。一方、現時点では、重症度が増したとの報告はなく、特徴的な症状があるとの指摘もありません。

このオミクロン株は、すでに世界に拡大している可能性があります。南アフリカで発見されていますが、周辺のアフリカ諸国などシークエンスを同定している(変異株かどうかを調べている)国は限られています。11月29日時点で、アフリカ諸国のほか、イギリス、ドイツ、カナダ、イスラエル、香港など、12の国と地域で確認されています。

世界的に株価が急落したように、経済は何が起きるかを見通しているかのようです。岸田総理は、外国人の新規入国を原則停止するなど迅速に判断しましたが、同様の検疫対応でアルファ株、デルタ株が国内に入ったことを振り返れば、オミクロン株が世界的に拡大するのであれば、いずれは日本に入ってくることは避けられないでしょう。

これからクリスマスと年末年始の休暇に向けて、人の移動が活発になります。都市部では年末から、地方では帰省客を迎えたあとの年始から、第6波を迎える可能性が高いと考えられます。そして、今年の冬は長くなるかもしれません。

さて、いろいろと議論のある3回目のワクチン接種のタイミングですが、いま、オミクロン株流行の可能性を踏まえて、可能な限り早めに追加接種すべきだと考えます。すべての高齢者に接種しなくても良いので、せめて、医療従事者、介護従事者、そして要介護高齢者(とくに施設入所者)について準備いただければと思います。

なぜ、早期の3回目接種が望ましいのか・・・? それは、初夏までに接種を終えている高齢者では、ワクチン効果が減少してきており、第5波のように感染から守られなくなっているからです。

ワクチン(ファイザー社)の接種後経過における有効性について、300万人以上が参加した米国における大規模研究があります。その結果では、接種後1ヶ月までの発症予防効果は88%でしたが、5ヶ月後では47%にまで低下していました(図1)。ただし、入院予防効果については維持されていました(図2)。

Sara Y Tartof, et al. Lancet . Published:October 04, 2021. をもとに筆者作図
Sara Y Tartof, et al. Lancet . Published:October 04, 2021. をもとに筆者作図

Sara Y Tartof, et al. Lancet . Published:October 04, 2021. をもとに筆者作図
Sara Y Tartof, et al. Lancet . Published:October 04, 2021. をもとに筆者作図

ワクチンを2回接種してから半年が経過すると、感染そのものを防ぐ効果は低下してきますが、重症化を防ぐ効果は保たれているということですね。すなわち、ワクチンを2回接種すれば、一時的に感染予防効果は得られますが、主たる目的は「長期に重症化を予防すること」にあると考えます。一方、3回目を追加接種する目的とは、「低下してしまった感染予防効果を一時的に回復させること」と考えます。

医療・介護従事者は、高齢者や基礎疾患のある方のケアに関わっているため、重症化しなければ良いのではなく、感染そのものを防ぐことが必要です。実際、ほとんどの院内感染や施設内感染は、職員によって持ち込まれて拡がっています。また、職場感染が生じると、容易に人手不足に陥って、医療・介護崩壊の要因となりかねません。このため、3回目の接種を急ぐ必要があります。

要介護高齢者については、衰弱しているために感染と重症化、死亡が紙一重の方が少なくなく、やはり3回目の接種によって感染そのものを回避すべきです。とくに、高齢者施設では集団感染が引き起こされ、ブレイクスルー感染であっても多くの死亡者を出すことがありました。また、軽症のままであったとしても、介護者がケアを続けることが困難となるため、医療機関へと搬送されてきます。そのまま体力を低下させて長期入院になることも多く、医療ひっ迫を加速させかねません。

この3回目接種の前倒しについては、市町村に丸投げしていても実現しえません。公務員が頑張ればすむことではなく、医療従事者の協力が不可欠だからです。ロジスティックを確認することなく、無理矢理に前倒しだけを決定すると、相当な混乱が生じるでしょう。このことから、厚労省も、自治体も、原則8ヶ月にこだわっているようです。

ただ、これまでの経験から、国内で流行が起こりやすいのは1月と8月です。来年の2月や3月に接種したとしても、その一時的に回復する感染予防効果は(3回目接種の有効期間は不明ですが、おそらく)8月には半減していくでしょう。「低下してしまった感染予防効果を一時的に回復させること」を目的とするなら、流行が起こりやすいタイミングを見計らって、その直前に接種するべきです。

まさにいま、事態は刻々と進んでおり、オミクロン株は世界へと拡がり始めています。結果的にオミクロン株の世界的流行が回避されたとしても、この冬に第6波が生じることは予測されています。その流行が起こる前に、リスクの高い人たちへと3回目を接種すべきことは明白です。

いまは、正常性バイアスに陥らないことが重要です。また、あまり横並びにこだわりすぎないようにしてください。地域の医師会や医療機関の協力により接種できる体制がとれた市町村から、医療・介護従事者、要介護高齢者に対して接種を順次開始すべきです。有事なので、できるところから始めましょう。

最後に・・・

まだ1回も接種を受けていない方は、この機会にぜひ2回の接種を完了してください。3回目接種の話を長々としましたが、2回の接種を終えて重症化を予防することの方が個人レベルでは重要です。市町村も、3回目接種に気をとられすぎず、未接種者のキャッチアップを忘れないでください。

最近、当院に入院されてくる感染者の方々には、「きっかけがなくて接種していなかった」と言われる方が少なくありません。そして、苦しい思いをされて、接種しておけば良かったと後悔しておられます。

とくに、年末年始に帰省者を受け入れる予定となっている高齢者の皆さん。ワクチン接種を受けておられないのでしたら、ぜひ、早めに1回目の接種を受けるようにしてください。2回目の接種は3週間後ですから、年末に差し掛かかろうとしています。

つまり、いまがギリギリのタイミングなんですね。周囲からの声かけ、きっかけ作りもよろしくお願いします。

【参考文献】

1) Nature NEWS, 25 November 2021.

2) 国立感染症研究所:SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統について(第1報) 2021年11月26日

3) Sara Y Tartof, et al. Lancet . Published:October 04, 2021.

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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